ホルムズ危機でアジア株が急落——原油高が株価と中央銀行を同時に揺らす理由

2026年3月23日月曜日、アジアの株式市場は朝から売りに押された。オーストラリアのS&P/ASX 200は早朝の取引で1.8%以上下落し、日経225先物はシカゴ市場で5万1005円近辺と、前週末終値の5万3372円を大きく下回って推移した。香港のハンセン指数先物も前回終値の2万5277を大きく割り込んだ。

きっかけは週末に起きた、米国とイランの間で激化した「応酬」だった。


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何が起きたのか——週末の「48時間最後通告」

3月22日土曜日夜(日本時間)、トランプ大統領はイランに対し「48時間以内にホルムズ海峡を完全に再開しなければ、イランの発電所を攻撃・壊滅させる」と警告した。

これに対しイランの軍部は、「攻撃を受けた場合、地域内の米国とイスラエルのエネルギーインフラおよび海水淡水化施設を標的にする」と応じた。

この応酬は、2月28日に米国とイスラエルがイランへの協調攻撃を開始して以降、4週目に入った紛争のさらなるエスカレーションだ。イラン革命防衛隊が海峡の閉鎖を宣言して以降、タンカーの通航量は大きく落ち込んだと報じられており(「ほぼゼロ」とする報道もあるが、評価にはばらつきがある)、この動きが原油市場を直撃している。


原油はどこまで上がったか

ホルムズ海峡は通常、世界の石油・LNG(液化天然ガス)出荷量の約20%が通過する。米エネルギー情報局(EIA)によると、2025年上半期時点で日量約2090万バレルが通過していた。ここが機能しなくなることの影響は、単純な数字以上に大きい。代替ルートには能力の上限があり、すべてを迂回させることはできないためだ。

ブレント原油は3月20日時点で1バレル112.19ドルまで上昇し、市場データベースのTrading Economicsによると前月比で約57%値上がりした。さらにFortune誌によると、アジアのバイヤー向け指標となるドバイ原油は先週、1バレル150ドルを超える史上最高値を記録し、アジアと米国の価格差が前例のない50ドル以上に拡大した。

価格の上昇は原油だけにとどまらない。ジェット燃料、石油化学製品のコストが域内全体で上昇し始めており、物価全体への波及懸念が高まっている。


なぜアジア株が特に売られるのか

同じ原油高でも、地域によって受ける打撃は異なる。アジアの主要国——日本、韓国、インド、東南アジアの多く——は、中東からの原油・LNG輸入に大きく依存している。その輸送の多くがホルムズ海峡を通る。

つまり、海峡の混乱は「世界的な問題」であると同時に、「アジアの問題」でもある。

コモディティアナリストのロリー・ジョンストン氏はX上で「海峡が閉鎖されている期間が長引けば長引くほど、アジアの供給不足は全世界の問題になっていく」と指摘する。

ロイター通信によると、日経平均株価はこの紛争が始まって以降すでに約9%下落しており、韓国のKOSPI指数は3月上旬に1日で6%急落した。今週月曜日の下落は、その延長線上にある。

原油高が株価を下げる経路はシンプルだ。エネルギーコストが上がれば企業の利益が圧迫され、家計の可処分所得が減り、消費が鈍る。その悪影響が、輸入依存度の高いアジアの企業・家計に集中しやすい。


中央銀行が困る理由——「利下げしたいのにできない」

株安を深刻化させているもう一つの要因が、金融政策への影響だ。

本来、景気の先行き不安が高まれば、中央銀行は利下げで対応し、市場の安心材料になる。ところが今回の局面では、その期待が成り立ちにくくなっている。

原油高がインフレを押し上げているからだ。「景気は冷えているのに、物価は上がる」という状況——これをスタグフレーション(stagflation)と呼ぶ——になると、中央銀行はどちらの問題も一つの金利政策では解決できなくなる。

FRB(米連邦準備制度理事会)は3月18日、政策金利を3.5〜3.75%に据え置いた。声明には「中東情勢が米国経済に与える影響は不確か」と明記されており、次の一手を慎重に見極めている姿勢がうかがえる。一部市場ではイングランド銀行が早ければ4月にも利上げに踏み切るとの観測も出ているが、公式には各中銀とも不確実性の高さを認めるにとどまっており、「利上げへ転換する」とは明言していない。

「市場が先に悲観する」と「当局がまだ様子を見ている」というズレが生じているのが現在の局面だ。

日本銀行は3月19日の決定会合で金利を据え置き、「中東情勢の緊張で原油価格が大きく上昇し、今後の動向に注意を要する」と明記した。


IEAの緊急対応——備蓄放出は「最大規模」

市場の混乱を受け、国際エネルギー機関(IEA)は3月11日、加盟国が合計4億バレルの緊急石油備蓄を放出することで合意したと発表した。これはIEA史上最大規模の備蓄放出だという。

ただし専門家の多くは、備蓄放出はあくまでも「つなぎ」であり、根本的な解決にはならないとみている。根本的にはホルムズ海峡を含む輸送路の安定回復が必要であり、備蓄だけで価格を抑えることには限界がある。


日本にとっての問題

日本はエネルギー危機を、市場リスクとしてだけでなく実体経済問題として扱い始めている。政府は3月2日、経済産業省内に「イラン情勢を踏まえたエネルギー対策本部」を設置した。

日本が注視しているのは原油の量だけでなく、価格がガソリン・電気・物流に波及する速度だ。日銀もまた、原油高が日本の基調インフレにどう影響するかを見極めようとしている段階にある。


「市場の悲観」と「当局の慎重」のズレが続く

現在の状況を整理すると、こうなる。

原油価格は急騰し、アジアの株式市場は連日売られている。一方で、FRBとイングランド銀行は、本来であれば利下げを模索していた局面だった。しかし原油高によるインフレ再燃が、その余地を狭めている。一方、緩やかな利上げ路線にあった日銀も、中東情勢を見極めるために追加利上げの判断を先送りせざるを得ない状況だ。つまり各中銀は、それぞれ「動きたい方向」は違えど、いずれも「動けない」という点では共通している。

市場は最悪のシナリオを先取りして動き、中央銀行は証拠が積み上がるまで動きを抑える。このズレ自体が、今の相場の不安定さを生んでいる。

ホルムズ海峡の緊張が解消されない限り、この「原油高→インフレ→利下げ期待後退→株安」という連鎖は続きやすい。アジアにとって、これはエネルギー問題であると同時に、株式市場の問題であり、金融政策の問題でもある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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