中東情勢が「輸出の現場」に アイスも抹茶もとうもろこしも届けられない

音声解説

table of contents

遠い話が、急に目の前の話になった

イラン情勢の緊迫化は、金融市場や原油価格だけの話ではなかった。

新潟県のアイスメーカーは、クウェート向けに準備した400ケースの商品を送り出せずにいる。福岡県八女市の製茶会社には、中東から注文が来なくなった。沖縄県の農園は、ドバイのレストランに届けるはずだった高級とうもろこしの廃棄を考え始めている。

中東情勢の緊迫化が、日本の地方に根ざした食品メーカーや農家の「売り先」に、ここ数日で次々と影響を及ぼし始めている。


展示会でバイヤーが全員来なかった

3月10日から都内で始まった国際食品展示会には、76の国と地域から3,000社余りが参加した。中東から6社のバイヤーが参加する予定だったが、「担当者が来日できない」などの理由ですべてキャンセルになったという。

展示会は、食品メーカーにとって現地の業者と直接会い、現地の食文化やニーズを把握する場でもある。石川県の練り物メーカーは、バーレーンの企業との商談をこの機会に予定していた。「直接聞ける貴重な機会だと思っていた」と担当者は述べており、単なる販売機会の損失にとどまらない影響が出ている。


なぜ「戦争が起きている地域でもない日本」で影響が出るのか

理解のカギは、食品輸出が「商品を送れば終わり」ではないという点にある。

食品の輸出には、冷蔵・冷凍物流、通関手続き、現地の代理業者との契約、展示会での商談、代金の決済といった多くの工程が組み合わさっている。この一連の流れのどこか一つでも止まると、商品が完成していても売ることができなくなる。

今回は、中東向け船便の運航停止、航空便の運休、現地業者による発注の一時停止、バイヤーの来日キャンセルが、ほぼ同時に起きた。その結果、「運べない → 会えない → 契約できない → 手元の収穫物の処置に困る」という連鎖が、複数の会社・農家で一気に表れている。


地方の現場から聞こえる声

新潟県のアイスメーカーは、売り上げの1割程度を輸出が占め、最大の輸出先がUAEやクウェートなど中東だ。クウェートの業者から受けた400ケースの注文を11日に出荷しようと準備を進めていたが、中東向けの船便が運航中止になり、輸出できない状態という。小西寛子社長は「6月には中東の展示会に参加する予定だったが、このままだと厳しい」と話す。

出典:NHK記事

福岡県八女市の製茶会社は、80年以上の歴史を持ち、現在40か国以上に抹茶を輸出している。中東向けにはサウジアラビアやUAEなど5か国に輸出しており、その額は年間約2億円、輸出額全体の7%程度を占める。イラン情勢の緊迫化で現地からの注文が止まり、いつ再開するか見通せない状況だ。同時に、茶葉を加工する際に使う燃料の費用や、包装資材の価格が原油高騰によって上がるのではないかとも懸念している。

出典:NHK記事

沖縄県中城村の農園では、糖度18度以上の高級とうもろこしを毎年約600本、ドバイのレストランへ出荷してきた。今月から収穫・出荷の予定だったが、3日に商社から「航空便が運休し、現地の情勢が不安定なため出荷できない」と連絡が入った。出荷できる見通しは立っておらず、急きょ国内での出荷先を探している。見つからなければ廃棄になるという。

出典:NHK記事


「成長市場」が止まった

中東は、日本の食品業界にとって近年、最も伸びている輸出先のひとつだ。

中東地域では人口増加を背景に、イスラム法に沿った食品基準であるハラル市場が拡大している。農林水産省によれば、UAE(アラブ首長国連邦)だけを見ると、清涼飲料水や緑茶、牛肉などの輸出増加により、2025年の日本からの輸出額は前年比18%増加していた。

今回の影響は、「たまたまうまくいっていた取引が止まった」ではなく、伸ばすことに成功していた市場で物流と商談の両方が止まったという側面がある。農水省が「輸出先の多角化への支援」を打ち出した背景にも、こうした認識がある。


エネルギー面でも対応が始まった——LNG問題

食品輸出とは別に、エネルギーをめぐる動きも同じ日に起きていた。

3月10日、経済産業省は電力会社・ガス会社の幹部を集めた「官民連絡会議」を開いた。テーマはLNG(液化天然ガス)の安定確保だ。会議では、ホルムズ海峡の通航への影響と、世界第2位のLNG輸出国であるカタールの生産停止が説明された。山田賢司経済産業副大臣は「短期的に電力・ガスの安定供給に支障をきたす状況ではないと認識しているが、事態の長期化や深刻化を想定し、危機感をもって対応していく必要がある」と述べた。

日本がホルムズ海峡経由で輸入するLNGは全体の約6%にとどまり、原油ほど中東依存度は高くない。ただし、LNGは原油のような大規模な国家備蓄がしにくいため、物流が詰まると価格上昇や緊急調達コストの増加につながりやすい。経産省が事業者間の融通と在庫の臨時公表(4月上旬から)を打ち出したのは、そうした特性を踏まえた前倒しの対応とみられる。


今後の焦点

現場への影響が続くかどうかは、主に3点の動向にかかっている。中東向け船便・航空便の運航再開時期、カタールのLNG生産再開の見通し、そして原油価格の高止まりが続くかどうかだ。物流が動き出せば食品輸出の混乱は緩和される可能性がある一方、事態が長引けば廃棄や販路切り替えを余儀なくされる企業・農家が増える可能性もある。中東情勢の行方が、その分かれ目になる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents