総務省と経済産業省は2026年3月27日、「2025年経済構造実態調査」の一次集計結果を公表した。対象は全産業の法人企業で、2024年の売上高を産業別に集計したもの。全産業合計は1968兆2776億円で、前年比0.8%増となった。最大は卸売業・小売業、次いで製造業と続き、卸売・小売と製造業が依然として日本の売上構造の中心を占めていることが改めて確認された。
「経済構造実態調査」とは何か
この調査は、景気速報より構造把握に向く統計だ。目的は、日本全体の企業や事業所がどのような売上・費用構造を持っているかを把握し、国民経済計算の精度向上に役立てることだ。また、5年ごとに実施される大規模な「経済センサス活動調査」の間をつなぐ統計としても機能する。
調査対象は、原則として全国の法人企業。ただし個人経営や一部の非営利組織は含まれない。調査の方式も独特で、全企業を余さず数える方式ではなく、産業分類ごとに売上高上位から累積して、その分類の売上総額の8割をカバーする範囲の企業を主な報告対象とし、全体を推計する設計になっている。
なお、調査名は「2025年」だが、集計している売上高は2024年1月から12月の1年間の実績値だ。名前と実態のズレが生じやすい点は、記事を読む際に頭に置いておくと分かりやすい。
日本の売上高を支える二大産業
今回の一次集計で最大の売上高を記録したのは、卸売業、小売業の542兆3153億円で、全産業に占める構成比は27.6%。次いで製造業が475兆5531億円(24.2%)となり、この2分野だけで全体の過半を占める。日本経済の売上規模を俯瞰すると、食料品から機械まで幅広い商品を動かす卸売・小売と、自動車や電機などを筆頭とする製造業が、依然として中心的な存在であることが分かる。
3位以下は金融業・保険業の162兆7186億円(8.3%)、医療・福祉の143兆3396億円(7.3%)、建設業の135兆3688億円(6.9%)と続く。
産業をさらに細かく見ると、各分野の稼ぎ頭がより具体的に見えてくる。卸売・小売では機械器具卸売業が99兆9085億円と最大で、製造業では輸送用機械器具製造業が96兆6277億円と首位。金融・保険では保険業が86兆8091億円となっている。
伸び率では専門・技術サービスが首位
売上規模では卸売や製造が群を抜くものの、前年からの伸び率に目を向けると、異なる分野の動きが見えてくる。
増加率が最も高かったのは、学術研究、専門・技術サービス業で9.7%増。コンサルタントやシステム設計、技術的な専門知識を提供する業種が集まるこの分野は、規模こそ大きくないが、成長の勢いでは際立った存在になっている。
続いて鉱業、採石業、砂利採取業が8.8%増、不動産業、物品賃貸業が7.1%増、宿泊業、飲食サービス業が5.9%増、情報通信業が5.0%増といった顔ぶれが並ぶ。宿泊・飲食のプラスはインバウンド需要や行動制限解除後の回復が影響している可能性があり、情報通信のプラスもデジタル投資継続の反映とみられる。
医療・福祉の「23%減」は額面通りではない
今回の集計で目を引く数字として、医療、福祉の23.0%減がある。ただし、この数字をそのまま「医療や介護の現場が急減した」と読むのは誤りだ。
資料には、この大幅な減少の背景として、「社会保険事業団体」の影響が挙げられている。社会保険事業団体とは、公的年金や健康保険を運営する組織のことで、その収益は年金運用の実績や社会保険料の変動によって大きく動く。この団体を統計から除くと、医療・福祉全体は前年比1.9%増となる。
つまり、医療・介護・福祉の現場での事業活動は緩やかに拡大しており、統計上の見かけ上の大幅減は、年金運用などの特殊要因による変動が大きく寄与していると考えるのが自然だ。こうした注意点は、資料自体も参考値として明示している。
一次から四次まで 段階的に深まる集計の仕組み
今回公表されたのは、あくまで「一次集計」だ。経済構造実態調査には一次から四次まで段階があり、回を重ねるごとに集計の詳しさが増していく。
一次集計(今回:2026年3月27日公表)では、産業横断調査のうち企業等に関する基本的な集計が公表される。産業別の企業数、売上高の大枠が中心で、”日本全体の売上マップ”の速報版にあたる。
二次集計(2026年7月29日予定)では、企業の費用総額や付加価値額、事業活動別の売上内訳、さらに製造業の品目別出荷額・数量なども加わる。売上だけでなく、付加価値や費用構造も見えてくる段階だ。
三次集計(2026年10月下旬予定)では、事業所単位の集計が加わり、地域別・都道府県別の分布や、卸売業・小売業の年間商品販売額なども示される予定だ。「日本全国のどこで、どれだけ売上や事業活動があるか」という地理的な広がりが見えてくる。
四次集計(2026年12月下旬予定)では、企業集計と事業所集計の両面を包括した最終的な整理が行われ、より網羅的な最終形が出そろう見通しだ。
今回の一次集計は入口にすぎず、日本経済の実態が本格的に見えるのは二次集計以降になる。
日本経済の”構造”を読む統計として
今回の公表は、景気速報より構造把握に向く統計であり、日本の企業活動の全体像、つまり「どの産業がどれだけの売上規模を持ち、どこが伸びているのか」を把握するための統計だ。
今回の一次集計が示したのは、卸売・小売と製造業が依然として日本の売上の中核を担うという構図の安定性と、専門・技術サービスや情報通信などが伸び率で存在感を示しつつあるという変化の兆しの両面だ。全産業売上高の微増(0.8%)という数字の裏には、産業ごとに異なるベクトルが混在している。
今後、二次・三次・四次集計が積み上がるにつれて、日本経済の費用構造や地域差、製造業の細部まで見えてくる。今回の一次集計は、その長い読み解きの出発点に位置づけられる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

