日比の海洋境界交渉、台湾東方海域で重なる三つの主張

日本とフィリピンの海洋境界をめぐる交渉が、中国と台湾の反応を招いている。報道では、起点は2026年5月28日の日比首脳会談後の共同声明とされ、両国が排他的経済水域(EEZ)や大陸棚を含む海洋境界の画定に向けた交渉を進める方針を示したと伝えられている。

その後、6月1日には中国海警局が台湾東方海域での活動を発表したとされ、6月2日には中国側が日比だけでの交渉に異議を唱え、台湾側も自らの権益に関わるとして協議を求めたと報じられた。対象海域の正確な範囲は公式資料での確認が残るが、台湾東方海域とされる場所は、日本の南西諸島、台湾、フィリピン北部が近接する海域にあたる。

一見すると、日比二国間で海の境界線を整理する技術的な話に見える。しかし、この海域では漁業、海底資源、海洋調査、法執行、安全保障が重なりやすい。日本にとっても、南西諸島周辺の安全保障、台湾周辺の緊張、フィリピンとの海上協力を考えるうえで、遠い海の線引きでは済まない論点を含む。

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なぜ日比の交渉が中国と台湾の反応を招いたのか

今回の構図でまず分けたいのは、中国と台湾の反応が同じ理由に基づくものではないという点だ。

中国は、台湾を自国の一部とする立場から、台湾東方海域にも中国のEEZや大陸棚があると主張しているとされる。この論理では、日本とフィリピンだけで対象海域の境界を協議すること自体が、中国の権益に関わる問題として扱われる。

一方、台湾当局は中国の立場に同調しているわけではない。報道では、台湾外交部が、日比交渉の対象海域が台湾側の権益主張海域と重なるとして、台湾との協議を求めたとされる。台湾側の反応は、中国の主権主張とは別に、漁業、資源管理、海上の安全といった実務面で関与を求める面があると考えられる。

つまり、日比の二国間交渉、中国の主権主張、台湾の協議要求という三つの主張が、同じ海域をめぐって交差している。ここを混ぜると、「中国と台湾が同じ反対をしている」という誤解につながる。

EEZと大陸棚は、領土ではなく資源と海上活動のルールに関わる

EEZは、沿岸国が水産資源や海洋資源の利用について一定の権利を持つ海域を指す。領土や領海そのものとは異なり、他国の航行を全面的に排除するものではないが、漁業、海洋調査、資源管理には深く関わる。

大陸棚は、主に海底や地下の資源に関わる概念だ。水面の利用だけでなく、海底資源の調査や開発、周辺海域での管理のあり方にもつながる。このため、海洋境界の画定は、地図に線を引く作業であると同時に、どの国がどの範囲で資源利用や調査の権利を主張するのかを整理する作業でもある。

日本政府は、仮に日比間で境界画定に関する協定ができても、それは当事国である日本とフィリピンの権利義務を定めるもので、第三者を法的に拘束しないとの立場を示していると報じられている。読者向けに言い換えれば、日比間の合意が中国や台湾の主張を自動的に消すわけではない、という説明になる。

この切り分けは重要だ。日比が国際法に基づく二国間交渉として進める話と、中国や台湾が自らの権益を主張する話は、法的にも政治的にも同じ層に置けない。

台湾側の協議要求は、漁業秩序の文脈でも読める

台湾周辺の海では、主権問題を直接解決しないまま、漁業の実務ルールを整える枠組みが使われてきた。米シンクタンクCSISの海洋安全保障分析サイト、Asia Maritime Transparency Initiativeは、2013年の日台漁業取決めを、主権問題を棚上げしながら漁業秩序を調整した事例として解説している。

この事例を今回の日比交渉にそのまま当てはめることはできない。日台漁業取決めの対象海域と、今回の日比交渉の対象海域がどの程度重なるのかも、現時点の素材だけでは断定できない。

ただ、台湾側が協議を求める背景を考える手がかりにはなる。海の境界をめぐる対立では、主権や法的立場を一度に解決できなくても、漁業者の操業、安全な取り締まり、資源管理を実務的に調整する余地がある。台湾の反応も、こうした実務秩序への関与を求める文脈で読む余地がある。

日比接近は、安全保障協力の流れとも重なる

今回の海洋境界交渉は、日比関係の強化という流れとも重なっている。AP通信は、2026年5月28日の日比首脳会談をめぐり、防衛協力の強化や包括的・戦略的パートナーシップへの格上げを、中国の軍事活動、台湾、東シナ海、南シナ海をめぐる安全保障環境の中で報じている。

フィリピンは南シナ海で中国との緊張を抱え、日本は東シナ海や南西諸島周辺で中国の海洋活動に向き合っている。台湾東方海域は、その二つの関心が地理的に接続する場所でもある。

そのため、日比の境界画定交渉が法的・技術的な作業であっても、中国側や周辺国からは、安全保障協力の流れと重ねて受け止められる余地がある。ここで重要なのは、境界交渉そのものと防衛協力を同一視しないことだ。両者は別の論点だが、同じ時期に進むことで、周辺国の警戒材料になりやすい。

中国海警局は中国の海上法執行機関であり、台湾東方海域での活動発表があったとされる点も注目される。ただし、発表の原文、船艇数、航路、日比交渉への言及の有無が確認されるまでは、日比交渉への直接的な対抗措置とまでは言い切れない。同じ時期に海上での活動発表もあった、という範囲で整理するのが妥当だ。

日本にとっては、線引きと海洋秩序の両方が論点になる

日本にとって今回の問題は、フィリピンとの境界をどこに置くかだけではない。南西諸島、台湾、フィリピン北部を結ぶ海域で、二国間の法的整理、中国の主張、台湾の協議要求、海上法執行機関の活動が重なっている。

漁業面では、操業ルールや取り締まりの不透明さが高まると、漁船が警備当局と接触するリスクへの警戒が強まる。海上調査や民間船舶の運航でも、どの国の当局がどの範囲で活動するのかが曖昧になれば、安全確認の負担は増える。

一方で、現時点で特定企業や株式市場への直接的な影響を結びつける材料は確認されていない。AP通信が報じた日比の防衛協力や武器移転協議の文脈はあるが、防衛関連銘柄や投資テーマに広げるより、海洋秩序と地域外交の問題として整理する方が自然だ。

今後確認したいのは、日比交渉の対象海域の範囲、中国と台湾の公式発言の正確な内容、日本政府の法的説明、フィリピン側がこの交渉をどの政策文脈で位置づけているかだ。日比間の合意が第三者の主張を消すものではないとしても、台湾東方海域で法的説明と実務協議をどう組み合わせるかは、日本、フィリピン、台湾、中国の関係を読み解く重要な材料になる。

出典・参考

主な参照資料

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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