コメが足りない——そんな不安が日本中に広がったのは、つい最近のことだ。スーパーの棚が空になり、価格は急騰した。ところが今度は、農林水産省が需要の見込みを引き下げた。価格が高いまま、コメが「売れにくくなっている」というのだ。
たった半年ほどで、問題の中身がまるで変わった。これは単なる需給のブレではなく、日本のコメ市場が新しい局面に入り始めたサインかもしれない。
農水省が需要見込みを7万トン下げた
3月23日に開かれた農林水産省の有識者会議で、主食用米の需要見込みの修正が示された。対象期間は2025年7月から2026年6月までの1年間で、見込みは最大711万トンから最大704万トンへ、7万トン引き下げられた。
ここで「主食用米の需要量」という言葉を整理しておきたい。これは実際にどれだけコメが消費されるかの見込みであり、「生産量」とは別のものだ。農水省はこの見込みを、毎年少なくとも2回見直す仕組みを持っている。
では、なぜ7万トンも下方修正されたのか。農水省は主な理由として2つを挙げた。ひとつは、価格の高止まりによって消費が減っていること。もうひとつは、売れ行き不振を受けて、卸売業者の間で精米を控える動きが出ていることだ。
「精米控え」が示すもの
「精米控え」という言葉は聞き慣れないが、重要なシグナルだ。
コメは収穫後、玄米の状態で保管されることが多く、家庭に届く白米にするには精米業者や卸が加工して出荷する。売れ行きが順調なら、精米して商品化し続ければいい。しかし売れ行きが悪いと、精米して在庫を積み上げてもコストがかさむだけになる。そのため、卸は精米のタイミングを遅らせることがある。
つまり今起きている「精米控え」は、コメが不足しているサインではない。むしろ逆で、高値のままでは動きにくいという需要側の弱さが流通に影響を及ぼしているサインだ。
ねじれた構図——需要は下がるのに、作付意向はなお高水準
ここに、今のコメ問題の難しさがある。
需要の見込みは下がった。ところが、農水省の3月時点のデータによると、2026年産の主食用米の作付意向は、参考計算値で約732万トン相当に達しており、農水省が目安とする711万トンを約21万トン上回る水準だ。
昨年の価格高騰を受けて、主食用米の作付意向が高い水準で維持されているとみられる。一方で、需要見通しはすでに下方修正され、需要の弱さが数字に現れ始めている。
生産量が需要量をさらに上回れば、いずれ価格は下押し圧力にさらされる。一方で、高値が続けば消費がさらに落ち込む。政策当局は「高すぎてもだめ、下がりすぎてもだめ」という難しい局面に差し掛かっている。
なぜ、需給が緩み始めているのに価格は高いままなのか
「需給が緩み始めているのに、なぜ価格は下がらないのか」という疑問は自然だ。
実はコメの価格は、単純に生産量だけで決まるわけではない。収穫から食卓に届くまでには、集荷業者、卸、精米業者、小売店という複数の段階があり、それぞれが在庫調整をしながら動いている。先行きの値下がりを恐れれば流通が慎重になり、逆に先高観があれば在庫を積み増す動きが出る。
また、コメは保存がきく食品でもあるため、「今すぐ売らなくてもいい」という判断が働きやすい。このため、豊作・不作のニュースが出ても、店頭価格に反映されるまでには時間差が生じることがある。
長期的な消費減少という「底流」
今回の需要下方修正を読む際にもうひとつ意識しておきたいのが、日本のコメ消費の長期トレンドだ。農水省のデータによると、1人当たりの米消費量は1962年度に118.3kgでピークを迎えた後、一貫して下がり続け、2024年度には53.4kgにまで落ちている。
今回の需要減は、コメ価格の高止まりという一時的な要因によるものだが、そこに長年続く構造的な消費減少という「底流」が重なっている。価格が落ち着いたからといって、消費が元の水準に戻るとは限らない点は、農業政策を考えるうえで欠かせない視点だ。
消費者にとって何が変わるのか
足元の状況をまとめると、こうなる。コメの値段はまだ高い。しかし需要は弱まり始め、2026年産の作付意向はなお高水準にある。
この先、供給過剰が明確になれば価格が下がる可能性はある。消費者にとっては朗報だが、農家や流通業者にとっては収入減につながりうる。一方で、価格がいつまでも高止まりすれば、さらなる消費離れが進む。
どちらに転ぶかは、今後の流通在庫の動きや、2026年産の実際の収穫量、そして政府の政策対応にかかっている。コメ問題は「足りない」から始まり、今は「高値で売れにくい」局面へと変わった。次の焦点は「いつ、どのように価格が落ち着くか」だ。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

