ホルムズを通らない原油が届いた——代替ルートの実証と、それでも残る限界

2026年3月29日、愛媛県今治市の太陽石油の製油所に、中東産の原油を積んだタンカーが入港した。積み荷はサウジアラビアから輸入した約10万キロリットルの原油。注目すべきはその経路だ。アメリカとイスラエルがイランに対する軍事作戦を開始して以来、通常の商業通航が事実上封鎖に近い状態となっているホルムズ海峡を通らずに運ばれてきた。会社によれば、この軍事作戦開始後に中東を出発した原油が日本に到着したのは、今回が初めてだという。

「無事に原油を受け入れることができて安どしている」——太陽石油の石川純一四国事業所長はこう語った。その言葉には、エネルギー安全保障の最前線に立つ企業の、率直な安堵感がにじんでいた。

しかし今回のニュースが示す本当の意味は、「1隻届いた」という事実そのものより、代替ルートが実際に機能することを日本が初めて確認した、という点にある。そして同時に、その代替が全面的な解決策にはなり得ない現実も浮き彫りにした。

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ホルムズ海峡とは何か——なぜここが詰まると日本に直撃するのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾とオマーン湾を結ぶ世界有数のチョークポイント(輸送上の隘路)だ。最も狭い地点では幅が約34キロメートルほどしかなく、さらにその中の航行レーンはさらに細い。サウジアラビア、イラク、クウェート、アラブ首長国連邦(UAE)など中東主要産油国の原油タンカーが外海へ出るために通過しなければならない要衝であり、米エネルギー情報局(EIA)の分析によれば、世界の海上原油輸送量のうち相当割合がこの海峡を経由している。ここが詰まれば世界のエネルギー市場に連鎖的な影響が及ぶ。

日本は原油のほぼ全量を輸入に頼い、そのうち中東からの依存度は依然として高い。イラン情勢が緊迫化してホルムズの通過リスクが高まれば、タンカーの保険料・用船料が跳ね上がり、輸送そのものが成り立ちにくくなる——それが現在進行中の状況だ。

なぜサウジならホルムズを迂回できたのか

今回の実証に欠かせない前提がある。それは今回の原油がサウジアラビア産だったという点だ。

サウジは国営石油会社サウジアラムコを通じて、ペルシャ湾岸の東部とアラビア半島の紅海側を結ぶ「イースト・ウエスト・パイプライン」を保有している。このパイプラインを使えば、ホルムズ海峡を通らずに紅海側の港ヤンブーから原油を積み出すことができる。サウジの西岸積み出し能力を踏まえると、今回のタンカーもヤンブー経由のルートをたどった可能性が高い。

この仕組みが重要なのは、「中東産ならどこでもホルムズを回避できる」わけではないからだ。イラクやクウェートはホルムズへの依存度が高く、UAEも一部に迂回ルートを持つものの、サウジのように大規模かつ柔軟に代替できる輸出インフラを持つわけではない。「サウジだからできた代替ルート」という点は、今後の原油調達を考える上で見落とせない条件だ。

代替ルートに残る3つの壁

代替ルートが機能したとはいえ、それが即座に全面的な危機回避を意味するわけではない。現実には3つの制約がある。

容量の上限。イースト・ウエスト・パイプラインの輸送能力には限界がある。通常時でも稼働率には上限があり、危機が長期化して需要が集中すれば輸送量は頭打ちになる。今回の10万キロリットルは日本の1製油所の受け入れ分だが、日本全体の石油需要の全面代替を一手で担える規模とは言いにくい。

油種と設備の相性。製油所は原油の種類(硫黄分・密度など)によって精製効率が変わる。「どこの原油でも同じ製品が同じ割合で作れる」わけではなく、設備との相性によっては精製ロスが増えたり、特定の石油製品の生産量が落ちたりする可能性がある。調達先を多様化するといっても、設備との整合が伴わなければ意味は限られる。

コストと時間のコスト。通常ルートを大きく迂回することで輸送距離と日数が増え、用船コストも上昇する。これは精製・卸のコストに転嫁され、最終的にはガソリンや軽油の価格に波及する可能性がある。「届いた」ことと「安く届いた」ことは別の話だ。

ガソリンだけでなく、ナフサも重要な意味を持つ

今回受け入れた原油は、ガソリンや軽油だけでなくナフサの生産にも使われる。ナフサはプラスチックや合成繊維、塗料など幅広い化学製品の原料となる石油化学工業の基礎素材だ。エネルギーとしての石油だけでなく、私たちの生活に欠かせない工業製品の原材料の観点からも、今回の原油到着は単なる「燃料の話」にとどまらない意味を持つ。

石油危機が現実化した場合、問題は「ガソリンスタンドに燃料があるか」だけではなく、「プラスチック原料が回るか」にまで及ぶ。その意味でも、代替ルートによる原油調達が維持されるかどうかは、製造業全体にとっての問題でもある。

「届いた」は危機の終わりではなく、時間を買う手段

太陽石油は「原油調達の多様化に取り組み、関係省庁などと連携しながら対応していきたい」と語った。これは単なる社交辞令ではなく、現状認識を正確に示している。

エネルギー安全保障の文脈では、代替ルートによる調達や国家石油備蓄の放出は、危機そのものを解消するのではなく、問題解決のための時間を買う手段として機能する。今回の到着も、日本のエネルギー安全保障に余力があることを示す一方で、中東情勢が長期化すれば同じことを繰り返し続けなければならないという課題も突きつけている。

資源エネルギー庁によれば、日本は法律に基づき国家備蓄と民間備蓄を合わせた石油備蓄を維持しているが、危機の長期化は備蓄消化のペースを早める。代替ルートでの継続調達が備蓄を補完する形を保てるかどうか、今後の注目点はそこにある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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