「コメの値段が6週連続で下がっている」というニュースを聞いても、スーパーのレジで実感がわかない——そう感じている人は少なくないはずだ。その違和感は正しい。数字の裏側を見ると、「下がっている米」と「まだ高い米」の間に、はっきりした構造的な差がある。
平均価格という数字の「からくり」
農林水産省は全国のスーパー約1000店で販売されたコメの価格を毎週集計し、平均値を公表している。3月16日〜22日の週の平均は、5キロ当たり税込み3978円。前の週より2円安く、値下がりは6週連続となった。
しかしこの平均値は、「銘柄米」と「ブレンド米」を混ぜたものだ。銘柄米とは、産地と品種が単一で明示された米のこと——たとえばコシヒカリや新潟産ひとめぼれがそれにあたる。一方ブレンド米は、複数産地や複数品種を組み合わせた米で、価格を抑えやすい商品が多い。
今週の内訳を見ると、差は歴然だ。銘柄米は前週比わずか1円安の4088円とほぼ横ばいだったのに対し、ブレンド米などは25円安の3676円と大きく下がった。平均価格の「6週連続値下がり」は、主にブレンド米が引っ張っている。
高値在庫を抱えた卸が動き始めた
なぜブレンド米だけが先に動くのか。その背景は「供給が需要を上回る」という単純な話だけではない。
農水省によれば、2026年6月末の民間在庫は215万〜229万トンと高水準になる見通しだ。これは年間需要の3〜4か月分に相当する規模で、報道ベースでは2003年以降で最大級とされる。
問題は、流通の上流には高値で買い付けた米がなお残っているという点だ。卸と農協・集荷業者の間で決まる相対取引価格は、2026年2月時点でも玄米60キロあたり3万5056円と前年よりなお高い水準にある。つまり流通の上流では、まだ高値で買い付けた米が倉庫に残っている。
在庫が増えると、卸にとっては保管コストや値下がりリスクが膨らむ。そこで「早く出荷するために値段を少し下げる」という動きが出る。ただし高値在庫を全面的に安く売ると損失が膨らむため、まずブレンド米や低価格帯から崩し始めるのが現実的な選択だ。今起きているのは、「豊作で米が安くなった」という単純な値下がりではなく、「高値在庫を少しずつ消化する局面への移行」と見るほうが正確だ。
備蓄米放出の痕跡
この構図には、2025年に行われた政府の備蓄米放出も影響している。政府は昨年、入札で約31万トン、随意契約でさらに約28万トンの計約59万トンの政府備蓄米を市場に放出した。これらの米はブレンド米や低価格帯商品に組み込まれやすい傾向がある。
結果として、スーパーの棚ではブレンド米の選択肢が増え、値段が下がりやすい状態になっている。一方、コシヒカリなどの高品質銘柄米は需要が安定しており、価格を下げる理由が小売側にも薄い。
家計が「安くなった」と感じにくい理由
数字で見ると、その感覚的なズレはよりはっきりする。
2025年3月末の平均価格は5キロ4197円だった。その後も上昇し、昨年末には4337円まで達した時期もあった。今の3978円はそのピークから見れば下がっているが、コメが値上がりする以前の水準と比べるとまだかなり高い。銘柄米にいたっては今週も4088円だ。
6週連続で値が下がっているのは事実でも、家計の実感としては「高いままが少し緩んできた」にとどまる。家計がよく目にする主要な銘柄米が本格的に値下がりするには、まだ時間がかかるとみられている。
次の焦点は銘柄米が崩れるかどうか
現状はまだ「ブレンド米先行の値下がり」の段階だ。銘柄米の価格が本格的に動き始めるかどうかが、今後の焦点になる。
農水省は6月末まで供給量が需要量を大きく上回る見通しとしており、卸が在庫を抱え続ける圧力はしばらく続く。ただし相対取引価格の高止まりが続く限り、卸が大きく値下げして損失を拡大させる動きに踏み切りにくい。
「米が安くなった」と家計が実感できるのは、銘柄米まで値下がりが広がったときだ。その転換点はまだ先にある可能性がある。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

