所得補償保険と企業向け損害保険の基本

損害保険は、住まいや車、ケガ、賠償責任だけを対象にするものではない。病気やケガで働けなくなったときの収入減少、企業活動が止まったときの利益減少、機械の突発的な事故、建設工事中の損害に備える保険もある。

火災保険や自動車保険に比べると、これらの保険は日常会話に出てきにくい。しかし、個人の生活や企業の事業継続を考えるうえでは、見落とせない役割を持っている。

その他の損害保険は、個人の収入を守る保険と、企業の事業活動を守る保険に分けて考えると理解しやすい。

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どの損害に備える保険なのか

損害保険という言葉からまず思い浮かぶのは、火災保険、自動車保険、傷害保険、賠償責任保険あたりである。

火災保険は住まいや家財の損害に備える。自動車保険は交通事故に備える。傷害保険は事故によるケガに備える。賠償責任保険は、他人に損害を与えたときの法律上の責任に備える。

一方で、損害保険にはそれ以外の分野もある。たとえば、病気やケガで働けない期間の収入減少に備える所得補償保険がある。企業向けには、従業員の労働災害、事業活動の停止、機械の事故、建設工事中の損害に備える保険がある。

同じ損害保険でも、何を守るのかは大きく違う。家計を守るのか、事業を守るのか。物の損害を見ているのか、営業停止による損失を見ているのか。この視点を持つと、似た名前の保険も整理しやすくなる。

個人向けと企業向けでは目的が違う

その他の損害保険は、個人向けと企業向けに分けると見通しがよくなる。

個人向けの代表例は、所得補償保険である。これは、病気やケガで働けなくなったときの収入減少に備える保険だ。医療費そのものではなく、働けないことで収入が減るリスクに注目する。

企業向けには、労働災害総合保険、企業費用・利益保険、機械保険、建設工事保険などがある。これらは、従業員の労災、事業活動の停止、機械の故障や破損、工事中の損害などに備える保険である。

個人向けの保険は、主に家計を守るためのものだ。企業向けの保険は、事業活動を守るためのものだ。この違いを先に押さえると、それぞれの保険が何のためにあるのかが分かりやすくなる。

働けない間の収入をどう支えるのか

所得補償保険は、病気やケガによって働けなくなった場合に、収入の減少に備える保険である。

病気やケガで入院したり、自宅療養が必要になったりすると、働けない期間が生じることがある。会社員であれば、有給休暇や傷病手当金などで一定期間の収入を補える場合がある。ただし、それでも通常どおりの収入が続くとは限らない。

自営業者やフリーランスの場合は、働けないことが収入減少に直結しやすい。仕事を休むと、その間の売上や報酬が減る。治療費だけでなく、家賃、住宅ローン、食費、教育費、光熱費などの生活費は続いていく。

所得補償保険は、こうした「働けないことによる収入減少」に備える保険として理解すると分かりやすい。病気やケガそのものよりも、その後の生活をどう支えるかに目を向けた保険である。

医療保険や生命保険とは何が違うのか

所得補償保険は、医療保険や生命保険と混同されやすい。いずれも病気やケガと関係することがあるためだ。

医療保険は、病気やケガによる入院・手術などの医療費負担に備える保険である。入院給付金や手術給付金などが支払われるタイプが多く、医療費の支出を補う役割を持つ。

生命保険は、死亡や高度障害などに備える保険である。被保険者が亡くなった場合に、遺族へ死亡保険金が支払われるものが代表的で、家族の生活保障などに使われる。

所得補償保険は、病気やケガで働けなくなったときの収入減少に備える保険である。医療費に備えるのが医療保険、死亡時などに家族を守るのが生命保険、働けない間の収入を補うのが所得補償保険、と分けて考えるとよい。

保険を選ぶときは、「病気やケガに備える」という大きな言葉だけでは足りない。医療費なのか、死亡時の保障なのか、働けない間の生活費なのか。備えたい損失を分けて見ることが大切である。

労災保険があっても企業側のリスクは残るのか

労働災害総合保険は、従業員の労働災害に関係する企業側の補償リスクに備える保険である。

労働災害には、公的な労災保険がある。労災保険は、業務上の事故や通勤中の事故によって従業員がケガをした場合などに、一定の給付を行う制度である。

ただし、公的な労災保険があるからといって、企業側のリスクがすべてなくなるわけではない。企業が労災保険の上乗せ補償を行う場合がある。事故の内容によっては、企業が安全配慮義務違反などを問われ、損害賠償責任を負う可能性もある。

労働災害総合保険は、こうした労災保険の上乗せ給付や、事故内容によって企業が負う賠償責任に備える保険である。公的な労災保険の給付対象と、企業が追加で負う補償・賠償のリスクは分けて考える必要がある。

従業員を雇う企業にとって、労働災害は人に関わる重大なリスクであり、企業の信用や事業運営にも影響しうる。

物が壊れた後の営業停止はどう扱うのか

企業費用・利益保険は、偶然の事故によって企業活動が停止した場合に、利益の減少や固定費などの損失に備える保険である。商品名としては、企業費用・利益総合保険や休業補償保険など、保険会社によって異なる名称が使われる場合がある。

火災や自然災害などで、店舗や工場が使えなくなることがある。建物や設備そのものの損害は、火災保険などで補償される場合がある。しかし、営業が止まったことによる利益の減少や、営業できない間も発生する人件費、家賃、借入金の返済などは別の問題である。

企業費用・利益保険は、こうした事業中断による損失に備える保険である。物が壊れたことだけでなく、その後に売上や利益が減ること、固定費が残ることに目を向ける。

企業活動では、被害を受けた物を直すことと、事業を続けることは同じではない。店舗や工場が止まれば、修理費以外の負担も発生する。企業費用・利益保険は、事故後の事業継続を支える保険として考えると分かりやすい。

機械の突発的な事故に備える保険とは

機械保険は、一般に、機械類が突発的な事故によって損害を受けた場合に備える保険である。

工場の製造機械、業務用設備、作業機械などは、企業活動を支える重要な資産である。機械が突然故障したり破損したりすると、修理費が発生するだけでなく、業務の停止にもつながることがある。

機械保険では、代表的には操作ミスによる破損、機械内部の事故、異物の混入による損傷、予期しない故障などが問題になる。機械そのものに起きる突発的な事故に備える保険と考えるとよい。

ただし、火災によって機械が損害を受けた場合は、機械保険ではなく火災保険などで扱うのが基本である。また、老朽化や摩耗、通常の使用による劣化などは、補償対象外となることが多い。

どの機械が対象になるのか、どのような事故が補償されるのかは、契約内容によって異なる。機械保険は「機械が壊れたら何でも補償される保険」ではなく、突発的な事故による損害に備える保険として見る必要がある。

建設中だからこそ生じるリスクとは

建設工事保険は、建設工事中の建物などに、不測かつ突発的な事故によって損害が発生した場合に備える保険である。

完成した建物であれば、火災保険などで備えることが多い。しかし、建設中の建物は完成後の建物とは異なるリスクを持っている。

たとえば、工事中に火災が発生することがある。強風や風災で建設中の建物や資材が損傷することもある。作業ミスによって建物の一部が壊れたり、現場に置いていた資材が盗難にあったりする場合もある。

建設工事保険は、こうした建設工事中の不測・突発的な損害に備える保険である。対象となるのは、工事中の建物、工事用資材、仮設物などである場合が多い。ただし、補償範囲は契約内容によって異なる。

なお、工事中に第三者へ損害を与えた場合の賠償責任は、請負業者賠償責任保険などで考える分野である。建設工事保険は、主に工事対象物そのものの損害に備える保険として整理すると分かりやすい。

企業向け保険は再開を支える備えでもある

企業向けの損害保険は、単に壊れた物を直すためだけの保険ではない。

機械が壊れれば、生産が止まる可能性がある。店舗や工場が使えなくなれば、売上が減る。営業できない間も、人件費や家賃などの固定費は発生する。工事中の事故は、工期の遅れや追加費用につながることがある。

こうしたリスクは、事業継続に関わる。事業継続とは、災害や事故が起きても、事業をできるだけ止めないこと、または止まった後に早く再開できるようにする考え方である。

保険だけで事業停止を防げるわけではない。それでも、事故後の資金負担を軽くし、再開までの時間を短くするための備えにはなりうる。

労働災害総合保険、企業費用・利益保険、機械保険、建設工事保険は、それぞれ対象が異なる。それでも、企業活動を守るための保険という点では共通している。

損害保険は、個人の生活だけでなく、企業の継続にも関係する。ここまで見ると、損害保険の範囲はかなり広いことが分かる。

その他の損害保険はどう整理すればよいのか

その他の損害保険を整理するときは、「何の損失に備える保険なのか」を見ると分かりやすい。

所得補償保険は、個人の収入減少に備える保険である。病気やケガで働けなくなった場合、医療費だけでなく生活費の問題が生じる。そこに備えるのが所得補償保険である。

労働災害総合保険は、従業員の労働災害に関係する企業側のリスクに備える保険である。公的な労災保険だけではカバーしきれない上乗せ補償や、企業の賠償責任が問題になる。

企業費用・利益保険は、事業活動の停止による利益減少や固定費に備える保険である。物の損害そのものだけでなく、営業できないことによる損失に着目する。

機械保険は、機械類の突発的な事故による損害に備える保険である。火災による損害ではなく、機械そのものの事故に注目する。

建設工事保険は、建設工事中の建物や資材などに生じる損害に備える保険である。完成後の建物ではなく、工事中のリスクに備える点が特徴である。

このように整理すると、その他の損害保険は、個人の収入と企業の事業継続を守る保険として理解しやすい。

収入と事業継続で見ると全体像がつかみやすい

損害保険には、火災保険、自動車保険、傷害保険、賠償責任保険以外にも、さまざまな保険がある。

所得補償保険は、病気やケガで働けなくなった場合の収入減少に備える保険である。医療保険が医療費に備える保険であるのに対し、所得補償保険は働けない間の収入に着目する。生命保険が死亡時などの保障に重点を置く点とも異なる。

労働災害総合保険は、労災保険の上乗せ給付や企業の賠償責任に備える保険である。企業費用・利益保険は、事業停止による利益減少や固定費に備える保険である。機械保険は、機械類の突発的な事故による損害に備える保険であり、建設工事保険は、建設工事中の建物や資材などの損害に備える保険である。

これらの保険は、一般向けにはなじみが薄いものも多い。しかし、個人の収入を守ること、企業活動を止めないこと、事故後に再開しやすくすることに関わっている。

その他の損害保険は、細かな名称を暗記するよりも、何の損失に備えるのかを見ると理解しやすい。保険の名前より先に、守りたいものが収入なのか、事業の継続なのかを考えることが、全体像をつかむ出発点になる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成した。一部数値は記事掲載時点の情報である)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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