「日本も中国も、ホルムズ海峡に艦船を派遣すべきだ」——アメリカのトランプ大統領が3月14日にSNSにそう投稿したことで、日本政府は難しい立場に置かれた。今週(3月19日)に予定されている日米首脳会談を前に、首脳会談の場で自衛隊派遣の要求があるかどうか、その有無そのものが外交上の火種になりつつあるからだ。政府は閣僚間の電話会談などを通じて、この発言の要求の度合いを探っている。
なぜこれほど慎重なのか。そして、今回の首脳会談ではホルムズだけでなく、南鳥島のレアアース資源まで議題に上る見通しだという。2つのテーマがなぜ同じ会談でつながるのか——その構図を整理してみたい。
トランプ氏の発言、3通りの読み方
今回のSNS投稿について、各国は一様に慎重な反応を示している。APの報道によれば、日本・中国・韓国・英国などが名指しされたものの、現時点で明確な参加表明を出した国はない。
発言の「真意」については、大きく3つの解釈が考えられる。
①本気の軍事参加要請:ホルムズ海峡の安全確保に向けて、同盟国や関係国に実際の艦艇派遣を求めているというケース。
②交渉上の圧力:日米首脳会談を前に、日本に対して安全保障の負担増を求める「交渉の布石」として機能している可能性。
③公開の場でのシグナル発信:中国を含む各国に対し、「アメリカだけが中東の安全を守る義務はない」というメッセージを示す意味合い。
WSJは「日本にとって派遣のハードルは極めて高い」と指摘しており、FTは「高市政権は同盟圧力と国内制約の板挟みにある」と分析する。いずれにせよ、日本政府が首脳会談で何らかの対応を求められる可能性は排除できず、政府はその前に閣僚間の接触で真意を確かめようとしているわけだ。
なぜホルムズ海峡が日本に直撃するのか
ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋をつなぐ幅約50キロの海峡だ。中東の主要産油国(サウジアラビア・イラク・UAE・クウェートなど)から輸出される原油の大半がここを通る。世界の石油貿易の約2割がこの海峡に依存しているとされる。
日本にとっての問題の深刻さは、この依存度の高さにある。資源エネルギー庁によれば、日本の原油輸入の9割超が中東からだ。ホルムズ海峡が事実上封鎖されれば、日本の石油調達は大きな影響を受ける。
実際に今回の危機を受け、IEA(国際エネルギー機関)は加盟国による過去最大規模となる4億バレルの備蓄放出を決定しており、日本もこれに参加している。ただし、備蓄の放出は価格高騰を一時的に抑える効果があっても、海峡そのものの安全を取り戻す代替にはならない。だからこそ、海峡の安全確保をめぐる議論がこれほど重要になっている。
自衛隊派遣が「ハードルが高い」理由
与党内からも「自衛隊の派遣はハードルが高い」という声が出ているが、それはなぜか。
日本では、自衛隊が海外で活動する際には法的根拠が必要だ。現行の法律では、武力行使を伴う活動を行うためには「存立危機事態」(日本と密接な関係にある国が攻撃され、日本の存立が脅かされると認定される事態)などの厳しい要件を満たす必要があり、国会の承認も求められる。
仮に派遣するとしても、戦闘色の薄い限定的な関与が制度上の選択肢として挙げられやすい。たとえば、機雷の除去を専門とする「掃海活動」、民間船舶の安全を確保する「護衛」、戦闘に直接関与しない「後方支援」、各国との「情報共有」といった形だ。ただし、これらはあくまで制度上ありうる類型であり、政府内で具体的な選択肢として実際にどこまで検討が進んでいるかは別問題だ。イギリスが艦艇や機雷対処用ドローンの提供を検討しつつも正面からの軍事関与には慎重だという報道も、この延長線上にある。
現時点で日本政府は、いきなり自衛隊派遣の可否を決めようとしているのではなく、まずトランプ氏が「何をどの程度本気で求めているのか」を首脳会談前に把握しようとしている段階だ。
同じ会談テーブルに上がる「南鳥島レアアース」
今回の首脳会談は中東危機への対応だけでなく、資源の対外依存を減らす経済安全保障協力も焦点になっている。その象徴として、南鳥島(東京都小笠原村)周辺の海底資源も議題に上る見通しだ。
南鳥島周辺の海底にはレアアース(希少金属)を含む「泥」が大量に堆積していることが確認されており、日本政府は経済安全保障上の重要資源として開発を検討してきた。レアアースはEVや半導体、再生可能エネルギー設備に欠かせない素材で、現在は中国が世界供給の大半を握っている。
つまり、今回の会談テーマは「原油はホルムズ依存、レアアースは中国依存」という2つの資源安全保障リスクへの対応として、一本の線でつながっている。中東危機が表面化したことで、資源を特定の地域・国に依存しすぎることのリスクが改めて浮き彫りになっており、南鳥島の議題はその文脈で自然に浮上してきた形だ。
今回の会談が示すもの
今週の日米首脳会談は、表面上は「中東情勢への対応」を中心テーマとしながらも、その実態は複数の論点が絡み合った複合的な交渉の場になる可能性が高い。
ホルムズへの艦船派遣要求については、トランプ氏の発言の真意がどこにあるのかはまだ不明だ。それが具体的な派遣要請なのか、交渉上の圧力なのか、首脳会談での直接のやりとりを経て初めて輪郭が見えてくるだろう。
一方で確かなのは、エネルギー安全保障と経済安全保障という2つのテーマが、今後の日米関係を形作る大きな柱になりつつあることをうかがわせる内容だということだ。今回の会談の結果は、単なる外交イベントではなく、日本の資源調達戦略と安全保障の方向性を占う一つの節目になりうる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

