AIブームで高騰するスマホ価格に、中東戦争のヘリウム危機が追い打ち

スマートフォンを買い替えようとして、値段に驚いた人は多いかもしれない。その値上がりの裏には、一見スマホとは無関係に見える二つの出来事が重なっている。一つはAIの急速な普及、もう一つは中東での戦争だ。


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「スマホが高くなる」理由は、AIにあった

まず、戦争が始まる前から積み上がっていた問題がある。

MetaやGoogleなどの巨大テック企業は、生成AIサービスやAI検索・AIアシスタントを支えるため、大規模なデータセンターを世界中に建設してきた。こうしたデータセンターには、大量のメモリチップ(コンピュータが情報を一時的に保存するための部品)が必要だ。特に「DRAM(ディーラム)」や「HBM(高帯域幅メモリ)」と呼ばれる種類のメモリは、AI処理に欠かせない。

ところが、これらのメモリを生産できるメーカーは世界でも数社に限られている。データセンター向けの需要が急増した結果、スマートフォン向けに回るメモリの量が減り、価格が上がった。調査会社IDCによると、一部のコンポーネントではメモリコストが数カ月で200〜300%急騰したとされる。

この流れを受け、2026年のスマートフォン市場はすでに厳しい状況にあった。IDCは世界のスマホ出荷台数が2026年に約12.9%減少する一方、平均販売価格は14%上昇して過去最高の約523ドルに達すると予測している。「AIの恩恵を受けるはずのスマートフォンが、AI投資のしわ寄せで値上がりする」という逆説が現実になりつつあった。


そこに「ヘリウム危機」が加わった

2026年3月、その状況にさらなるショックが加わった。

カタールエナジーは3月2日、ラスラファン工業団地とメサイード工業団地への攻撃を受け、LNG(液化天然ガス)と関連製品の生産停止を公表した。3月4日には正式にフォースマジュール(不可抗力条項)を宣言し、契約通りの供給履行が困難になったことを認めた。APなどの報道によると、その後の追加攻撃でさらに被害が拡大し、年間ヘリウム輸出の14%削減が見込まれており、修復には最大5年かかる可能性があるという。

ここで疑問が生じるかもしれない。ヘリウムといえば風船に入れる軽いガスではないのか、と。

確かに風船に使われる。しかしヘリウムはそれ以上に、半導体(マイクロチップ)の製造工程でウエハー(シリコン基板)の温度を安定させる冷却材として欠かせない素材だ。また、医療用MRIの超電導磁石の冷却、ロケット燃料タンクの洗浄など、代替が利かない用途に広く使われている。米国地質調査所(USGS)は「極低温での用途においてヘリウムを代替できるものはない」としており、その不足が産業に与える影響は大きい。

カタールは世界のヘリウム供給量の約30%(USGSのデータ)を担う主要産地だ。中東産ヘリウムの輸送ルートであるホルムズ海峡では物流リスクが高まっており、ヘリウム輸送用コンテナの滞留も供給不安を深めている。


「数週間後」に迫る問題

現時点で半導体工場がすぐに止まるわけではない。

APによると、サムスン電子やTSMCといった大手は在庫や代替調達でしばらくはしのげる可能性があるとされている。ヘリウムの取引の多くは長期契約で行われており、スポット価格(その場で買う価格)は急騰しているものの、市場全体が即座に崩壊するわけではない。

しかし、専門家の見立ては楽観的ではない。ヘリウム業界のコンサルタントであるフィル・コーンブルース氏はFortuneに対し、「ヘリウムが完全に枯渇した企業はまだない」としながらも、不足は「数週間後に迫っている」と警告した。また、フィッチ・レーティングスは、世界最大級のメモリチップメーカーである韓国のサムスン電子とSKハイニックスが特にリスクにさらされていると指摘した。

スポット価格の動向も見逃せない。バンク・オブ・アメリカは一部地域でのスポット価格が1週間で最大40%急騰したと推計しており、供給不足が深刻な地域ではすでに1MCF(千立方フィート)あたり1000ドルを超えているとされる。


直撃するインドと、低価格帯スマホの消滅

この二重の打撃が最も見えやすく現れているのが、インド市場だ。

インドは長らく、100〜200ドル台の中低価格帯スマートフォンが市場をけん引してきた。ところが今、複数の調査会社が2026年のインドの出荷台数予測を相次いで下方修正している。Indian ExpressがIDC予測として報じたところでは、2025年の1億5200万台から2026年は1億3200万台へと大幅な減少が見込まれている。

SamsungのGalaxy S26シリーズはインドで前モデルより最大1万ルピー(約1万7000円)値上がりした状態で発売され、iQOOやVivoなど中国系メーカーも全モデルで1500〜2500ルピー程度の値上げを実施している。

さらに深刻なのは、価格帯の下限が崩れつつあることだ。IDCのアナリスト、ナビラ・ポパル氏は、世界で1億7100万台を占める100ドル未満のスマートフォンセグメントが「恒久的に採算が取れなくなる」可能性があると警告している。


スマホの値段を動かす「見えない二つの力」

かつて、スマートフォンの価格は部品の進化と競争によって下がり続けてきた。しかし今、その流れが変わりつつある。

価格上昇の主因は、AIデータセンター向け投資が生み出したメモリ高騰にある。そこに、中東リスクに起因するヘリウム供給不安が追い打ちをかけている構図だ。どちらも、スマホメーカーが自分でコントロールできる問題ではない。調査会社IDCのフランシスコ・ジェロニモ氏は「価格への圧力は数カ月ではなく、少なくとも今後数年間は続くだろう」と述べている。

スマホの価格表に刻まれているのは、もはや部品のコストだけではない。AIブームの副作用と地政学の地殻変動が、そこに上乗せされている。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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