JR東日本38年ぶり本格値上げ──山手線利用者ほど負担が大きい理由と増収880億円の使い道

3月14日、JR東日本が運賃を改定する。平均7.1%の引き上げで、消費税対応を除くと1987年の会社発足以来、初めての値上げだ。

ただ「平均7.1%」という数字だけを見ていると、実態を見誤る。山手線や都心部を日常的に使う人は、それをはるかに超える値上げを受け入れることになる。なぜ都心部ほど上げ幅が大きいのか、そして増収分は本当に安全に使われるのか。背景を整理する。


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同じ「3.7キロ」でも、上げ幅が10倍違う

今回の値上げで最もわかりにくいのが、区間によって値上げ幅がまったく異なる点だ。

例を見てみよう。山手線内の東京・上野間(距離3.6キロ)は、ICカード利用で167円から199円へと32円、実に19.2%の値上げになる。一方、東海道線の藤沢・辻堂間(距離3.7km)は189円から199円で、上げ幅は10円、5.3%にとどまる。ほぼ同じ距離なのに、約4倍の差だ。

通勤定期になると差はさらに広がる。山手線内の通勤定期は平均22.9%の引き上げとなる一方、地方交通線の通学定期は今回据え置きだ。一律ではなく、区間や用途によって格差がかなり大きい。

初乗り運賃は、紙きっぷで150円から160円へ、ICカードは146円から155円へ上がる。


なぜ山手線内がここまで上がるのか

都心部で値上げ幅が大きくなる背景には、40年前の政策判断がある。

1984年、国鉄は東京圏で私鉄との競争が激しいエリアを対象に「電車特定区間」と「山手線内」という割安な運賃区分を設けた。民営化後のJR東日本もこれを引き継ぎ、都心の運賃をあえて低く抑えてきた。

ところが、その後に東京圏の私鉄や地下鉄も値上げを繰り返した結果、「競争対策」としての意味合いは薄れていった。今回、JR東日本はこの2つの特例区分を廃止し、通常の「幹線」に統合することにした。長年、意図的に低く抑えてきた分だけ、今回の値上げ幅が大きくなるというわけだ。

一方、特急料金やグリーン車の料金は今回変更しない。


値上げを迫った2つの事情

資材と人件費の上昇

深夜の保線作業を見れば、値上げの背景がよくわかる。線路を安全に維持するには、終電後から始発までの限られた時間で、レール・枕木・架線などの設備を点検・交換し続けなければならない。

こうした設備の資材価格は、この10年で2割から4割上昇している。作業を担う協力会社への委託費も4割近く膨らんだ。夜間作業ができる技術者の確保はとくに難しく、賃上げが続いている。コストの増加は、企業努力だけでは吸収できない水準に達しているというのが会社側の説明だ。

利用者がコロナ前に戻らない

もう一方の事情が、乗客の回復が頭打ちになっていることだ。

山手線の利用状況(品川〜田端間の平均通過人員)は、2024年度に日量97万人まで回復したが、ピークだった2018年度の113万人には届いていない。リモートワークの定着が大きな要因で、JR東日本は「今後もコロナ前の水準を超えることはない」と見込んでいる。通勤定期の利用もコロナ前比で8〜9割程度にとどまる。

コストが上がり続ける一方で、収入の回復には限界がある。この構図が、今回の値上げを決断させた。


880億円は何に使うのか

値上げによる増収は年間880億円と試算されている。JR東日本によると、コロナ禍の3年間で修繕費を約800億円抑制しており、今回の増収分でその遅れを取り戻しながら、設備の更新・修繕を進めるとしている。

優先課題として挙げているのは、老朽設備の計画的な更新、転落事故を防ぐホームドアの拡充、災害に強い設備整備、エスカレーターやエレベーターの増設によるバリアフリー化だ。

ただし、これが本当に実行されるかどうかは、今後の経過を見る必要がある。国土交通省は今回の値上げを認可したものの、「期限付き認可」として改定後3年間にわたり、総収入・総コスト・設備投資の実績を確認するとしている。値上げを認める代わりに、約束した投資が行われるかどうかを追跡する仕組みだ。


相次ぐトラブルが問うもの

値上げを前にして、JR東日本の運行トラブルが目立っている。

2026年1月には山手線・京浜東北線が停電で長時間運転できなくなり、同月末には常磐快速線で架線が断線、2月には宇都宮線でも同様のトラブルが起きた。老朽設備の更新が後手に回っている可能性を示すような出来事が続いている。

喜勢社長は「880億円の増収で安全レベルをさらに高めていく」と強調した。しかし乗客にとっての問いはシンプルだ。「値段が上がった分、安全は本当によくなるのか」。その答えは、今後数年間の設備投資の結果が示すことになる。


「平均7.1%」の先にあるもの

今回の値上げで、JR東日本には少なくとも3つの大きな宿題が残った。

一つは、増収分の使途を透明性をもって示し続けること。もう一つは、運行トラブルを減らし、「値段に見合ったサービス」を利用者に実感させること。そして、少子高齢化と人口減少が進む中で、次世代に鉄道を維持していく長期的な経営のあり方を示すことだ。

会社発足から38年。初めての本格的な値上げが、どんな結果をもたらすかが問われるのはこれからだ。

(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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