「持てるが使えない」機内モバイルバッテリー 2026年4月にも使用・充電を禁止へ

2026年4月にも、日本国内を発着する航空便で、機内でのモバイルバッテリー使用が禁止される見通しだ。スマートフォンなどへの給電だけでなく、機内電源からモバイルバッテリー本体を充電することも対象となり、持ち込みは1人2個までに制限される方向とされている。背景には、国内外で相次ぐ発煙・発火事案がある。本記事では、ルール変更のポイントと理由、そして世界の規制強化の流れを整理する。

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あの日、釜山空港で何が起きたか

2025年1月28日、韓国南部の釜山空港で旅客機が炎上した。乗客乗員176人が緊急脱出するという大事故だった。韓国の事故調査当局は、暫定調査の結果として、座席上の収納棚に置かれていた予備のモバイルバッテリーが原因の可能性を指摘している。原因はまだ確定していないが、疑いの目は「1本のモバイルバッテリー」に向いている。

このニュースを聞いたとき、多くの人は少し考え込んだのではないだろうか。自分のカバンの中にも、ほぼ同じものが入っている。毎日のように使い、旅行にも必ず持っていく。それが、飛行機を燃やす火種になり得るとは。

その釜山の事故から1年余り、日本でも大きなルール変更が迫っている。2026年4月にも、日本国内を発着するすべての航空便で、機内でのモバイルバッテリーの使用を禁止する方針が固まりつつある。国土交通省が航空法に基づく基準の改正を予定しており、国内の航空会社にはすでに説明を始めている。


何が変わるのか

「使用禁止」と聞いて、「持ち込みもできなくなるの?」と思った人もいるかもしれない。そうではない。新しいルールの骨格はシンプルだ。

方針として示されているのは3点。まず、モバイルバッテリーを使ってスマートフォンやタブレットを充電することを禁止する。次に、機内の座席に設けられたコンセントやUSBポートを使ってモバイルバッテリー本体を充電することも禁止する。加えて、機内への持ち込みを1人2個までに制限する。

つまり「持てるけど、使えない」というルールだ。

これは一見、中途半端に思えるかもしれない。「危ないなら持ち込み禁止にすればいいのでは」という声もあるだろう。しかし客室内にあれば、異常が起きた際に乗務員が耐熱バッグ等の装備で初期対応できる。預け荷物として貨物室に入れてしまうと、そもそも誰も気づけない。だから「持ち込ませて、使わせない」という設計になっている。この理由を知ると、ルールの輪郭がくっきりしてくる。


なぜ今まで許されていたのか

モバイルバッテリーが危険であることは、実は以前から知られていた。

貨物室(預け荷物)への入れ込みは、国際的にずっと前から原則禁止だ。火や煙が出たとき、貨物室では誰も気づけない。気づいたときには手遅れになりかねない。だからこそ、「機内に持ち込んで、手元で管理する」ことが世界標準のルールになっていた。

では機内での「使用」はなぜ許されていたのか。

答えは「見える場所で使うなら、異常にすぐ気づける」という考え方だ。確かに、充電中に端末が熱くなったり、バッテリーから煙が出始めたりしたとき、手元にあれば乗客も乗務員もすぐに対応できる。だから「使ってもいいが、常に状態が確認できる場所で」というルールが長く続いてきた。

しかし、その前提が崩れ始めた。

釜山の火災、そして2025年10月に確認された全日空の那覇〜羽田便での発煙——事故はなくならないどころか、増え続けた。「見える場所」にあっても、収納棚の中では見えない。充電中でなくても、劣化したバッテリーは突然発火する。「見える場所ルール」では追いつかなくなってきたのだ。

そして規制が、ようやく「充電・給電という行為そのものを禁じる」方向へ踏み込んだ。


燃えるのは電池か、基板か

ではモバイルバッテリーの中で、いったい何が燃えているのか。

モバイルバッテリーの中には大きく2つのものが入っている。エネルギーを蓄える「電池セル(リチウムイオン電池)」と、充電や放電をコントロールする「基板(回路)」だ。わかりやすく言えば、基板はエンジン、電池セルは燃料タンクに近い。

発熱の「起点」になりやすいのは基板側だ。昇圧回路が熱を持つ、USB端子の接触が悪くなって局所的に熱が集中する、制御回路が壊れて過剰な電流が流れる——こうした理由で、まず基板が熱くなることが多い。

しかし、最終的に大きな被害をもたらすのは電池セルだ。セルには「熱暴走」と呼ばれる現象がある。一度内部で異常な反応が始まると、熱が熱を呼んで加速していく。高温のガスを噴き出し、そのまま発火する。「点」の火ではなく、勢いのある「噴き出し」になることもある。

現実の事故の多くは、この2つが連鎖して起きる。基板の異常が熱を生み出し、その熱が電池セルを暴走させる。

「機内での使用禁止」が有効なのは、この連鎖の最初の段階を断つからだ。充電・給電という行為をしなければ、基板に余分な負荷がかからない。異常が起きにくくなり、起きても初期段階で気づきやすい。「使用禁止」は、禁止のための禁止ではなく、安全の連鎖を設計し直した結果なのだ。

ちなみに、手元で異常に気づくためのサインも覚えておきたい。端子付近だけが熱い場合は基板や接触の問題が疑われるが、本体全体が熱くなって膨らんでいたり、甘いような溶剤っぽい臭いがしたりする場合は、電池セルの異常が始まっている可能性がある。後者は緊急性が高い。


世界はどう動いているか

日本だけが突出して厳しいルールを作ろうとしているわけではない。世界はすでに、同じ方向へ動いている。

ベースとなるルール——貨物室への入れ込み禁止、160Wh超のバッテリーは持ち込み不可、端子の短絡防止——は世界的に共通している。違いは、「機内での使用」をどこまで制限するかだ。

欧米では、まず航空会社が自主的に「機内での充電禁止」へ踏み込み始めた。ルフトハンザグループは2026年1月から機内での使用・充電を禁止し、持ち込みも2個までに制限した。

アジアでは動きがより明確だ。シンガポール航空は2025年4月から、モバイルバッテリーを使った端末への充電も、機内電源を使ったバッテリーへの充電も、どちらも禁止にした。台湾のエバー航空、香港のキャセイパシフィックも同様の措置を打ち出している。

中国はさらに踏み込んでいる。「3C認証」と呼ばれる国の品質認証がないモバイルバッテリーは、そもそも国内線に持ち込めない。「使い方」を規制するだけでなく、「品質基準を満たさないものは最初から排除する」という設計だ。

国際民間航空機関(ICAO)も国際基準の議論を進めており、各国・各社での制限は今後さらに広がっていくとみられる。


この問題は、なくなるか

一連の規制強化を見ていると、ふとこんな疑問がわく。リチウムイオン電池を使い続ける限り、この問題はなくならないのではないか。

率直に言えば、そのとおりだ。「ゼロにはならない」と考えるのが現実的だ。

リチウムイオン電池は、小さくて軽いのに大量のエネルギーを蓄えられる。だからこそスマートフォンもモバイルバッテリーも、これほど便利なものになった。しかしその「エネルギーの密度の高さ」は、裏を返せば「事故が起きたときの被害の大きさ」でもある。落下、圧迫、高温、劣化——日常的な使い方の中で、電池は少しずつダメージを受けていく。

さらに問題を複雑にしているのが「品質のバラつき」だ。容量を偽って表示した製品、安価だが保護回路が貧弱な製品、リコール対象なのに流通し続けている製品——こうした粗悪品が事故の引き金になることは少なくない。

それでも「減らせる」理由もある。品質規制の強化、電池の安全設計の改良、そして運用ルールの整備——この3本柱が揃えば、事故の件数も、大事故化するリスクも、確実に下げることができる。

次世代電池(全固体電池やナトリウムイオン電池など)が普及すれば、リスクの性質そのものが変わる可能性もある。ただしそれは中長期の話であり、今すぐの解決策にはなり得ない。

ここで少し視点を広げてみたい。

この問題の本質は、「モバイルバッテリーが危険」という話ではない。「高いエネルギーを持つものを、一般の人が日常的に持ち歩く時代に、社会としてどう安全を設計するか」という問いだ。

同じ構造の問いは、鉄道の中にも、コンサート会場にも、学校にも、オフィスにも存在する。航空機の規制は、その問いに対する一つの答えであり、他の場所にも波及していく可能性がある。


私たちは、どうするか

4月以降、空の旅のスタイルは少し変わる。しかしそれは、「不便になる」というより「準備の仕方が変わる」と捉えた方がいい。

搭乗前に端末を満充電にしておく習慣をつける。国内の主要空港では充電スポットの増設が進んでおり、空港ビル運営会社への取材に基づくNHKの報道によると、羽田空港では3つのターミナルに合計1160か所以上が設けられ、今後もさらに増やす方針だという。長距離便では機内の座席に電源が備わっている場合も多い(ただし航空会社や機材によって差がある)。

持ち歩くモバイルバッテリーを見直すいい機会でもある。本体が膨らんでいないか、充電するたびに異常に熱くなっていないか。そういうバッテリーはもう寿命だ。使い続けることは、空港だろうと自宅だろうと、リスクを抱えることと同じだ。

購入する際も、PSEマーク(日本の電気用品安全法に基づく認証)の確認を習慣にしたい。「安いから」という理由だけで選ぶことの危うさは、これだけ事故が続けば伝わるはずだ。

モバイルバッテリーは、これからも私たちの暮らしに欠かせないものであり続ける。ルールはそれを否定していない。ただ「どう持ち、どう使うか」の基準が、少し上がるだけだ。


(本記事は2026年2月時点の情報に基づいています。正式な規制内容は国土交通省の告示および各航空会社の案内をご確認ください)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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