中東情勢の緊迫を受けて、政府は3月31日、関係閣僚会議を開いた。注目すべきは「誰が担当閣僚になったか」ではない。今回の動きの本質は、エネルギー危機への対応が「原油を確保する」段階から「必要な現場に届かせる」段階へと、静かにシフトしたことにある。
「量は足りているのに、届かない」という矛盾
赤澤亮正経済産業大臣は今回の担当閣僚就任にあたり、こう述べた。「全体として原油の供給量は足りているが、供給の偏りや流通の目詰まりで国民や利用者などの不都合や不便がある」
この言葉は、一見矛盾している。量は足りているのに、なぜ問題が起きるのか。
石油製品は、輸入、精製、貯蔵、輸送、販売という複数の工程を経て初めて現場に届く。どこか一段階でも偏りや契約不調、物流の滞りが生じれば、全国トータルでは足りていても、特定の地域や業種では「入らない」という現象が起きる。これが「供給の偏り」と「流通の目詰まり」の実態だ。
政府対応の4段階を振り返る
今回の横断的な調整体制は、唐突に始まったわけではない。経産省の一次資料をたどると、対応は段階的に積み上がってきた。
第1段階(3月2日):対策本部の設置
経産省は「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」を設置した。赤澤経産相が本部長に就き、エネルギー安定供給や物価、日本経済全体への影響を把握する体制を整えた。この時点では、経産省の省内対応が中心だった。
第2段階(3月14日):情報の集約
経産省は、燃料油や石油製品の供給状況に関する情報の提供受付を開始した。事業者や消費者から、供給状況、契約状況、今後の調達見込みなどの情報を収集し始めた。政府がこの段階から「総量不足」より「地域差・契約差・流通差」に着目していたことが、この動きから読み取れる。
第3段階(3月16日):備蓄の放出
民間備蓄義務量を15日分引き下げるとともに、当面1か月分の国家備蓄石油の放出を決定した。ここでの目的は価格抑制だけでなく、「国内供給網を切らさないこと」だ。供給状況を総点検し、偏りや目詰まりを把握・調整する段階が、この後に続くことになる。
第4段階(3月31日):省庁横断の配分調整
そして今回だ。担当閣僚の下に省庁の垣根を越えた体制をつくり、供給状況を総点検し、偏りや目詰まりを把握・調整する。これが現在地だ。
なぜ「省庁横断」が必要なのか
石油製品と聞くと、ガソリンや灯油を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし実際の影響範囲はずっと広い。
政府が今回挙げた具体例は、ナフサ(石油化学製品の原料)、医療用の透析機材・注射器・手袋・エプロン、バスやフェリーの燃料、工場の燃料、農林水産業の現場で使う燃料などだ。これらの所管は経済産業省だけではない。例えば、透析に使うプラスチック製品は厚生労働省、バスやフェリーの燃料は国土交通省が所管する。農業・漁業用燃料は農林水産省と、縦割りに分かれている。
縦割りのまま動けば、情報もばらばらになる。どの省庁のカウンターに情報が集まっているか分からなければ、「どこが足りていないか」すら把握できない。だからこそ、赤澤経産相を中心に情報を集約し、優先順位をつけて配分を調整する横断体制が必要になった。
外交・備蓄・国内調整を一本化する役割
赤澤氏が今回の担当閣僚として適任とみられる背景には、3月以降の外交実績もある。3月5日にはUAEと会談し、日本への原油・LNG(液化天然ガス)の安定供給継続を要請。3月18日にはカタールとのエネルギー協力も確認している。
つまり赤澤氏はすでに、国際的な代替供給の確保に動いてきた人物だ。今回の担当閣僚化は、その「外交・備蓄・国内流通調整」を一本の指揮系統にまとめる意味合いが強い。
焦点は「誰が届けるか」の政治だ
政府は今後、重要物資の供給状況を総点検し、海外を含めたサプライチェーン全体を踏まえた具体的な対応方針を検討するとしている。
エネルギー危機の局面で問われるのは、最終的には「誰にどう優先的に届けるか」という意思決定だ。透析患者の医療資材か、農作物を運ぶトラックの燃料か、漁船の軽油か。量が足りていても、配分の優先順位が決まらなければ現場は動かない。
今回の横断的な閣僚体制は、その方向を鮮明にした動きとして読める。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

