石油の自主開発はどこまで機能したのか ホルムズ危機で見えた成果と限界

日本の石油安全保障は、2026年春のホルムズ海峡危機で現実の試験を受けた。

経済産業省は2026年2月17日、2024年度の石油・天然ガスの自主開発比率が42.1%と、前年度から4.9ポイント上昇したと公表した。一方で、3月24日には中東情勢を受けて国家備蓄原油の放出を決めている。比率の改善と緊急放出が同時に起きたことで、石油の「自主開発」がどこまで機能したのかが改めて問われている。

結論を先に言えば、自主開発は一定の調達余地を生んだ可能性があるが、それだけで安定供給を担保できる仕組みではない。今回見えたのは、権益の有無だけでなく、どのルートで日本まで運べるかが決定的に重要だという現実だ。

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自主開発は「権益の確保」であって国内生産ではない

石油の自主開発とは、日本企業が海外の油田やガス田に出資し、生産分の一部を引き取る権利を持つことを指す。通常の市場調達より有利な立場を得やすく、有事に調達交渉の余地を持てる点が政策上の狙いだ。

ただし、これは日本国内で石油を掘っているという意味ではない。あくまで海外の資源権益を通じて供給源を押さえる仕組みであり、輸送や製油の問題まで自動的に解決するわけではない。

経産省は第7次エネルギー基本計画で、石油・天然ガスの自主開発比率を2030年度に50%以上、2040年度に60%以上へ引き上げる目標を掲げている。2024年度の42.1%はその途中経過としては前進だが、この数字だけで有事対応力まで測れるわけではない。

今回の危機は「海峡に依存する脆さ」を突きつけた

国際エネルギー機関(IEA)によると、ホルムズ海峡経由の石油輸出は2025年通年で約19.87百万バレル/日と、世界の海上石油貿易の約25%を占めた。ところが2026年4月上旬には、同海峡を通る原油・液化石油ガス・石油製品の積み出し量が、危機前の2,000万バレル/日超から約380万バレル/日まで落ち込んだ。

日本への影響も小さくなかった。経産省は3月24日、「原油タンカーがホルムズ海峡を事実上通れない状況が継続する中、3月下旬以降、中東から我が国への原油輸入は大幅に減少している」として、国家備蓄原油の放出を決めた。危機は数字の上でも、政策対応の上でも現実のものだった。

迂回ルートを持つ権益は意味があった

それでも、自主開発が全く無力だったとは言い切れない。IEAによると、サウジアラビア西岸向けパイプラインやUAEフジャイラ向けパイプラインなど、ホルムズ海峡を迂回できる代替ルートには一定の余力がある。

日本企業が関わる権益の中にも、こうした海峡外ルートにつながる案件がある。INPEX(東証プライム:1605)が権益を持つアゼルバイジャンのACG油田は、BTCパイプラインを通じてトルコの地中海岸ジェイハンへ原油を運べる。カザフスタンのカシャガン油田も、ホルムズ海峡を通らない輸送網に接続できる権益として位置づけられる。

今回の危機で重要だったのは、単に権益を持っているかではなく、海峡外へ逃がせる輸送路と組み合わさっているかだった。自主開発の価値は、権益の量だけでなくルート設計で大きく変わる。

比率42.1%をそのまま実力とみるのは危うい

もう一つ注意したいのは、自主開発比率の読み方だ。経産省は2024年度の比率上昇について、石油・天然ガスの輸入量が減少したことに加え、権益を持つ引取量が増加したことなどを要因に挙げている。

つまり、42.1%という数字は「権益からの調達力が大幅に増えた」と単純には読めない。分母である輸入量が減れば比率は上がる。比率改善は政策の一つの成果ではあっても、それだけで有事の供給能力を示す指標ではない。

さらに、今回の危機局面で自主開発由来の供給が実際にどれだけ日本の輸入を下支えしたのかは、経産省の公表資料だけでは外部から定量的に検証しにくい。政策評価として本当に必要なのは、比率の上昇そのものではなく、危機時に何万バレル分の調達余地を生んだのかという実効性の開示だ。

会計検査院も以前から輸送制約を問題視していた

この弱点は、今になって突然見つかったものではない。会計検査院は2018年の報告で、石油の自主開発権益のうち相当部分が湾岸諸国にあり、チョークポイントを通れない事態では日本への持込みに重大な制約が生じると指摘している。

報告では、パイプラインで外洋に持ち出せる分を除いても、湾岸諸国にある権益が自主開発権益量全体の約4割を占めるとしていた。権益があっても輸送経路が詰まれば、緊急時の持込み努力義務やスワップの実効性まで揺らぐ。今回の危機は、その論点を現実の問題として浮かび上がらせた。

問われるのは「成功か失敗か」ではなく組み合わせだ

自主開発を成功か失敗かの二択で評価するのは適切ではない。海峡外ルートにつながる権益や、平時からの資源外交・関係構築は、有事に一定の交渉余地を生む。一方で、中東依存の高さ、輸送路の脆さ、製油所に適した油種を確保できるかという問題は残る。

必要なのは、自主開発を単独の切り札として語ることではない。備蓄、調達先の多角化、産油国外交、精製体制の維持、需要抑制策まで含めて、どの手段が危機時にどこまで機能したのかを積み上げて検証することだ。

比率42.1%という数字は、政策の進捗を示す一つの目安にはなる。しかし、今回の危機が教えたのは、権益の量だけでは石油は届かないということだ。日本の石油安全保障に必要なのは、比率の上昇を祝うことよりも、輸送ルートまで含めた実効性を可視化し直す作業である。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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