3月30日夕方、高市総理大臣は官邸で赤澤亮正経済産業大臣と会談し、「中東情勢に伴う重要物資安定確保」を担当する閣僚に赤澤氏を充てることを伝えた。今後は経産省が関係省庁からの要請をとりまとめ、必要な物資の供給を企業側に働きかけていく体制となる。
しかしこのニュースを「赤澤氏が新たなポストに就いた」という人事の話として読むだけでは、その本質を取り逃す。今回の担当閣僚化が意味するのは、3月初旬から続いてきたエネルギー危機対応が、新たな政策フェーズへ移行したことだ。
赤澤氏の立場はどう変わったのか
赤澤氏はすでに3月2日、経産省内に設置された「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」の本部長として、エネルギー安定供給の対応を指揮してきた。この段階では、役割の中心はあくまで経産省内の対策本部長だった。
今回の変化は、その立場を官邸直轄の全省庁横断の調整役へ引き上げた色合いが強い。担当閣僚は、所管が複数の省庁にまたがる問題に対し、全体調整の政治責任を負う司令塔役として位置づけられる。省の壁を超えた調整を動かせる立場の違いがある。
なぜ「経産省だけ」では足りないのか
今回の政府対応の難しさは、石油製品の影響範囲の広さにある。
赤澤氏の指示の対象として挙がった品目を見ると、ナフサ(石油化学製品の原料)、人工透析に使うプラスチック製品、輸血パックや注射器、医療用手袋・エプロン、バス・トラック・フェリーの燃料、農林水産業向け燃料と多岐にわたる。医療資材は厚生労働省、交通用燃料は国土交通省、農業用燃料は農林水産省と、それぞれ所管が分かれている。
赤澤氏は「日本全体として必要な原油や石油製品の量は確保されているものの、供給の偏りや流通の目詰まりで不便や不都合を生じている場合がある」と述べた。つまり問題は「量が足りない」ことではなく、「必要な場所に届いていない」ことだ。この配分の偏りを直すには、一省庁の権限では限界がある。誰かが縦割りの上に立って、情報を集約し、優先順位をつける必要がある。
対応は4段階で進んできた
今回の担当閣僚化は、3月以来の政策の流れの延長線上にある。
3月2日に経産省がエネルギー対策本部を設置してからこれまで、政府の対応は段階的に積み上がってきた。3月14日には燃料油や石油製品の供給状況に関する情報提供受付を始め、地域差・契約差・流通差という「目詰まり情報」の集約に入った。3月16日には民間備蓄義務量を引き下げ、国家備蓄石油の放出を決定した。この時点で「量の確保」の手は一定程度打ったが、状況の長期化次第では十分かどうかは予断を許さない。
そして今回の担当閣僚化で、対応は供給の偏りや流通の目詰まりを総点検し、必要な調整を進める段階へ進んだ。
赤澤氏はなぜこの役に適任とみられるのか
外交面でも、赤澤氏はすでに動いていた。3月5日にはUAEと会談し、日本への原油・LNG(液化天然ガス)の安定供給継続を要請。3月10日にはIEA(国際エネルギー機関)のビロル事務局長とオンライン会談を行い、国際エネルギー市場の安定化に向けたIEAのリーダーシップへの期待を伝えた。
国内の流通調整だけでなく、外部調達や国際連携の窓口も兼ねる存在として、赤澤氏が担当閣僚の役割をひとまとめに担う構図となっている。
焦点は「誰に届けるか」の政治へ
赤澤氏は「国民に不安な状況が起きているという認識はあり、そこをきちんとつぶしていきたい」と述べた。
今後の焦点は、透析患者の医療資材か、バスや農作業の燃料か、どこを優先して確保するか、という配分の意思決定になる。量が足りていても、届け先の優先順位が決まらなければ、現場の不安は解消しない。今回の担当閣僚化は、そうした配分判断を政治として扱う体制づくりが進んだと読める。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

