2026年3月22日、ウクライナのゼレンスキー大統領はビデオ演説でこう述べた。「アメリカの関心が主にイラン情勢に向いているのは明らかだが、ロシアによるウクライナに対する戦争も終結させなければならない」。
この発言の背景には、単なるアピールを超えた切迫感がある。米国がイランへの軍事作戦に注力するほど、ウクライナへの外交的・軍事的な関与が後景に追いやられ、ロシアが時間を稼ぎやすくなるという構図が浮かび上がるからだ。
2日間の協議で何が話し合われたのか
ゼレンスキー大統領は22日の演説で、3月21日から2日間にわたって米国との協議が行われたことを明らかにした。協議に参加したウメロフ国家安全保障・国防会議書記は、SNSで「停戦後に提供される『安全の保証』などについて話し合った」と説明した。
この「安全の保証」は、一見わかりにくい言葉だが、実態は「停戦してもまたロシアが攻めてきたとき、誰がどんな支援をするか、どの国がどんな仕組みで守るのかをあらかじめ固めること」だ。停戦できるかという問題と、停戦後に再び攻撃されたときに本当に守れるかという問題は別の話であり、ウクライナはその後者を非常に重く見ている。
APは、この協議の主な狙いを、米国が仲介役を降りないことと、欧州経由の武器供給ルートの維持にあったと整理している。停戦の内容そのものというより、「交渉の枠組みを維持すること」と「武器供給のルートを守ること」が前面に出た協議だったと読める。
米国の注意が逸れると何が起きるか
米国の外交・軍事資源は限りがある。中東で大規模な軍事衝突が続けば、ホワイトハウスや国防総省の優先順位が変わり、ウクライナ関連の協議が後ろ倒しになりやすくなる。対ロシア制裁や支援の議論が議会で後景に回る可能性もある。
そして最も警戒されているのが、ロシアがこの状況を「好機」と見て戦場での攻勢を強める可能性だ。ワシントン・ポストは3月、イラン攻撃によってロシア側が「米国は本当にウクライナ交渉に集中できるのか」と疑うようになり、米国が和平仲介にどこまで集中できるのか、ロシア側の疑念を深めていると伝えた。中東への関与は停戦交渉の障害になるだけでなく、和平を仲介する米国の力そのものへの疑念を生む可能性がある。
ゼレンスキー大統領が「さらなる対話が可能になる兆しがある」としながらも、協議継続の必要性を繰り返し強調しているのは、こうした状況をにらんでのことだろう。
ロシアとイランは「別の戦争」ではない
ゼレンスキー大統領は22日の演説で米国との協議継続を訴えたが、翌23日には別のSNS投稿でさらに踏み込み、ロシアの対イラン情報提供についても言及した。「ロシアがイランに対して、諜報活動で得た情報を提供し続けているという反論の余地がない証拠が手元にある」というものだ。
イランはこれまで、ロシアにシャヘド型ドローン(自爆型の無人機)を供与し、ロシアはそれをウクライナ攻撃に使ってきた経緯がある。今回はその逆方向、つまりロシアがイランに軍事情報を渡している可能性があるというのがゼレンスキー氏の主張だ。
キーウ・インディペンデントは、ウクライナが以前から「イランが使うシャヘド型ドローンにロシア部品が発見された」「ロシアのイランへの諜報支援を示す兆候がある」と指摘していると伝えている。
ただし、ロシアが何をどこまで提供しているかは、確定情報と未確認情報が混在している。ABCの報道によれば、トランプ政権のウィトコフ特使はロシア側の否定を一定程度受け入れる姿勢を見せており、米政府として公式に認定しているわけでもない。
こうした発信には、ウクライナ戦争と中東情勢を切り離して見ないでほしいというメッセージもにじむ。
三者協議とは何か——「誰が交渉のテーブルに座るのか」
ここで言う「三者協議」は、基本的に米国・ウクライナ・ロシアを軸にした和平交渉の枠組みを指す。ただし、欧州諸国や第三国も関与する別ラインが並走しており、純粋に三者だけで決まるわけではない。
2月下旬時点で、ウクライナ大統領府は「ジュネーブ会談の主な成果は経済と復興の分野で、三者協議の準備も継続している」と説明していた。つまり、停戦そのものより先に、停戦後の経済支援や復興計画の枠組みを固める議論が同時に動いているということだ。
これは、ウクライナが単なる「戦争の終わらせ方」だけでなく、「終わった後の国をどう立て直すか」まで含めた長期的な議論を米国と続けようとしていることを示している。
今後の焦点——5日間の猶予とウクライナ
トランプ大統領がイランへの攻撃を5日間延期したことで、今週は中東の動向が外交の中心になりやすい状況だ。その中でウクライナが「忘れられない」ようにするには、米国との協議の糸を切らさないことが最優先になる。
ゼレンスキー大統領が今回の演説で言いたかったことを一言で整理すれば、「世界の注目がイランへ向いているのは分かる。それでも私たちの戦争は続いており、協議を止めれば止めた分だけロシアが得をする」ということだろう。
少なくとも当面は、今後数日間の中東情勢がウクライナ外交の優先順位を左右する。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

