子どものSNS制限が世界で相次ぐ――「親のしつけ」論から「企業の設計責任」論へ

「もうやめなさい」と言っても、子どもがスマホから目を離せない。家庭でそうした悩みが共有される場面は珍しくない。今、その「なぜやめられないか」をめぐる議論が、世界規模で政策の場に上がっている。

各国政府が相次いで子どものSNS利用制限に動いており、2026年に入ってからはとくに動きが加速している。注目すべきは、規制の焦点が「有害な投稿を取り締まる」ことから、「子どもを長時間つなぎ止める設計そのものを問う」方向に大きくシフトしていることだ。


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火付け役はオーストラリア――世界初の一律禁止

議論の先陣を切ったのはオーストラリアだ。2025年12月、国として世界で初めて、年齢で一律にSNSの利用を禁止する法律が施行された。対象は政府が指定した10サービスで、16歳未満はアカウントを持てない。

法律が施行されたあと、SNS各社が未成年者のものとされるアカウント約470万件を停止した。象徴的な数字だが、オーストラリア国内ではその後も相当数の13〜15歳がSNSを使い続けているという報告もある。禁止を決めても「誰が何歳か」をどう確認するかは難しく、執行には課題が残っている。


2026年に加速する各国の動き

オーストラリアの動きに続くように、2026年に入ってからは欧州やアジアでも制限の動きが相次いでいる。

フランスでは1月、15歳未満のSNS利用を禁止する法案が議会下院を通過し、上院での審議が始まった。スペインのサンチェス首相は2月、16歳未満の利用禁止方針を打ち出した。インドネシア政府は3月28日から16歳未満を段階的に禁止すると発表しており、対象にはTikTokやInstagram、Robloxなどが含まれる。

イギリスは即時禁止には踏み込んでいないが、3月2日から全国民を対象にSNS規制の意見募集を開始した。「SNS利用に年齢制限は必要か」「どう年齢を確認するか」という問いに加え、「依存的設計やリスクの高い機能の停止を義務づけるべきか」という踏み込んだ問いも盛り込まれている。


問題の核心は「コンテンツ」ではなく「設計」

ここで押さえておきたいのが、今回の議論の焦点だ。

これまでのSNSをめぐる規制論は、暴力的な投稿やいじめ、偽情報の拡散など「コンテンツ(内容)の有害性」が中心だった。だが今、世界の議論が向かっているのは、もう一段踏み込んだ問いだ。「利用者がやめられない状態になるよう、企業がSNSを意図的に設計していないか」という問いである。

イギリスでは、無限スクロールや自動再生、プッシュ通知などが「依存的設計」として規制対象候補に挙がっており、議論の中心になっている。

ひとつは無限スクロール。画面を指でなぞると新しい動画や写真が次々に表示され、終わりがないため、ユーザーは時間を忘れてスクロールし続ける。次に自動再生。動画が終わっても操作しなければ自動的に次が流れる仕組みだ。そしてプッシュ通知。SNSを使っていない時間帯にも通知を送り、アプリに引き戻す。

これらの機能はいずれも、ユーザーがSNSに滞在する時間を伸ばす効果がある。滞在時間が長くなれば広告が増え、企業の収益が上がる。つまり、「問題的利用を生みやすい設計」には企業側の経済的な動機があるとみられている。


法廷でも争われる「設計責任」

この問いは、法廷にも持ち込まれている。

2026年2月9日、アメリカ・ロサンゼルスで注目の裁判が始まった。InstagramのMetaとYouTubeのGoogleを訴えたのは、現在20歳の女性ケイリーさんだ。6歳でYouTubeを使い始め、9歳でInstagramを開始。朝から夜まで一日中SNSを使い続けた結果、心の健康に深刻な影響が出たとして、損害賠償を求めている。

裁判の最大の争点は、企業が意図的に依存しやすい設計をしたかどうかだ。原告側は、アルゴリズムや無限スクロール、通知設計といった「プロダクト設計そのもの」が精神的悪化を招いたと主張しており、投稿内容の是非ではなく設計責任を法廷で問うという点が、これまでの訴訟と異なる。

2月18日にはザッカーバーグCEOが出廷し、「ユーザーの利用時間を12%増やす」という目標をMetaがかつて掲げていたという事実を、原告側に追及された。ザッカーバーグ氏は「以前は担当者に目標を与えていたが、今はしていない」と述べたとされるが、Metaは依然として「SNSに依存性がある」という主張自体を否定している。

全米では子どものSNS利用をめぐる裁判が1600件以上起きており、このケイリーさんの裁判は、今後の判断に影響を与える試金石として注目されている。TikTokとSnapchatの運営企業はすでに開廷直前に和解に応じた。


「禁止すれば解決」ではない

ここで注意したいのは、世界の議論が単純に「禁止すれば安全」という方向に向かっているわけではないことだ。

規制を強化する側の根拠としては、WHO欧州のデータがある。欧州・中央アジア・カナダの若者における「問題的SNS利用」(コントロールが効かず、日常生活に支障が出るような利用状態)の割合が、2018年の7%から2022年には11%に上昇したとされる。アメリカの公衆衛生総監も、子どもにとってSNSが十分に安全だという証拠はまだないと警告している。

一方で慎重派の声も根強い。SNSには孤立防止、情報取得、自己表現、仲間とのつながりといった利点もある。若者自身が「危険なのはわかるが、全面禁止では居場所がなくなる」と反発するケースもある。専門家の間でも、リスクの大きさは年齢、利用時間、閲覧内容、個人の性格などによって大きく異なるという見方があり、一概に「依存」と断定することへの慎重論もある。

国際的な議論を総合すると、「全面禁止か放任か」の二択ではなく、年齢確認の厳格化+デフォルトの安全設定+依存的設計の抑制+家庭や学校への支援を組み合わせる方向が現実的な着地点として浮かんできている。


日本の現状は「論点整理フェーズ」

各国の動きを受け、日本でも動きが出ている。こども家庭庁は2026年1月、子どものSNS規制の必要性を議論する専門家会議を立ち上げた。「青少年インターネット環境整備法」の改正も視野に入れ、7月にも中間整理を行う予定だ。

ただし、現時点では欧州やオーストラリアのような一律禁止に踏み込む段階ではなく、規制の是非や方向性を整理する「論点整理フェーズ」とみるのが正確だろう。

専門家会議のメンバーで、公立中学校で20年間生徒指導に携わってきた兵庫県立大学の竹内和雄教授は、「AIの性能向上によってアルゴリズムが高度化し、この1年でSNSの問題的利用が一段と深刻になっている。危機的な状況だ」として、早急な対応の必要性を訴えている。

日本ではこれまで「子どものSNS問題は家庭や学校で対処するもの」という発想が根強かった。しかし今回の国際的な潮流が問い直しているのは、そこではない。「なぜやめられないか」の原因が設計にあるなら、その設計を変えさせる責任を企業に求めるべきではないか、という問いだ。「親のしつけ論」から「企業の設計責任論」へ。日本でも、その議論は避けられない局面を迎えつつある。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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