イランの衝撃はなぜポリ袋と食用油に届くのか

中東情勢の緊迫化が日本の家計に波及する経路は、ガソリン価格だけではない。包装資材、食用油、漁業燃料、住宅設備は、それぞれ別の回路で影響を受けている。生活に近い場所で起きているのは、原油高そのものというより、石油由来原料の供給不安と物流の混乱、さらにバイオ燃料需要の高まりが重なった結果だ。

台東区の包装資材商社ではテープやフィルムの値上げとポリ袋の購入制限が始まり、和歌山では漁船用の重油確保が難しくなって操業日数を減らす漁協が出た。食用油大手も4月改定に続き、6月納入分の追加改定を打ち出している。イラン情勢の影響は、日本ではすでに生活に近い場所へ届き始めている。

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「原油高」と「ポリ袋高」はどうつながるのか

石油はガソリンだけでなく、プラスチックやフィルム、接着剤、合成ゴムなど日用品の原料でもある。その出発点となる中間素材がナフサだ。ポリ袋、レジ袋、梱包テープ、住宅設備に使う樹脂部材まで、ナフサを源流とする製品は幅広い。

4月14日、木原稔官房長官は、ナフサは日本全体として必要量を確保できているとの認識を示したうえで、一部で供給の偏りや流通の目詰まりが起きていると説明した。起きているのは国全体の絶対量不足というより、必要な原料が必要な企業に必要なタイミングで届かないという供給網の乱れだ。

その影響は現場に出ている。NHKが4月21日に報じたところによると、包装資材専門商社のシモジマ(7482)はテープやフィルムなど約280品目を値上げし、ポリ袋やレジ袋には購入制限も設けた。今後はレジ袋やゴム手袋、プラスチック製スプーン、コップなどでも値上げを予定しているという。

食用油はなぜ上がるのか

食用油は、石油化学製品とは別の経路で押し上げられる。大豆やトウモロコシ、パーム油は食品にも燃料にも使えるため、原油高になると各国がバイオ燃料の利用を増やしやすくなり、同じ農産物をめぐって「食用」と「燃料用」が競合する。この構図が植物油の相場を押し上げる。

日清オイリオグループ(2602)は4月20日、家庭用、業務用、加工用食用油を6月1日納入分から追加改定すると公表した。改定幅は家庭用が11〜15%、業務用と加工用食用油バルクが17〜21%で、同社はバイオ燃料向け大豆油需要の拡大に加え、原油高を起点とするエネルギー費、物流費、包装資材費の上昇を理由に挙げている。

J-オイルミルズ(2613)も3月5日公表のリリースで、4月1日納品分から家庭用油脂製品を9〜14%、業務用と加工用油脂製品を7〜11%改定するとした。あわせて、中東地域の地政学リスクの高まりを受けて、原油や主要原料を含む商品市況が不安定化し、追加改定が必要になる可能性にも言及している。

国際市況も同じ方向を示している。FAOが4月3日に公表した3月の食料価格指数は前月比2.4%上昇し、植物油指数は前月比5.1%上昇した。FAOは、原油高を受けたバイオ燃料需要の強まりが植物油価格を押し上げていると説明している。日本の食用油値上げは、企業の価格改定と国際市況の上昇が重なった結果として見るのが自然だ。

漁業では「高い」より先に「買えない」が起きる

和歌山県によると、県内20の漁協のうち6漁協で、漁船燃料となる重油の確保が難しくなり、操業制限が始まっている。有田市の有田箕島漁協では、通常どおり週5日の操業を続けた場合に今月下旬にも重油が枯渇する可能性があるとして、4月12日から週2日への操業制限を実施した。対象となる漁船は100隻あまりに上る。

4月21日に開かれた県の緊急対策会議では、漁業者から燃料の早期確保を求める声が相次いだ。ここで問題になっているのは、価格高騰だけではない。調達そのものが滞ると、漁獲量だけでなく、地域の水産業や食品供給の安定性にも影響が及ぶ。

住宅設備は「再開」と「不安」が同時に進む

住宅設備メーカーでも混乱は続いている。ロイターによると、TOTO(5332)は4月16日までに、システムバスとユニットバスの新規受注を20日から段階的に再開すると発表した。一方で、部材の安定確保に向けた対応は継続中だとしている。

クリナップ(7955)も4月21日付の案内で、4月15日から見合わせていたシステムバスルームの新規受注を4月22日から再開すると発表した。ただし、納品日ごとに受注量を確認しながら納期回答を行うとしており、注文集中時には納期調整の可能性を残している。

LIXIL(5938)は4月10日付の案内で、中東情勢の緊迫化に伴い、石油由来の樹脂やアルミニウムなどのコスト上昇、生産活動への影響が出ていると説明したうえで、価格、納期、数量などの供給条件を調整する可能性があると明記した。住宅設備は「一部再開」で落ち着いたというより、「供給不安が残るなかで受注を回し始めた」と見るほうが実態に近い。

原油高は別々の経路で生活へ届く

ポリ袋、食用油、漁業、住宅設備は一見ばらばらの話に見えるが、背景には同じ中東情勢の緊迫化がある。ただし、家計に届く経路は一つではない。石油化学原料の流通網を通る経路もあれば、バイオ燃料を経由した植物油相場の経路もある。さらに、重油の現物調達が止まることで一次産業に直接響く経路もある。

現時点で全国一律の深刻な品不足に至っているわけではない。それでも、価格改定と供給調整が同時進行している分野はすでに出ている。イラン情勢の影響を読むうえでは、原油価格の数字だけでなく、それがどの回路を通って生活コストに波及するのかを見るほうが実態に近い。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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