先月2月、日本を訪れた外国人旅行者は346万6700人と、前年同月比で6.4%増加し、2月としての過去最高を更新した。日本政府観光局が発表したもので、1月に一時的なマイナスに沈んだ訪日客数は2か月ぶりに増加に転じた。
一方でこの数字には、総数は過去最高だが、中国は大幅減というねじれがある。中国からの旅行者は前年同月比で実に45.2%減という急落だった。それでも全体が過去最高を達成できた理由は何か。そして、「人数が増えた」ことは本当に喜んでよいのか。
なぜ1月はマイナスだったのか
まず、2か月間の数字の流れを整理しておきたい。1月の訪日客数は前年比4.9%減と、新型コロナ禍が続いていた2022年1月以来4年ぶりのマイナスとなっていた。
この落ち込みには、中国からの旅行者の急減が大きく影響している。さらに、旧正月を祝う「春節」の時期が2026年は例年より2月寄りだったことも、1月の数字を押し下げた要因の一つとみられている。つまり1月の落ち込みは、需要が消えたというよりも、時期がずれて2月に移動した面もあり、1〜2月を通じて見ることが重要だ。
韓国・台湾などが全体を下支えした
2月の地域別データを見ると、中国の急落を他の市場が支えた構図が浮かぶ。
国・地域別で旅行者数が最も多い韓国は前年比28.2%増、2番目に多い台湾は36.7%増と、それぞれ大きく伸びた。1月にマイナスだった香港も19.6%増に回復し、インドが22.7%増、メキシコが42.8%増と、アジアに留まらず多様な地域からの訪日が増えていることがわかる。
中国からの旅行者が大きく減った背景には、日中関係の悪化が影響したとみられる。春節時期のずれも月次比較を複雑にしている面があり、中国では例年この時期に多くの旅行者が日本を訪れてきたが、今年はその時期にあたる2月もマイナスが続いた。
「人数が増えれば安心」とは限らない理由
ここで注意したいのは、「旅行者数(人数)」と「消費額」は別の話だという点だ。
旅行者数は増えても、1人あたりの支出が少なければ、経済全体への恩恵は小さくなる。逆に、人数が少なくても一人ひとりが高単価の宿泊・買い物をすれば、消費効果は大きくなる。
中国からの旅行者は長らく、買い物需要の面で日本の観光業に特別な存在感を持ってきた。百貨店や家電量販店、ドラッグストアなどでのまとめ買いは「爆買い」とも呼ばれ、特に都市部の消費に大きな影響を与えてきた。人数が韓国・台湾の増加で補えたとしても、消費の質がそのまま置き換えられるかどうかは、また別の問題だ。実際、ロイター通信は百貨店など高額消費に依存する業態では、中国客の落ち込みによる影響がなお続いているとも伝えている。
中東情勢が次のリスクに
観光庁の村田茂樹長官は、イラン情勢の緊迫化による影響への注視を表明した。
直接的な影響として懸念されるのは、中東を経由してヨーロッパから日本へ来る旅行者の経路問題だ。多くの欧州からの旅行者は直行便を利用するため、現時点での影響は限定的とされている。ただ、中東情勢の悪化で航空燃料高や経由便の運航調整が広がれば、訪日需要にも波及しうる。春の旅行需要に影響が及ぶかどうかが注目点だ。
「分散化」は日本の観光にとってよいことか
今回のデータを見ると、結果として訪日市場の裾野は広がっているように見える。韓国・台湾に加え、シンガポール、フィリピン、米国、カナダなど多くの市場で2月として過去最高を記録したとされており、中国一極ではない需要の広がりは確認できる。
ただし、それが政策的な分散化の成果なのか、中国減の穴を他市場が一時的に埋めているだけなのかは、見極めが必要だ。また、人数で見れば韓国や台湾が補完できていても、消費の質が変わっているとすれば、観光業全体への恩恵は数字ほどには改善していない可能性もある。
「過去最高」という見出しが先行しがちだが、その中身——どの国から、どれだけ使ってもらっているか——を問い続けることが、日本のインバウンド政策を読む上では欠かせない。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

