国民健康保険とは? 自営業者や退職後に入る仕組みを解説

「国民健康保険」という言葉を知っていても、自分とは縁遠い制度だと感じている会社員は多い。しかし実際には、退職したとき、扶養から外れたとき、働き方が変わったとき——人生の節目ごとに、この制度は突然身近な存在になる。この記事では、国民健康保険の基本的な仕組みから健康保険との違い、退職後にどう考えるかまでを整理する。


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国民健康保険とは何か

国民健康保険(以下、国保)は、他の公的医療保険に加入していない人を支える制度だ。厚生労働省は国保を「被用者保険や後期高齢者医療制度に加入していない全ての住民を対象とする医療保険制度」と説明している。

被用者保険(ひようしゃほけん)とは、会社員などが入る健康保険のことだ。健康保険や後期高齢者医療制度(75歳以上が対象)に入っていない人は、原則として国保に加入することになる。つまり国保は、他の医療保険に加入していない人を支える制度として機能している。

「自営業者の保険」というイメージが強いが、それだけではない。会社を辞めた人、扶養から外れた人、学生なども加入する。日本に住む人なら、人生のどこかで関わる可能性のある制度だ。

公的医療保険の分類上、国保は「地域保険」に位置づけられる。健康保険が会社を通じて入る保険であるのに対し、国保は住所地のある市区町村(または都道府県)ベースで加入する仕組みになっている。


どんな人が国民健康保険に入るのか

自営業者・フリーランス

個人事業主、フリーランス、農業や漁業に従事する人など、勤務先の健康保険に入らない働き方をしている人が主な対象だ。自分で事業を営む場合は、原則として国保が医療保険の選択肢になる。

無職の人、学生など

他の医療保険に入っていない場合は、無職の人や学生も国保の加入対象になる。学生の場合、親の健康保険の被扶養者に入っているケースもあるが、条件を満たさない場合は国保に加入することになる。

退職後の人

会社を辞めて職場の健康保険から外れると、医療保険の切り替えが必要になる。このとき国保は有力な選択肢の一つだ。退職後に国保へ移る人は多いが、後述するように他の選択肢もある。

加入しない人

以下に該当する人は国保に入らない。

  • 健康保険(協会けんぽや健保組合)に加入している人
  • 健康保険の被扶養者(家族として扶養に入っている人)
  • 後期高齢者医療制度の対象者(75歳以上)
  • 生活保護を受給している人など

これ以外の人は、基本的に国保に加入する対象になる。


国民健康保険は誰が運営しているのか

市町村国保

国保の大部分は、都道府県と市区町村が連携して運営している。2018年度からは都道府県が財政運営の主体となり、市区町村は資格管理や保険料の徴収、給付の窓口を担う形になっている。加入・脱退の手続きは、基本的に住んでいる市区町村の窓口で行う。

国民健康保険組合

特定の職種や業種に従事する人向けに、国民健康保険組合が設立されている場合もある。医師、歯科医師、弁護士など、業界ごとに組合が存在し、市区町村国保とは別の保険者として運営される。ただし一般的な読者の多くは、市区町村の窓口で加入する市町村国保が主な関係先になる。


健康保険との違いはどこにあるのか

国保と健康保険は名前が似ているが、仕組みは大きく異なる。この違いを知ることが、国保を理解する核心になる。

会社を通じて入るか、住所地ベースで入るか

健康保険は、勤務先の会社を通じて加入する。会社が保険者(運営主体)と契約し、従業員は自動的に適用される。

一方、国保は住所地のある市区町村を通じて加入する。勤務先は関係なく、その地域に住んでいる人が個人で加入する仕組みだ。

扶養の仕組みがあるか

健康保険には「被扶養者」の制度があり、収入の少ない配偶者や子どもを扶養に入れることができる。扶養に入れた家族は、追加の保険料なしに同じ保険の保障を受けられる。

国保にはこの被扶養者制度がない。家族であっても、それぞれが個別の被保険者として扱われる。保険料は世帯単位で算定され、加入者数も保険料に反映されるため、家族が多いほど世帯の保険料は大きくなりやすい。これは健康保険と国保の最も大きな違いの一つだ。

保険料の決まり方

健康保険の保険料は、給与や賞与をもとに算定され、会社と本人が折半して負担する。給与から天引きされる形が一般的で、本人が全額を払うわけではない。

国保の保険料は、前年の所得や世帯の加入人数などをもとに市区町村が算定する。保険料は全額が加入者(世帯)の負担で、会社負担はない。自分で納付書を使って支払う形になる。

退職して国保に切り替えると「思ったより保険料が高い」と感じることがある。その背景には、在職中には会社が半分を負担してくれていた分が消え、全額が自己負担になることがある。

受けられる給付

医療費の自己負担を軽くする療養の給付や高額療養費など、基本的な給付は健康保険と国保に共通する部分がある。

一方、健康保険にある「傷病手当金」(業務外の病気・けがで休業したときの所得補償)と「出産手当金」(出産のために休業した本人への給付)は、国保では原則として一般の制度にない。これは会社員と自営業者の保障の設計差として重要な点だ。


国民健康保険料はどう決まるのか

保険料は全国一律ではない

国民健康保険料(または国民健康保険税)は、自治体ごとに水準や算定方法が異なる。「国保の保険料はいくら?」という問いに一概に答えられないのはこのためで、同じ所得・世帯構成でも住んでいる自治体によって金額が変わる。

「国保は高い」と感じるかどうかも、居住地や収入水準によって大きく異なる。

所得や世帯構成が影響する

国保の保険料は、主に前年の所得をもとに計算される(所得割)ほか、被保険者一人ひとりに課される均等割、世帯ごとに課される平等割なども組み合わさることが多い。

世帯に加入者が多いほど均等割の合計が増えるため、家族が多い世帯では保険料の総額が大きくなりやすい。健康保険なら扶養に入れる家族も、国保では各自が被保険者として保険料の対象になるためだ。

軽減や減免がある場合もある

所得の低い世帯には、均等割や平等割の軽減制度がある。また、災害や失業などの事情がある場合は、自治体の判断で保険料の減免が受けられることもある。2024年度からは産前産後期間の保険料軽減制度も設けられた。

ただし軽減・減免の条件や内容は自治体によって異なるため、詳細は居住する市区町村の窓口や公式情報で確認が必要だ。


国民健康保険で受けられる主な給付

病気やケガで医療を受けるとき

健康保険と同様に、国保でも「療養の給付」として医療費の一部が保険でカバーされる。一般的に現役世代は医療費の3割が自己負担となる。

医療費が高額になった場合には「高額療養費」の制度があり、1か月の自己負担が一定の上限を超えた分は後から払い戻しを受けられる。この仕組みは健康保険と基本的に共通している。

出産したとき

国保でも「出産育児一時金」が支給される。1児につき原則50万円(一定の条件による)が支給され、出産費用の負担を抑える仕組みは健康保険と共通している。

亡くなったとき

国保の加入者が亡くなった場合、「葬祭費」として一定額が支給される。健康保険の「埋葬料」に相当する給付だが、名称と金額は自治体によって異なる。

健康保険と違って原則ない給付

健康保険にある以下の給付は、国保では原則として一般制度にない。

  • 傷病手当金:業務外の病気やけがで仕事を休んだ際の所得補償
  • 出産手当金:出産のために仕事を休んだ被保険者本人への給付

自営業者やフリーランスは、病気で仕事ができなくなっても国保からの所得補償は原則として受けられない。これは健康保険に比べた大きな違いであり、民間の所得補償保険などを検討する動機になりやすい点でもある。


退職したら国民健康保険はどう関わるのか

会社を辞めたら医療保険の切り替えが必要

退職すると、翌日には職場の健康保険の被保険者資格を失う。被扶養者として入っていた家族も同様だ。その後は何らかの医療保険に入り直す必要があり、国保はその選択肢の一つになる。

退職後の選択肢は大きく3つある。①国民健康保険への加入、②任意継続(退職前の健康保険を最長2年間継続する制度)、③家族が加入する健康保険の被扶養者になる、だ。「国保一択」ではないことを最初に知っておくと、選択肢の比較がしやすくなる。

国保への加入は自動的には切り替わらない。原則14日以内を目安に、住んでいる市区町村の窓口で手続きを行う必要がある(案内の表現は自治体によって異なる場合があるため確認が必要)。

任意継続との違い

任意継続とは、退職前の健康保険に最長2年間加入し続けられる制度で、退職日の翌日から20日以内に申請する必要がある。

任意継続と国保では、保険料の水準が異なる場合がある。任意継続は退職前の標準報酬月額をもとに保険料が計算され、会社負担分がなくなるため全額自己負担になる。国保は所得や世帯構成をもとに算定される。どちらが安いかは個人の収入状況や世帯構成によって変わるため、一概には言えない。

また、任意継続中は以前の健康保険の被扶養者制度が引き続き使える場合があるが、保険料の扱いや給付条件は退職前と異なる部分もあるため、詳細は各保険者への確認が必要だ。

家族の扶養に入る選択肢

収入が一定以下であれば、配偶者や親族が入っている健康保険の被扶養者になる道もある。被扶養者になれれば、追加の保険料なしに医療保険の保障が受けられる。

どれを選ぶかは保険料、扶養の条件、給付内容を比較して判断する必要がある。

退職直後に迷いやすいポイント

退職後の医療保険の選択は、以下の点が判断の核になる。

  • 保険料の比較:国保と任意継続のどちらが安いかを試算する
  • 扶養に入れるか:配偶者などの健康保険の要件を確認する
  • 手続きの期限:国保は退職後原則14日以内、任意継続は20日以内が一般的な目安
  • 傷病手当金との関係:退職前から傷病手当金を受給している場合は、受給継続の条件を確認する

これらは状況によって最適解が変わる。制度の全体像を知った上で、個人の状況に合わせて判断することが大切だ。


国民健康保険で誤解しやすいポイント

国保は自営業者だけの制度ではない

退職後や扶養から外れた人も多く加入している。「自分は会社員だから国保は関係ない」という認識は、退職や転職を機に覆ることが多い。

家族がいても健康保険のような扶養はない

健康保険では家族を扶養に入れられるが、国保には同じ仕組みがない。保険料は世帯単位で算定され、加入者数も反映されるため、家族が多い世帯ほど保険料の総額が大きくなりやすい。

退職後に自動的に国保に切り替わるわけではない

国保への加入は自動では行われない。手続きを怠ると、無保険期間が生じる可能性がある。退職後はできるだけ早く手続きをすることが重要だ。

保険料は全国一律ではない

同じ所得でも居住する自治体によって国保の保険料は異なる。他の人の話を聞いても、自分の保険料の目安にならない場合がある。

国保は「高い」とは限らないが、会社負担がない分は意識が必要

在職中には会社が保険料の半分を負担してくれていた。国保に切り替えると全額が自己負担になるため、実質的な負担増を感じやすい。制度が変わる前後で保険料を比較して把握しておくことが役立つ。


Summary

国民健康保険は、他の公的医療保険に加入していない人を支える医療保険だ。自営業者・フリーランスだけでなく、退職後の会社員や扶養から外れた人など、幅広い人が関わる。

健康保険との主な違いは、①被扶養者制度がない、②保険料に会社負担がない、③傷病手当金・出産手当金が原則ない、の3点にある。保険料の水準は所得や世帯構成、居住地によって変わり、全国一律ではない。

退職後は国保・任意継続・家族の被扶養者の3択を比較することが大切で、「国保に自動的に切り替わる」という思い込みは注意が必要だ。

国保をひとつの入口として、後期高齢者医療制度や退職後の社会保険の選び方、任意継続との比較については、それぞれ個別の記事で詳しく見ていく。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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