電気自動車(EV)のモーター、スマートフォンの部品、ミサイルの誘導装置。これらに共通して欠かせない素材が「レアアース(希土類)」だ。問題は、その生産・加工の多くを中国が担っているという現実だ。
3月14日、この構造を変えようと、日本とアメリカが初めての閣僚会合を開いた。赤澤経済産業大臣とアメリカのバーガム内務長官らが東京に集まり、レアアースをはじめとした重要鉱物の供給網を「中国一極依存」から多角化することで連携していくことを確認した。
レアアースとは何か──「産業のビタミン」
レアアースとは、17種類の元素群の総称で、「希土類」とも呼ばれる。量は少ないが、現代の精密機器には欠かせない。
たとえばネオジムは、EVや風力発電の高性能磁石に使われる。ガリウムは半導体の製造に不可欠だ。スカンジウムは無人機やミサイルに使われ、防衛産業でも需要が大きい。「産業のビタミン」とも称され、少量でも欠けると製造ラインへの影響が広がりうる素材だ。
なかでも懸念されているのが「重希土類」と呼ばれるグループで、代替が難しく、供給が詰まると影響が出やすい。
なお、今回の会合はレアアースに限らず、ガリウムなどを含む「重要鉱物」全体を視野に入れたものだ。レアアースはその中核をなす素材群として位置づけられている。
問題の本質は「掘る場所」ではなく「加工する力」
「中国にレアアースが多い」というイメージはあるが、問題の本質はもう少し深いところにある。
中国の強みは埋蔵量だけでなく、採掘した後の「分離」「精製」「磁石の製造」に至る工程全体にある。この中下流工程で中国への依存が大きいため、他国が鉱山を持っていても、精製を中国に頼らざるを得ない状況が続いてきた。
さらに、中国が価格を下げれば海外の鉱山会社は採算が合わなくなる。投資が続かず、サプライチェーンが育ちにくい──このサイクルが、他国の「脱・中国依存」を難しくしてきた。
だから今回の日米会合が向き合っているのは、「どこで掘るか」以上に、「どうやって精製し、備蓄し、価格を守るか」という問いだ。
中国の「輸出規制カード」が世界を揺らした
中国はこれまで、レアアースを外交・経済の圧力手段として使ってきた。
2010年には、尖閣諸島問題に絡んで日本へのレアアース輸出を事実上制限し、日本の製造業が打撃を受けた。この経験が日本の危機感の出発点だ。日本はその後、オーストラリアとの連携やアフリカでの権益取得、深海での試験採掘、国内備蓄制度の整備など、「あらゆる手段」を講じてきた。こうした取り組みを通じて、中国への依存度は当時の約9割から6割程度まで低下したとされている(Reuters報道)。ただし、重希土類ではいまも依存が大きく、完全脱却にはほど遠い。
直近では2025年にも中国が輸出規制に動き、アメリカの自動車メーカーが一部車種の生産停止を余儀なくされた。この出来事が米国の危機感に火をつけ、今回の本格的な連携につながっている。
アメリカが動いた──国家が市場に直接介入する異例の戦略
今回の会合に先立ち、アメリカはすでに異例の行動に出ていた。
カリフォルニア州にあるレアアース鉱山会社「MPマテリアルズ」に対しては、国防総省が筆頭株主になり、10年間にわたって一定価格以上で生産物を買い取る契約を結んだ。民間企業のリスクを政府が肩代わりすることで、国内生産を加速させる戦略だ。別の企業「USAレアアース」にも、総額2400億円規模の融資・補助金を投じることで合意している。
さらに、2月には「プロジェクト・ボールト」と呼ばれる戦略備蓄計画を発表。政府系の輸出入銀行が100億ドルの融資を用意し、民間資金約20億ドルと合わせて、重要鉱物の備蓄インフラを構築するとした。
これは従来の「市場に任せる」という発想の転換だ。政府が買い支え・出資・長期契約を通じて市場形成に直接関与する体制へ移りつつある。
アメリカでも再び「レアアース鉱山」が動き出した
アメリカ国内でも、約70年ぶりとなる新たなレアアース鉱山開発がワイオミング州で進んでいる。かつて石炭採掘に使われていたこの土地で、2019年の調査で重希土類を含む大量の鉱物が埋蔵されていることが判明した。確認された埋蔵量は約140万トンで、アメリカの年間需要の100倍以上に相当するという。
ただし、採掘と精製には巨額のコストがかかり、商業生産の開始は早くても2029年とされる。同社のCEOは「中国が供給を独占する状況は許容できない。このプロジェクトはその支配力を断ち切る重要な一歩になりうる」としながらも、「政府の支援や他国との連携が不可欠だ」と述べている。
日本の役割──「脱依存の実務を知る国」として
戦略国際問題研究所(CSIS)のバスカラン氏は、「日本は備蓄制度、深海採掘、アフリカでの権益取得、技術革新など”あらゆる手段”を講じてきた。中国依存低減に向けた協調的アプローチのリーダーだ」と評する。
実際、日本はオーストラリアの鉱山会社「ライナス」との関係を強化しており、2026年3月には年間5,000トンのネオジム・プラセオジムを日本向けに供給する新たな契約が整ったとされる。「多角化」が、外交的な合意だけでなく実際の調達契約として積み重なっている。今回の閣僚会合は、こうした日本の経験と米国の資金力・市場規模を組み合わせる試みでもある。
この問題が「家計」に関係する理由
「レアアースの話は産業界の話では」と思うかもしれない。しかし、この問題は私たちの日常にじわじわとつながっている。
EVや電気製品の価格は、レアアースの安定調達と無関係ではない。供給が滞れば部品の値上がりや生産遅延につながり、最終的には消費者が購入する製品の価格や選択肢に影響が出る。また、政府が備蓄投資や企業支援に多額の公費を投じることは、コストをだれが負担するかという問いでもある。
問われているのは、資源をどこから買うかだけではない。価格が崩れても供給網を維持できる仕組みを、同盟国どうしで作れるかどうかだ。今回の日米会合は、その現実的な実験の始まりともいえる。
(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

