「日本版CFIUS」とは何か——外為法改正が変える対日投資の審査体制

政府は2026年3月17日、外為法(外国為替及び外国貿易法)の改正案を閣議決定した。省庁横断の審査体制を強化し、いわゆる「日本版CFIUS(シフィウス)」的な体制整備へと踏み出す改正だ。

「CFIUS」という英語の略語を初めて見た人も多いだろう。ただ、この改正が何を変えようとしているのかを知ると、半導体やインフラ、重要物資に絡む企業買収や資本提携の今後が、かなり変わってくることが見えてくる。


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そもそも外為法とは何か

外為法(外国為替及び外国貿易法)は、日本と海外との間のお金や資産の動きを規律する法律だ。貿易や為替取引のルールを定めているが、その中に「外国からの投資審査」の仕組みも含まれている。

日本は外国からの投資を原則として自由に認めているが、安全保障上重要な業種については例外がある。外国投資家が日本企業の株を取得する場合、事前に届け出をして政府の審査を受ける義務があるのだ。対象は半導体、通信、サイバー、重要インフラなど安全保障上重要な指定業種が中心で、近年は対象範囲が拡充される方向が続いている。


CFIUSとはどんな組織か

「日本版CFIUS」のモデルとなっているのは、アメリカのCFIUS(対米外国投資委員会)だ。

CFIUSは、外国による米国企業への投資や一部の不動産取引が、米国の国家安全保障に与える影響を審査する政府横断の委員会だ。米財務省が議長を務め、国防省、国務省、商務省など複数の政府機関が参加する。

審査が通らないと判断すれば、大統領権限で投資を止めたり、売却を命じたりすることもできる。実際、近年は中国系企業による米国の半導体や通信インフラへの投資案件が複数審査の対象となり、大きな注目を集めた。

日本が「日本版CFIUS」と呼ぶのは、こうした省庁横断の審査体制を日本にも取り入れるという方向性を示すためだ。ただし、これは法案の正式名称ではなく通称であり、片山財務相が閣議後の会見で「いわゆる日本版CFIUS創設のための関係省庁間の連携を義務づける」と述べた表現でもある。


今回の改正で何が変わるのか

従来の外為法では、「外国投資家が直接、日本企業の株を買う」という形が審査の主な対象だった。ところが近年、投資の構造は複雑化している。

政府が今回の改正で補おうとしているのは、主に次の3つの「抜け穴」だ。

1. 国内主体を経由した実質的な外国投資

表向きは日本国内の法人や個人が投資していても、その背後に外国政府や国有企業の支配・影響があると認められる場合は、新たに届け出の対象とする。

これまでは「日本法人が買うなら問題なし」として届け出が不要だったケースでも、外国の影響下にあると判断されれば審査が求められるようになる。

2. 「間接取得」の規制

日本企業に既に投資している外国法人を、別の海外投資家が買収するケースも問題になり得る。これは直接的に日本企業の株を買ってはいないが、結果的に支配構造が変わる。今回の改正では、こうした間接的な株式の取得についても事前の届け出などを求める。

3. 省庁横断の審査体制の法的な強化

これまでも財務省と所管省庁が連携して審査を行う仕組みはあったが、今回の改正ではその連携を法律上の義務として明確にする。個別の案件ごとに財務省と所管官庁が国家安全保障局などと協力して審査を行う体制を整えることが、改正法の柱のひとつだ。


なぜ今なのか

今回の動きは突然ではない。

2022年に策定された国家安全保障戦略では、外為法上の投資審査制度のさらなる強化を具体的に検討すると明記された。2025年5月には、外国政府などへの情報協力義務を負う投資家に対し、事前届出の免除制度の利用を制限する政省令の改正も行われている。

今回の外為法改正案は、こうした一連の安全保障政策の強化の流れを法律レベルで制度化するものだ。

背景には、地政学リスクの高まりがある。半導体や重要鉱物、通信インフラ、データ——これらは平時には民間企業の競争の場だが、有事には国家の安全保障に直結する。地政学リスクの高まりを背景とした技術流出防止や供給網の保全は、日本だけでなく米国や欧州でも共通の政策課題になっており、各国が相次いで投資審査を強化している。


「全面規制」ではなく「穴を埋める」改正

ただし、この改正を「外国投資の全面的な締め付け」と解釈するのは正確ではない。

財務省の法案説明でも、目的は「健全な対内直接投資を促進しつつ、国の安全等を損なうおそれのある投資に適切に対応すること」とされており、オープンな投資環境を維持しながら安全保障上のリスクだけを狙い撃ちする建て付けだ。政府自身も、「投資家の予見可能性や法的安定性を著しく下げるような全面的な事後審査は採らない」と説明しており、過剰な規制による投資萎縮の副作用を意識した姿勢が見える。

投資家や企業にとって実務上のポイントは3つある。

  • 表向きは国内法人の投資でも、背後に外国政府や国有企業の影響があれば届出対象になりうる
  • すでに日本企業へ投資している外国法人そのものが別の外国企業に買収された場合も、間接取得として審査対象となりうる
  • 半導体、インフラ、データ、重要物資に関わる分野では、M&Aや資本提携のハードルが従来より上がる場面が増える可能性がある

まとめ——「誰が実質的に支配するか」を見る制度へ

今回の外為法改正が目指しているのは、「日本企業の株を誰が持つか」という形式的な審査から、「その背後で誰が実質的に支配するのか」という実態を見る審査への転換だ。

省庁横断審査の強化と審査捕捉範囲の拡充を軸とした今回の改正は、国際的な安全保障環境の変化に対応した制度整備として、欧米の動きとも方向性を同じくしている。政府は今の国会での法案成立を目指しており、今後は運用の具体的な設計——どの案件が審査対象になり、どう判断されるか——が焦点になっていく。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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