3月18日から始まった日本銀行の金融政策決定会合は、19日に結果が発表される予定だ。政策金利は据え置きとなる公算が大きいとみられているが、市場の本当の関心は「利上げするかどうか」ではなく、この先の利上げをどのペースで進めるかにある。その答えを左右するのが、イランをめぐる情勢が引き起こした原油高と円安の同時進行だ。
日銀は今、どんな局面にいるのか
まず現状を整理しておく。日本銀行は2023年以降、長年続けてきたゼロ金利政策から段階的に抜け出す方向に転換し、政策金利を引き上げてきた。最新の政策金利は0.75%程度で、前回の引き上げからおよそ3か月がたつ。
今回の会合は「追加利上げを決める場」ではなく、これまでの利上げが経済・物価に与えている影響を点検する場と位置づけられている。国内の物価はおおむね日銀の目標(2%)に近いところで推移しており、正常化(金利をゼロから引き上げていくこと)の道筋そのものは変わっていない。
しかしここに、想定外の外部ショックが飛び込んできた。
イラン危機が引き起こした「二つの圧力」
中東でのイランをめぐる戦闘の激化をきっかけに、ホルムズ海峡をめぐる航行リスクが高まっており、原油の安定供給に懸念が広がっている。原油価格は急騰し、国際的な指標であるブレント原油は107ドル台まで上昇している。
同時に、為替市場では円売り・ドル買いが強まり、1ドル=159円台後半という円安水準が続いている。
この二つが組み合わさることで、日本には「二重の輸入コスト増」が起きている。
①原油価格の上昇:そもそもエネルギーが高くなる。ガソリン、電気、物流、化学原料などあらゆるコストが上昇する方向に働く。
②円安の増幅効果:日本は原油をドル建てで購入するため、円安になるほど支払いが増える。107ドルの原油が、円安によってさらに高くつく計算になる。
日銀内でも、石油製品の原料となる「ナフサ」を含む石油関連コストの値上がりが相次いでいるほか、国内の製油所の稼働率が低下するなど、実体経済への影響がすでに出始めているとの見方が出ている。
「物価が上がるなら利上げでは?」——そう単純ではない理由
原油高で物価が上がるなら、インフレを抑えるために金利を引き上げる(利上げ)べきではないか、と思うかもしれない。しかしここが、今の日銀の難しいところだ。
日銀が利上げの根拠として重視するのは、国内の需要が強くなって物価が上がる「良いインフレ」だ。消費者がモノを買い、賃金も上がって経済が活発になる流れの中で物価が上がるなら、金利を上げてもその熱を少し冷ますだけで、経済は崩れない。
一方、今回のような原油高から来るインフレは、輸入によってコストが増えるだけの「悪いインフレ」だ。家計の実質的な購買力が削られ、企業のコストが膨らんで収益が悪化する。景気を冷やす方向に働くため、ここで金利をさらに上げると、景気がさらに傷つく恐れがある。
つまり日銀は今、「物価は上がっているが、景気は傷つきやすい」という板挟みの状況にある。ロイターが報じるように、日銀は「据え置きだが利上げバイアスを残す」という難しいメッセージを発する必要があり、今回の植田総裁の記者会見では、そのさじ加減が注目される。
「利上げ継続」の見通しに変化はあるか
日銀はこれまで、段階的に利上げを進める方針を示してきた。エコノミストの多くも、今回の据え置きを経たとしても、年央(6月前後)にかけて追加利上げがあるとみていた(ロイター調査)。
しかしイラン情勢が長引けば、このシナリオにも変化が出る可能性がある。原油高・円安が家計や企業に広く及べば、消費が冷え込み、日銀が利上げの根拠としてきた「需要主導の物価上昇」の根拠が崩れかねない。
次の利上げはいつか、何を条件にするか——これが今日の植田総裁会見で市場が聞きたい最大のポイントだ。
日銀の「悩み」を整理すると
今回の局面における日銀の立場を簡単にまとめると、次の三点になる。
①原油高は物価を押し上げるが、景気を冷やす両刃の剣
エネルギーコストの上昇は物価指数には「プラス」に働く。しかしそれは需要が強いからではなく、コストが上がっているだけだ。日銀が本当に警戒するのは、この状態が長引いて消費や投資が萎縮することだ。
②円安は輸入インフレをさらに増幅させる
原油高だけでなく、1ドル=159円台という円安水準が重なることで、食品・エネルギーを中心に幅広い輸入品のコストが上昇している。これは家計の生活コストを直接押し上げる。
③次の利上げ判断は「情勢を見極めてから」
今回は据え置きで、次の利上げについては会合後の声明や会見で手がかりを探す展開とみられている。植田総裁がイラン情勢をどう評価し、今後の政策運営に何を示唆するかが最大の焦点となる。
植田総裁会見へ——何に注目するか
植田総裁は本日(3月19日)午後に記者会見を行う予定だ。ガソリン代や食品の値上がりが続くなか、日本の生活者にとって日銀の金融政策は身近な問題だ。注目すべきポイントは次の2点だ。
①イラン情勢の影響をどう表現するか
「不確実性が高い」という言葉で慎重姿勢を示すのか、それとも一時的なリスクとして次の利上げ観測を温存するのか。どちらのトーンで語るかで、4月以降の見通しが変わる。
②次の利上げのタイミングへの示唆
直接的な時期には言及しないとしても、「条件」「データ」「確認すべきこと」についての発言が、市場には重要な手がかりとなる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

