東南アジアで日本が8年連続信頼度トップ──米中への不信が映す外交的財産

東南アジアの有識者層に「最も信頼できる大国」を問うと、日本が8年連続で首位に立った。2026年4月7日に公表されたシンガポールのシンクタンク、ISEASユソフ・イシャク研究所の年次調査では、日本への信頼度は65.6%だった。EUの55.9%、米国の44.0%、中国の39.8%、インドの38.5%を上回る。

この結果は、日本外交の蓄積を映すと同時に、米中両大国への警戒が強まる地域心理も映し出している。東南アジアでいま起きているのは、「影響力」と「信頼」が一致しないという現実の可視化だ。

table of contents

「最も信頼される国」と「最も影響力のある国」は違う

ISEASの2026年版報告書によると、調査対象は東南アジア各国の有識者2,008人で、政府、企業、研究機関、メディア、市民社会など幅広い層が含まれる。一般世論を測る調査ではなく、政策や言論に影響力を持つ層の見方を捉えたものだ。

日本を信頼する理由として最も多かったのは、「国際法を尊重し、その擁護に努める責任ある主体」という見方で、41.4%を占めた。ここに、日本が東南アジアで得ている評価の中身が表れている。

一方で、同じ報告書では中国が経済面で55.9%、政治・戦略面で40.0%と、依然として地域で最も大きな影響力を持つ存在とみなされている。つまり東南アジアでは、中国が最も影響力を持つが、日本が最も信頼されている。このねじれこそが今回の調査の核心だ。

信頼は歴史の上に積み上がった

もっとも、日本への信頼は最初からあったわけではない。東南アジアの多くの国は、第二次世界大戦中に旧日本軍の占領や支配を経験している。戦後も、日本企業の進出が現地で反発を招き、1970年代にはインドネシアで大規模な反日デモが起きた。日本は長いあいだ、無条件に歓迎される存在ではなかった。

その流れを変える節目になったのが、1977年に福田赳夫首相が打ち出した「福田ドクトリン」だった。外務省が現在も整理している3原則は、「日本は軍事大国にならない」「ASEANと心と心の触れあう関係を築く」「日本とASEANは対等なパートナーである」というものだ。

この原則は、その後の日本の東南アジア外交の基調になった。政府開発援助によるインフラ整備や人材育成、企業活動、人的往来の積み重ねを通じて、日本は「押しつけの弱い関与」を続けてきた。かつての加害の記憶が残る地域で、信頼が一朝一夕ではなく、長い時間をかけて築かれたことは重い。

米中対立の激化が日本の立ち位置を押し上げた

今回の調査が示すもう一つのポイントは、東南アジアが単純に「親日化」したわけではないということだ。地域の不安の中心には、米中対立の激化がある。

報告書では、「米中のどちらかを選ぶよう迫られた場合」に中国を選ぶとの回答が52.0%で、米国の48.0%を上回った。ただし、これを東南アジアの中国傾斜と読むのは早計だ。同じ報告書では、55.2%が大国間競争への対応として「ASEANの強靱性と結束の強化」を優先している。地域が求めているのは、どちらかへの従属ではなく、戦略的な自律性の維持だ。

そう考えると、日本への高い信頼は、日本固有の蓄積だけでなく、米中双方への不安が重なって生まれたものと読める。中国は影響力が大きいが、南シナ海問題などを背景に警戒も強い。米国も依然重要な存在だが、政治の振れ幅や対外姿勢の不安定さが見られている。そうした中で、日本は相対的に安定した存在として映りやすい。

それでも信頼は自動的には続かない

日本にとって重要なのは、この信頼を既得権と誤解しないことだ。ISEASが2026年2月に公表した別の分析は、日本が防衛協力や安全保障ネットワークを広げる一方で、東南アジア諸国は対立をあおるような力の政治に慎重であり、国内世論や歴史認識にも気を配らざるを得ないと指摘している。

2026年3月の東京会議でも、インドネシアのユドヨノ元大統領は、力による競争が強まる時代にアジアの中堅国が多国間主義を支える役割を果たすべきだと訴えた。日本に期待が集まるのは、前面に出て地域を引っ張る軍事大国だからではない。国際法やルールを重んじつつ、相手の自律性を尊重する国として見られてきたからだ。

日本の信頼は、長年の関与の成果であると同時に、米中への不安が生み出した相対的な優位でもある。だからこそ今後も必要なのは、存在感の拡大それ自体ではなく、東南アジアが求める距離感を崩さないことだ。8年連続首位という結果は、日本外交の到達点であると同時に、その慎重さがなお試されていることも示している。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents