空爆1か月・1万1000標的でも、イランは止まらない──湾岸の産業インフラ戦が始まった

アメリカとイスラエルがイランへの軍事作戦を開始してから、3月28日でちょうど1か月が経った。米中央軍(CENTCOM)はこの日、これまでに攻撃した標的が1万1000か所を超えたと発表した。数字だけ見れば圧倒的な攻撃規模だ。だが、この戦争が示しつつある現実は、その数字とは異なる景色を映し出している──1万1000標的を叩いても、イランはまだ湾岸諸国の産業施設を攻撃し続けているのだ。

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「攻撃件数」より重要なこと

米中央軍の発表によると、1か月間でイランの革命防衛隊(IRGC)関連施設、ミサイル関連施設など1万1000余りの標的を攻撃し、前回(3月23日)の発表からわずか5日間で約2000か所増えた。あわせてイランの艦艇150隻余りに被害を与えるか破壊したとしている。


革命防衛隊(IRGC)とは? イランの正規軍とは別に存在する精鋭部隊で、核・ミサイル開発やイラン国外への軍事工作を担ってきた。今回の米国の主要な攻撃対象の一つ。


しかし「攻撃件数の増加」を記事の中心に置くと、本質を見誤る。戦果発表をそのまま追うと米側優勢の印象が前に出るが、実際はそうではない。

WSJが伝えているように、これだけの打撃を受けてもなお、イランは報復能力を失っていない。イスラエルでは3月28日にテルアビブの男性1人がイランの攻撃で死亡し、湾岸諸国でも被害が相次いでいる。この戦争の本当の問いは「米軍が何か所叩いたか」ではなく、「それでもイランは何を止められていないか」だ。

アルミ工場が燃えた意味

3月28日、UAE(アラブ首長国連邦)のアブダビにある「エミレーツ・グローバル・アルミニウム(EGA)」がミサイルとドローンによるイランの攻撃で甚大な被害を受けたと発表した。従業員数人がけがをしたが、命に別状はなかったという。

EGAはUAEを代表する政府系色の強い巨大アルミ企業だ。アルミニウムは自動車、航空機、電線、包装材など幅広い産業の基幹素材で、FTによると湾岸地域は世界のアルミ生産量の約1割を占める。同紙は、日本や欧米の自動車メーカーが湾岸産アルミの供給不安を懸念し始めていると伝えている。


エミレーツ・グローバル・アルミニウム(EGA)とは? ドバイとアブダビの2大首長国が出資するUAEの巨大アルミ製造企業。アルミ生産に必要な電力の規模はUAE全体の電力消費の数%に達するとされる産業インフラだ。


この攻撃が意味するのは、戦争の性質の変化だ。

これまで「中東危機」というと、ホルムズ海峡の通行とLNG・原油の輸送が焦点になることが多かった。しかし今の戦争では、港湾・空港・アルミ工場・電力施設といった湾岸の経済インフラが広く標的化されつつある。Human Rights Watchは3月17日の報告書で、イランの湾岸攻撃が住宅、空港、外交施設、金融街など民間インフラにも及ぶ傾向があると記録している。

石油危機ではなく「素材・産業インフラ危機」──それが今の戦争のもう一つの顔だ。

「トリポリ到着」が示すフェーズの変化

今回の発表に、もう一つ注目すべき内容が含まれていた。長崎県の佐世保基地に配備されている米海軍の強襲揚陸艦「トリポリ」が、3月27日に中央軍の管轄区域に到着したという発表だ。


強襲揚陸艦とは? 海兵隊を海から陸に上陸させるための艦船だが、現代の強襲揚陸艦はそれだけではない。垂直着陸できるF-35B戦闘機、CH-53ヘリコプター、オスプレイなどを搭載し、航空支援から上陸作戦、沿岸拠点の確保まで一体で動かせる「海上の移動基地」だ。空母より小型だが、汎用性は高い。


「トリポリ」には沖縄の第31海兵遠征部隊など海兵隊・海軍合わせて約3500人が乗艦し、F-35BやオスプレイなどもSNSで確認されている。さらに国防総省は米本土から陸軍第82空挺師団の一部、約2000人も中央軍管轄地域に派遣すると発表した。

米軍が具体的な任務を明かしていない以上、「カーグ島制圧が近い」などと断定するのは危険だ(米メディアはトランプ大統領が制圧作戦を承認した場合に海兵隊の増援に使われる可能性を伝えているが、あくまで可能性の話だ)。


カーグ島とは? イラン最大の原油積み出し拠点。ここを制圧または無力化すれば、イランの原油輸出とそれによる戦費調達に直接打撃を与えられると見られている。


ただし確実に言えることがある。作戦の初期を担ったのはB-2爆撃機、空母打撃群、精密誘導爆弾による遠距離航空攻撃だった。そこに強襲揚陸艦・海兵隊・空挺師団が加わることは、海上・沿岸・地上を含む長期的な選択肢を米軍が厚くしていることがうかがえる。短期の懲罰的空爆にとどまらない態勢へと構えが広がっている可能性を示す動きだ。

パキスタンの仲介と「出口の探し方」

外交面では、アメリカとイランを仲介しているパキスタンのシャリフ首相が3月28日、イランのペゼシュキアン大統領と1時間以上の電話会談を行った。シャリフ首相はイスラエルによるイランへの攻撃を非難しつつ、「対話と緊張緩和を促進するための外交努力を説明した」とし、パキスタンでの米イラン会合開催に意欲を示している。

ただしこれを「停戦が近い」と読むのは早計だ。軍事的には攻撃が拡大し続けており、パキスタンの動きは「戦争終結の見通しが立った」というより、「これ以上の拡大を防ぐための出口の会場だけは探している」段階と見るのが自然だ。

1か月が見せた戦争の輪郭

開戦1か月の時点でこの戦争が示しているのは、次のような輪郭だ。

米軍は核・ミサイル・革命防衛隊関連施設を狙う空爆で、イランのインフラに大規模な打撃を加えてきたと説明している。しかしイランはなお、湾岸諸国の経済インフラを傷つける能力を残している。戦争は当初の「軍事インフラを狙う空爆」の局面から、「湾岸の産業機能を互いに消耗させ合う局面」へと移行しつつある。

アルミ工場が燃えたことは、その転換の象徴だ。原油やLNGだけでなく、素材・製造業のサプライチェーンが戦場に引き込まれた。日本を含む製造業立国にとって、この変化は「エネルギー価格の問題」に留まらない話になりつつある。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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