EV需要の読みづらさで広がる「混流生産」 自動車各社が柔軟な工場へ

地域や政策によってEV需要の伸び方が揺れるなか、自動車メーカーの工場戦略が変わりつつある。SUBARU(東証プライム、7270)は群馬製作所矢島工場でBEV、つまりバッテリー式電気自動車の自社生産を始めており、報道では2026年6月11日に群馬県太田市の同工場でEVとエンジン車の双方に対応する生産ラインを公開したとされる。

この動きを「EVが失速したからエンジン車へ戻る」とだけ読むと、見えなくなるものがある。焦点は、EV、ハイブリッド車、エンジン車のどれがどの地域で売れても、工場を止めずに生産比率を変えられる体制を各社が整えようとしている点にある。

日本にとっても、これは完成車メーカーだけの話ではない。自動車産業は部品、素材、設備、物流、地域雇用まで裾野が広い。国内工場が複数のパワートレインに対応できるかどうかは、企業業績だけでなく、群馬や山口のような生産拠点を抱える地域経済にも関わってくる。

table of contents

混流生産は「EVをやめる話」ではなく、需要変動に備える工場の仕組み

混流生産とは、同じ生産ラインで複数の車種や異なる駆動方式の車を作る方式を指す。今回の文脈では、BEV、エンジン車、ハイブリッド車などを、需要に応じて同じ工場で作り分ける考え方が中心になる。

EV専用ラインは、需要が想定通り伸びれば効率を高めやすい。一方で、補助金の変更、環境規制の見直し、車両価格、充電インフラの整備状況によって販売構成が変わると、稼働率が下がるリスクも抱える。工場は設備投資と固定費が大きいため、ラインが空くことは収益を圧迫しやすい。

混流生産は、このリスクに備えるリスク管理策といえる。仕組みとしては、EVの販売が弱い時期に別の車種へ寄せ、EV需要が強い地域や時期にはEVの比率を上げる余地を持たせる。単なる生産技術ではなく、読みにくい市場に工場側から対応する経営戦略でもある。

SUBARU矢島工場が示す、EVとエンジン車を切り替えるラインの意味

SUBARUの公式資料では、群馬製作所矢島工場で内燃機関車に加えてBEVを同一ラインで生産するための改修を行い、2026年2月からBEVの自社生産を始めたことが確認できる。対象となるBEVとして、新型「トレイルシーカー」も示されている。

一方、2026年6月11日の報道陣公開や、今夏以降のエンジン車との混流開始、具体的な対象車種は報道ベースの情報として扱う必要がある。報道では、EV用モーターとエンジンの双方に対応する設備や、車体サイズの違いに合わせられる搬送装置が整えられているとされる。

これは、同じ建屋に複数のラインを置くというだけの話ではない。EVではバッテリーやモーター、エンジン車ではエンジンや排気系など、扱う部品も工程も異なる。重量物の取り付け、部品供給、検査、作業者の負担まで含めて、異なる車を同じ流れに乗せる必要がある。

SUBARUは2026年3月期の業績予想修正でも、米国の環境規制緩和を踏まえた電動車需要見通しの見直しや、BEV関連開発資産の減損に触れている。EV需要の読み直しは販売計画だけでなく、開発投資や工場稼働にもつながる。矢島工場の柔軟化は、その不確実性に備える具体例として読める。

マツダの山口県工場にも広がる、既存資産を生かす発想

マツダ(東証プライム、7261)についても、山口県の工場でEV、エンジン車、ハイブリッド車に対応できる生産ラインを整備していると報じられている。ただし、2026年6月時点でどの工場・どのラインがどの段階まで整備済みかは、公式資料だけで断定しにくい。

補助線になるのが、自動車専門メディアのCar Watchが伝えた防府工場H2工場の見学記事だ。同記事では、同工場が電動化時代の車両変化に柔軟に対応できる混流生産ラインとして紹介されている。これは2025年時点の記事であり、今回報道された山口県の工場との対応関係や最新進捗は分けて見る必要がある。

それでも、既存工場を活用しながら複数のパワートレインに対応する発想は、日本メーカーの現実的な工場戦略を考えるうえで重要だ。トヨタのような巨大メーカーと比べ、投資余力や生産規模に制約があるメーカーほど、EV専用投資を一方向に大きく張るより、既存資産を生かして変化に対応する意味は大きくなる。

EV市場は終わったのではなく、地域ごとの伸び方がずれている

国際エネルギー機関(IEA)の資料では、2026年第1四半期の世界EV販売は約390万台で前年同期比8%減とされる。一方で、2026年通年では世界EV販売が2300万台、乗用車販売の28%に達するとの見通しも示されている。

この数字から読み取れるのは、EV市場が一方向に縮小しているという単純な構図ではない。地域によって、政策、補助金、価格競争、充電インフラ、消費者の選好が異なる。米国では環境規制や補助金、中国では価格競争と政策支援、欧州では排ガス規制、日本ではハイブリッド車の強さが、それぞれ需要の形を変えている。

メーカーにとって難しいのは、2030年代を見据えた電動化投資を止めるわけにはいかない一方で、足元の販売構成が必ずしもEV一本にそろわないことだ。混流生産は、その時間差を工場の中で吸収する仕組みとして位置づけられる。

市場が確認したいのは、稼働率と投資回収の行方

マーケットの視点では、混流生産は単なる工場ニュースにとどまらない。EV関連投資が膨らむほど、販売が想定を下回ったときの減損や固定費負担は大きくなる。需要に応じた車種切り替えが実際に機能すれば、工場稼働率を保つうえで一定の支えになり得る。

部品メーカーや設備メーカーにも影響は及ぶ。EV用部品、エンジン部品、ハイブリッド関連部品のどれがどの程度必要になるかで、受注の中身は変わる。群馬や山口のような国内生産拠点では、完成車の生産計画が物流、雇用、地域サプライチェーンにもつながる。

消費者にとっては、EV化が進む一方で、ハイブリッド車やエンジン車の選択肢が当面残る背景を示す動きでもある。ただし、各国の規制や燃費基準が厳しくなれば、メーカーは再びEV比率を高める判断を迫られる。混流生産は、選択肢を残す仕組みであると同時に、比率を変える準備でもある。

今後は「何を作るか」に加え、切り替え力も焦点になる

これからの自動車メーカーを見るうえでは、EV、ハイブリッド車、エンジン車のどれを掲げるかだけでは足りない。実際にどの工場で、どの車種を、どれだけ柔軟に切り替えて作れるのかが、企業の対応力を測る材料になる。

SUBARUでは、矢島工場でのBEV生産に加え、報道で触れられているエンジン車との混流がどのように進むかが確認点になる。マツダでは、山口県の工場でのライン整備が、EVやハイブリッド車の量産計画とどう結びつくかが次の材料になる。

販売台数の増減だけでは、企業側の対応力までは見えにくい。政策変更、補助金、為替、関税、地域ごとの車種需要が、工場の稼働率と収益にどう反映されるか。混流生産の広がりは、自動車メーカーがEV移行の読みにくさを前提に、工場そのものを変え始めていることを示している。

出典・参考

主な参照資料

Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents