北朝鮮の「戦争収入」は2兆円超か——ロシアへの派兵・兵器輸出で制裁は無力化されるのか

北朝鮮がロシアへの派兵と兵器・弾薬の輸出によって得ている収入は、最大で2兆円を超えるかもしれない——韓国の政府系シンクタンクがこうした推計をまとめ、国際社会に警戒を呼びかけた。ただし、この数字はあくまでも上限の推計であり、実際に北朝鮮が受け取った金額はまだその一部とされている。それでも、この「戦争収入」が持つ意味は、金額そのものを超えて深刻だ。


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韓国シンクタンクが推計した「2兆円超」の中身

今回の報告書をまとめたのは、韓国の情報機関・国家情報院の傘下にある「国家安保戦略研究院」だ。北朝鮮がロシアとの軍事協力を通じて得る収入を試算し、2026年3月に公表した。

収入は大きく2種類に分かれる。

一つ目は派兵による収入だ。2024年10月から2025年12月にかけておよそ2万1000人の兵士を派遣し、その対価として約6億2000万ドル(日本円で約980億円)が得られると推計されている。

二つ目が圧倒的に規模が大きく、兵器・弾薬の輸出収入だ。2023年8月以降、短距離弾道ミサイルやロケット砲などをロシアに輸出したことで得られる収入は最大137億ドル(約2兆2000億円)に上るとしている。

この2つを合わせると、最大でおよそ2兆2900億円——これが今回の推計の全体像だ。

ただし、報告書自体も認めているとおり、北朝鮮が実際に受け取った金額はまだその一部にとどまる。一部報道では、実際の受領額は推計総額を大きく下回る可能性も指摘されている。「最大2兆円超」はあくまでも上限であり、全額が手元に届いたという話ではない点は押さえておく必要がある。また、期間の表記については報道によって若干のずれが見られるため、今後の報告書の原文確認が待たれる。


なぜ北朝鮮に外貨収入が重要なのか

この数字がなぜ問題なのかを理解するには、北朝鮮が置かれた状況を知る必要がある。

北朝鮮は核・ミサイル開発を理由に、長年にわたり国連の制裁対象となってきた。制裁の最大の狙いは、外貨収入を絞り込み、武器開発の資金を断つことにある。石炭や水産物の輸出禁止、在外労働者の送還、金融取引の遮断——こうした措置が積み重ねられてきた。

北朝鮮はロシアとの軍事協力を通じて制裁の影響を和らげようとしている可能性がある、というのが今回の報告書の核心的な指摘だ。


なぜロシアは北朝鮮を必要としているのか

ウクライナ戦争が長期化するなか、ロシアは深刻な弾薬不足に直面してきた。砲弾・ロケット弾・ミサイルを大量消費する消耗戦において、供給が継戦能力を左右する。

ロイター通信は、ロシア軍の一部砲撃が北朝鮮製の弾薬に大きく依存していたと報じており、欧米の軍事アナリストも同様の見方をしている。北朝鮮の弾薬は規格が古く品質にばらつきがあるとも指摘されるが、大量かつ迅速に供給できる供給源として、ロシアにとっては代替が難しい存在となっているとみられる。


現金より怖い「技術移転」の可能性

今回の報告書が特に警戒するのは、金銭的な収入だけではない。

ロシアが北朝鮮への「対価」として、軍事技術や精密部品を提供する可能性があるというのが、欧米・韓国が真に懸念しているポイントだ。ドローン対策技術、ミサイルの精度向上技術、衛星や潜水艦に関わる技術——こうした移転が行われれば、北朝鮮の軍事能力は金額以上に大きな飛躍を遂げることになる。

さらに、ロシアに派遣された北朝鮮兵士は実戦の経験を積んで帰国する。長らく「訓練だけで実戦経験のない軍隊」と評されてきた北朝鮮軍にとって、この蓄積は将来的に見て大きな意味を持つ可能性がある。


制裁の枠組みは残るが、実効性は弱まっている

北朝鮮とロシアの武器移転は、国連安保理の決議に違反する行為だ。アメリカや日本、韓国などの同盟国は、こうした取引を制裁対象に追加するなどして対抗してきた。

しかし、当の安保理では、ロシアと中国が拒否権を持つ常任理事国であり、新たな制裁強化を決議するメカニズムは事実上機能しない状態が続いている。制裁の枠組みは法的には存続していても、その実効性を担保するはずの国際的な合意が、安保理の構造的な機能不全によって空洞化しているのが現状だ。韓国のシンクタンクが「制裁効果が相殺される」と警鐘を鳴らすのは、こうした構造を踏まえてのことだ。


「2兆円」は何を意味するのか

今回の推計が示しているのは、単なる取引の規模ではない。

北朝鮮は、制裁によって閉じられていた外貨収入の扉を、ロシアとの「戦争協力」という形で新たな外貨獲得ルートを確保した可能性がある。しかもその対価は現金にとどまらず、将来の軍事力強化につながる技術や経験という形でも積み上がっていく。

「2兆円超」という数字は、ウクライナ戦争が生み出している北朝鮮問題の新たな局面を映す数字といえる。ただし繰り返しになるが、これは上限の推計値であり、実態の解明にはさらなる情報が必要だ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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