軽油カルテル5社起訴 補助金9兆円の時期に何が起きていたのか

東京地検特捜部は2026年4月17日、東日本宇佐美、ENEOSウイング、エネクスフリート、キタセキ、共栄石油の5社を独占禁止法違反の罪で起訴した。同日、公正取引委員会も5社を刑事告発した。問題となったのは、東京都に交渉窓口がある運送業者向け軽油の販売価格だ。政府が燃料価格対策として巨額の補助金を続けていた時期に、流通段階で競争がゆがめられた疑いが浮上した。

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飲食店で何が合意されたのか

公正取引委員会の告発資料によると、5社などの担当者は2024年10月24日ごろ、11月20日ごろ、12月20日ごろに東京都内の飲食店で会合を開き、運送業者向け軽油の販売価格について合意したとされる。

10月は前月比で1リットル当たり2円の引き上げを目標とし、少なくとも仕入価格と手数料の上昇分を販売価格に転嫁する内容だった。11月は前月の価格維持を目標とし、値下げする場合も少なくとも仕入価格の下落分までに抑えるとされた。12月は前月比2.5円の引き上げを目標とし、少なくとも仕入価格の上昇分を転嫁する内容だった。

当初は8社が公取委の強制調査を受けたが、最終的な刑事告発と起訴は5社に絞られた。3社と担当者個人については起訴が見送られており、捜査当局は役割などを総合考慮したとしている。

行政処分ではなく刑事事件になった

独占禁止法違反では、通常は課徴金納付命令や排除措置命令などの行政処分が中心になる。今回は公取委が刑事告発に踏み切り、検察が起訴した。価格カルテルの中でも重い案件として扱われたことになる。

カルテルは、本来なら競争すべき企業同士が価格や販売条件を事前にそろえる行為だ。今回の事案では、運送業者向け軽油について、値上げ幅や値下げ幅の目安をそろえた点が問題になっている。現時点は起訴段階であり、有罪かどうかは今後の公判で争われる。

運送会社にとって軽油価格は死活問題だ

NHKが取材した東京都東久留米市の運送会社では、起訴された東日本宇佐美やエネクスフリートから軽油を購入してきたという。5年ほど前には1リットル80円台だった軽油が、カルテルが結ばれていたとされる2024年には120円台に達し、燃料費の負担は安い時期と比べて月200万円以上、年間2000万円以上増えたとしている。
出典:NHK記事

この会社は3つの営業所で計150台のトラックを持ち、毎月6万リットルから8万リットルの軽油を使う。価格上昇の影響はすぐに経営を圧迫する。業界団体は、軽油価格が1円上がると業界全体で150億円近いコスト増になると説明しており、運賃への転嫁が難しい中小事業者ほど打撃を受けやすい。

都内を中心に約1500社が加盟する東京都トラック運送事業協同組合連合会は、長年にわたり東日本宇佐美と軽油価格の交渉を行ってきたとされる。こうした交渉の目安になる価格がゆがめられていたとすれば、影響は一部の契約先だけにとどまらない。

なぜ補助金の時期が論点になるのか

政府は2022年以降、燃料価格の高騰を抑えるため、石油元売り会社に補助金を支給してきた。資源エネルギー庁によると、ガソリン分と軽油分を合わせた支援の累計は9兆円近い。

ここで重要なのは、今回起訴された5社が補助金の支給先である元売りそのものではなく、運送業者向けに軽油を販売する流通段階の事業者だという点だ。補助金とカルテルを単純に同一視することはできない。

それでも、この時期が注目される理由は明確だ。補助金の狙いは卸価格の急騰を抑え、最終的に運送会社や消費者の負担を軽くすることにある。ところが販売段階で競争がゆがめられていたとすれば、補助の効果が最終需要家まで十分に届かなかった可能性が出てくる。今回の事件は、価格抑制策の実効性が流通段階の競争環境にも左右されることを示した。

元売りと販売会社は分けて見る必要がある

報道では「石油会社」の一括りで理解されがちだが、原油を精製する元売りと、運送業者に軽油を販売する販売会社は役割が異なる。今回問題になったのは後者の販売段階だ。

ENEOSウイングはJ&Sフリートホールディングス傘下、エネクスフリートは伊藤忠エネクスの100%子会社だが、今回の起訴対象はあくまで軽油の販売行為である。補助金政策を論じる際も、元売りの価格形成と販売会社間の競争を分けて見ないと論点を誤る。

今回の事件が残す問い

今後の公判では、どの程度の価格調整が行われ、どこまで影響が広がっていたのかが争点になる。現時点では、捜査当局が価格カルテルとして刑事責任を問うだけの重い事案だと判断したところまでが確認できている事実だ。

そのうえで言えるのは、燃料価格を抑える政策と、公正な競争環境の維持は切り離せないということだ。補助金を積み増しても、流通段階で競争が損なわれれば、最終需要家に届く効果は弱まる可能性がある。軽油カルテル事件は、物流コストと物価の問題を考えるうえで、流通の「最後の一段」をどう監視するかを改めて問いかけている。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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