トランプ氏「核合意に近づいた」イランは否定——食い違う発言の裏で何が起きているのか

まず、最も重要な点を最初に押さえておく。2026年3月23日、トランプ大統領はイランと「核兵器を持たない」などの合意に近づいたと主張したが、双方が正式に認めた合意はまだ存在しない。イラン外務省はその日のうちに「米国との協議は存在しない」と公式に否定した。

それでも、原油価格は先週末比でおよそ14%急落し、ダウ平均は600ドル超上昇した。この市場反応が示しているのは、「合意の中身」ではなく、「全面エスカレーションがいったん遠のいた」という期待だけで世界の金融市場が動く、今回の紛争の重さだ。


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何が起きたのか——トランプ氏の主張と攻撃延期

トランプ大統領は21日、「ホルムズ海峡を48時間以内に開放しなければイランの発電所を攻撃する」と警告していた。そして23日朝、SNSに「アメリカとイランは非常によい有意義な協議を行ってきた」と投稿し、イランの発電所などエネルギーインフラへの攻撃を5日間延期するよう国防総省に指示したと明らかにした。

記者団への説明によれば、22日にイラン側から電話があり、トランプ政権のウィトコフ特使とトランプ大統領の娘の夫であるクシュナー氏が対応したという。その協議の結果として「15の点がある。彼らは決して核兵器を持たない。それに彼らは合意した」とトランプ氏は主張した。

ただし、この「合意」を裏づける文書や共同声明は公開されていない。


イラン側の公式否定——「時間稼ぎだ」

これに対し、イランの国営メディアは外務省の声明として、「イランとアメリカとの協議は存在しない」と伝えた。さらに「アメリカ大統領の発言は、エネルギー価格の引き下げと、軍事計画を実行するための時間稼ぎを目的としたものだ」と批判した。

イラン議会のガリバフ議長もSNSに「アメリカとの交渉は行われていない。フェイクニュースのねらいは金融市場と石油市場を操作し、アメリカとイスラエルが陥っている泥沼から逃れることだ」と投稿した。

イランの革命防衛隊に近いタスニム通信も、「欺まんに満ちたアメリカ大統領の矛盾した行動は、戦いをやめることにはつながらない」とする革命防衛隊の声明を伝えた。

少なくとも公的発信では、イラン側は協議の存在をそろって否定している。


「協議した」と「交渉していない」は同時に成り立つことがある

ここで一歩引いて考えたいのは、外交における「言葉のずれ」だ。

中東外交では、直接会っていなくても、第三国の外相や特使を通じてメッセージをやり取りすることがある。米国側が「話し合いが進んでいる」と表現し、イラン側が「直接の交渉はしていない」と言う場合、どちらかが完全に嘘をついているというより、「正式な交渉テーブル」と「仲介国経由の打診」を別々に指している可能性がある。

実際、Axiosは3月23日、ウィトコフ特使らがイランの有力者側と接触しており、仲介国が今週にもパキスタンの首都イスラマバードで会合を開く方向で調整していると報じた。フィナンシャル・タイムズも、パキスタン軍トップのムニール陸軍参謀長が22日にトランプ大統領と、23日にはパキスタンのシャリフ首相がイランのペゼシュキアン大統領とそれぞれ電話で協議したと伝えた。

パキスタンは米国ともイランとも接点を持つ地域大国で、今回の仲介役として名前が挙がっている。


前史がある——2月下旬の間接協議

今回の展開は突然始まったわけでもない。

2026年2月26日、APはオマーン仲介のもとジュネーブでアメリカとイランが間接協議を行い、オマーン外相が「significant progress(大きな進展)」と述べたと報じた。AP伝によれば、このときも最終合意には至らなかったが、技術レベルの協議をウィーンで継続する想定だったという。

Guardianの3月18日の報道によれば、このとき交渉が難航した核心は「イランが核兵器を持たない」という大枠ではなく、より細かい技術的な問題にあった。具体的には、イラン国内でのウラン濃縮をどこまで認めるか、濃縮済みのウランの在庫をどう扱うか、IAEA(国際原子力機関)の査察をどこまで受け入れるか、そして見返りにどの制裁をいつ解除するかという点だ。

つまりトランプ氏が言う「核兵器を持たないことに合意した」は、外交上の大枠の目標を指しているに過ぎず、実際の合意に向けた技術的な交渉は依然として積み残しが多い状態とみられる。


なぜホルムズ海峡が市場をここまで動かすのか

ホルムズ海峡は、中東産の原油や液化天然ガス(LNG)が世界市場へ出るための主要ルートだ。この海峡が封鎖される、あるいは安全に通行できないという観測が広がるだけで、原油価格・株価・為替が連動して動く。

23日のニューヨーク原油市場では、トランプ氏のSNS投稿前まで1バレル=100ドルを超えていたWTIの先物価格が、攻撃延期の方針が伝わると先週末比でおよそ14%安となる場面があった。株式市場ではダウ平均が一時1100ドル超上昇し、終値は631ドル高で引けた。

ただし、市場関係者からは「イランをめぐるトランプ政権の対応は一貫性に乏しく、早期の緊張緩和には懐疑的な見方も根強い」との声も出ている。イラン側の否定が伝わると、様子見に転じる投資家も増えた。

発電所やエネルギーインフラへの攻撃延期は、単なる軍事的な戦術判断にとどまらず、「戦争をもう一段エスカレートさせるかどうか」の境目として受け取られており、その意味で市場と各国政府の双方が強く注目している。


各国の反応——温度差が鮮明に

今回の展開に対し、各国の反応は温度差が大きい。

ドイツのメルツ首相は攻撃延期の判断を歓迎し、「イラン指導部との即時かつ直接的な接触の可能性が開いた」と評価した。イギリスのスターマー首相も「協議を歓迎する」としながらも、「事態がしばらく続く可能性も考慮して計画を立てなければならない」と慎重な姿勢を崩さなかった。

イスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ氏が目指す合意がイスラエルの重要な利益を守るものになるとの見方を示しつつ、「われわれはイランのミサイルと核の開発計画を打ち砕いている」と攻撃継続の姿勢も強調した。

ロシアのラブロフ外相はイランのアラグチ外相と電話会談し、イランの原子力発電所を含む核関連施設への攻撃は「断じて容認できない」と表明。「直ちに戦闘行為を停止し、政治的な解決を図る必要がある」と訴えた。


今後5日間の焦点

トランプ氏が設けた猶予は5日間だ。この間に何らかの外交的な進展があるかどうかが次の焦点になる。

現時点で確認できることは限られている。2月下旬までオマーン仲介の間接協議が存在していたこと、今もパキスタンなど第三国を通じた打診や接触が続いている可能性を示す報道があること、しかし正式な合意が成立したとは言えないことだ。

トランプ氏は「最終的に合意に至る可能性は高い」と述べ、近く対面での会談を行うことにも意欲を示した。一方、イランの革命防衛隊は「戦線をおろそかにすることはない」と強調している。イラン軍の報道官は「ホルムズ海峡は十分に支配しており、機雷を敷設する必要はない」とも述べ、封鎖への具体的な動きは否定した。

トランプ氏が交渉進展を演出し、イラン側が公にはそれを否定している——その一方で、第三国を通じた接触が続いている可能性を示す報道もあり、外交が完全に止まっているとまでは言い切れない。こうみるのが現時点では最も安全な整理だろう。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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