沖電気工業と日立製作所が、ATM事業を統合すると発表した。日立の子会社に沖電気のATM事業を承継し、両社が出資する形で、2026年10月の事業開始を目指す。キャッシュレス化でATMの設置台数が減り続ける中、2社が手を組んで事業の効率化と新サービス開発に取り組む構図だ。
このニュースを「ATMメーカーが縮む話」として読むと、本質を見逃す。今回の統合の背景には、台数が減っても需要が消えないATMをめぐる、メーカー間の静かな再編が進んでいる。
ATMの台数は確かに減っている——しかし「消えた」わけではない
全国銀行協会のデータによると、ゆうちょ銀行や流通系の銀行を除いた大手・地方銀行などのATM設置台数は、2024年9月末時点で8万3000台あまりだ。ピークだった1999年と比べると、約3万5000台減少している。四半世紀で3割以上が姿を消した計算になる。
一方、経済産業省によると、2024年のキャッシュレス決済比率は42.8%に上昇し、政府目標の「40%」を達成した。スマートフォン決済やクレジットカードが広がり、消費の場面でキャッシュレスの選択肢が増えている。
ただし、キャッシュレス比率が上がっても現金需要がすぐゼロになるわけではない。消費全体の過半はなおキャッシュレス以外の手段に残っている。高齢層の日常生活、地域の小規模商店、税や公共料金の納付、災害時の現金需要——こうした場面では、ATMは依然として機能し続けている。
つまりATMは「消える」のではなく、「数を減らしながら役割を変える」段階に入っている。
台数が減るのに、開発負担が増えるという矛盾
問題はそこにある。ATMメーカーにとって、設置台数の減少は直接的な収入減につながる。機器を多く売れば採算が取れる量産モデルが成立しにくくなる。
その一方で、残るATMには新しい機能が次々と求められている。QRコード決済との連携、スマートフォンを使ったキャッシュレス入出金、本人認証の強化、さらには地方税や公共料金の収納まで——単純な現金の出し入れ機械から、多様な決済・サービスに対応した端末へと機能拡張が続く。
市場は縮むのに、開発への投資負担は軽くならない。これがATMメーカーを取り巻く構造的な難しさだ。今回の沖電気・日立の統合は、この矛盾に対する現実的な回答の一つだといえる。
OKIが示す「次のATM」像——小型化・多機能化・現金以外もつなぐ
沖電気工業(OKI)は、すでに次世代ATMの方向を打ち出している。
2026年1月、同社は肥後銀行に「CP-60」という省スペース型ATMを地域金融機関向けとして初めて納入すると発表した。このモデルは、従来型のフル機能ATMと比べて設置スペースと消費電力を約30%削減しながら、NFCやQRコード決済、スマートフォン連携、電子マネーへの対応を盛り込んでいる。
さらにOKIは2025年5月、「ATM PayB」という仕組みを打ち出した。これはATMのバーコードリーダーを使い、eL-QRやバーコード付きの納付書をその場で読み取って、地方税や公共料金を支払えるサービスだ。窓口が閉まった夜間でも、ATMで税金や光熱費が払えるようになる。
OKIの戦略は「小さく置けて、現金以外もつなげられるATM」に向かっている。ATMを現金インフラとしてだけでなく、スマホやQRコードとリアルな場をつなぐ接点として再定義する動きだ。
日立が見ている「ATM=窓口DXの道具」という発想
日立チャネルソリューションズ——日立製作所のATM事業を担う子会社——も、ATMの位置づけを「ハード製品」から「金融機関の店舗改革の装置」へと広げている。
同社が打ち出している「窓口現金レスソリューション」は、銀行の窓口で受けた現金取引をQRコード付きの帳票に変換し、顧客自身がATMで処理できるようにする仕組みだ。これにより、窓口の行員が現金に直接触れずに済み、接客に集中できる。
金融機関で窓口効率化や人員シフトの必要性が高まる中、顧客が増えない状況でコストを下げるには、窓口業務をどこまで効率化できるかが問われる。ATMはその流れの中で、「現金を引き出す機械」から「窓口業務を分担する装置」に変わりつつある。
なお日立チャネルソリューションズは、国内外でATM事業を展開しており、入金された紙幣を内部で保管してそのまま別の利用者への出金に使える「紙幣還流式ATM」で強みを持つ。今回の統合は衰退産業の縮小ではなく、「国内縮小市場での選択と集中」と理解したほうが実態に近い。
富士通の撤退が示す、メーカー再編の本格化
この統合の射程を広げるのが、富士通の動向だ。富士通は2025年6月、日本国内の自社ATMと営業店専用ハードウェアの提供を2028年3月末で終了すると発表している。同時にOKIとのハードウェア調達の基本合意にも言及し、自社はソフトウェア・サービス側に軸足を移す方針を明確にした。
これにより、国内の銀行向けATMハード市場では富士通、OKI、日立系が主要プレイヤーだったところに、富士通の事実上の撤退と今回のOKI・日立統合が重なり、ハード製造の主体は大きく絞られることになる。

NHKは「国内の生産体制が大きく再編される」と伝えているが、実態はそれ以上に深い。メーカー各社が「ハードを売る」モデルから「ATMを通じたサービス・ソリューションを提供する」モデルへと移行する過程での再編と読むことができる。
「ATMは時代遅れ」ではなく「ATMが変質する」
今回の沖電気・日立の統合は、縮む市場への防衛的な対応であることは確かだ。設置台数が減り、採算が悪化する中で、2社が生産・開発を束ねて効率化するのは合理的な判断だといえる。
一方で、残るATMに求められる機能は増え続けている。QRコード決済との連携、窓口業務の代替、省スペースで多機能な端末設計——こうした投資に応えるためには、単独では限界がある。
ATMは「消える」のではなく、少なくなりながら、現金・デジタル決済・窓口業務をつなぐ社会インフラとして変質しつつある。今回の統合は、その変質を担う体制を整える一つの象徴的な動きとして見ることができる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

