FRB3月会合——インフレと雇用悪化の板挟みで、パウエル議長は何を語るか

利下げすべきか、利上げすべきか。あるいは今は何もしないべきか——。アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)が、3月17日から18日にかけて金融政策を決める会合(FOMC)を開く。金融市場では、今回も政策金利を変えずに据え置くとの見方が優勢だ。しかし注目されているのは、「利下げするかどうか」よりも、会合後のパウエル議長の言葉だ。


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なぜ今回の会合が難しいのか

FRBには二つの使命がある。一つは物価を安定させること、もう一つは雇用を最大化することだ。ふだんはこの二つのバランスを取りながら金融政策を決めるが、今は両方が同時に悪い方向に動いている。

インフレはまだ高い。2月の消費者物価指数(CPI)は前年比2.4%、変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIは2.5%だった。FRBの目標である2%をどちらも上回っており、「インフレが収まった」と言える水準ではない。

一方で、雇用には異変が出ている。2月の雇用統計では、農業以外の就業者数が前月から9万2,000人の大幅な減少となり、失業率は4.4%に上昇した。これほどの落ち込みは、景気の変調を示すサインとして市場に受け止められた。

ただし、この雇用統計の数字はそのまま「景気失速が鮮明」と断定できるかどうかは慎重に見る必要がある。米労働省は、今回の雇用統計には医療分野でのストライキや天候要因などの一時的な要素が影響した可能性を示唆しており、数字の弱さが構造的なものかどうかは、今後のデータを見極める必要がある。


イラン情勢が加えた「第三の圧力」

今回の会合をさらに複雑にしているのが、中東情勢だ。イランをめぐる緊張でホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となり、原油価格が高騰している。

ホルムズ海峡は、中東産の原油が世界に届く上での大動脈だ。ここが使えなくなると、原油供給は大幅に制限され、エネルギー価格の高止まりが続きやすくなる。エネルギー価格は、ガソリン代・物流コスト・航空運賃・企業のコスト全般を押し上げるため、数カ月かけて物価全体に波及しやすい。

市場では、2月CPIは直近の原油高の影響をまだ十分に映していないとの見方がある。つまり、インフレはこれからさらに上向く可能性があるということだ。そうなれば、FRBが政策金利を引き下げることはより難しくなる。


今回のFOMCで何が決まるのか

金融市場の見方はほぼ一致している。今回の3月会合でFRBは政策金利(誘導目標)を3.50〜3.75%のまま据え置く、というものだ。

FRBは前回の1月会合でも金利を据え置いており、今回も変えなければ2会合連続の据え置きとなる。これは「状況が見えるまで動かない」という慎重姿勢の継続を意味する。

金融市場や主要機関の見通しを見ると、「次の利下げ時期」についての見方は分かれている。Reuters調査では、6月の利下げを中央値として見込む声が残っている。一方で、CMEのFedWatch(市場が織り込む金利見通しを示すツール)やGoldman Sachs、Barclaysなどは、利下げ開始時期を9月以降に後ずれさせる方向に修正しつつある。

なお、「原油価格がここまで上がれば利上げが必要」という議論も理論上はありうるが、現時点で主要機関がそこまで踏み込んでいるわけではない。むしろ「利下げを長引かせて様子を見る」という方向が現実的なシナリオとして広く共有されている。


本当の注目点:声明とパウエル議長の記者会見

今回のFOMCは「利下げか据え置きか」の二択ではなく、FRBが今後の経済をどう見ているかを示す内容に注目が集まっている。特に重要なのが以下の3点だ。

①政策声明の文言の変化
前回1月の声明文と今回の文言を比べることで、FRBが「インフレリスク」と「景気・雇用リスク」のどちらをより重く見ているかが読み取れる。

②ドットチャートの更新
FRBは年4回、各メンバーが将来の政策金利をどう見ているかを匿名でプロットした「ドットチャート」を公開する。今回はその更新タイミングにあたる。インフレ見通しが上方修正され、利下げのペースが後ろにずれるようなら、市場に与える影響は大きい。

③パウエル議長の記者会見
会合後の記者会見で議長が原油高やイラン情勢について何を語るかが最大の焦点だ。「インフレは一時的」と見るのか、「注視が必要」と構えを示すのかによって、市場の受け止め方は大きく変わりうる。


「スタグフレーション入り口論」という警戒感

ロイターなどの報道では、こうした雇用悪化と原油高の同時進行を受けて、「スタグフレーション的な局面への警戒」という言葉が出始めている。スタグフレーションとは、景気停滞とインフレが同時に進む状態で、金融政策が対処しにくい最も難しい局面とされる。

ただし現時点では、「スタグフレーションが確定した」というよりも、「その入り口にある可能性への警戒が高まっている」というトーンが正確だ。雇用の弱さに一時要因が混在している以上、次回以降のデータを見ないと判断できない部分も大きい。


日本の家計・投資家にとっての意味

FRBの政策金利は、世界の金融市場に大きく影響する。利下げが遠のけば、米国の金利は高止まりしやすく、ドル高圧力につながりやすい。円安・ドル高傾向は、日本の輸入物価を押し上げる方向に働く。

つまり、FRBが「様子見を続ける」という姿勢を示すほど、エネルギーや食品の輸入コストが高止まりするリスクが続くということだ。中東情勢→原油高→米インフレ→FRB利下げ先送り→ドル高圧力→日本の輸入コスト高、という連鎖は、決してアメリカだけの話ではない。

今週のFOMCとパウエル議長の発言は、投資家だけでなく、日常の物価に関心がある人にとっても無視できないニュースになる。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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