原油119ドル台・日経急落──「ホルムズ危機」の本質と日本経済への波及

原油価格の急騰、株価の急落、そして急反発。3月上旬の金融市場は目まぐるしく動いた。だが、価格の振れ幅だけを見ていると問題の本質を見誤る。市場が本当に恐れているのは、原油が高いこと自体ではない。世界のエネルギー輸送を支えるホルムズ海峡が、実質的に機能を失いつつあるという事態だ。


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原油は一時119ドル台、日経平均は4200円超の急落

3月8日(日本時間9日朝)、ニューヨーク原油市場で国際指標のひとつであるWTI先物価格が1バレル=100ドルの大台を突破し、一時119ドル台をつけたと報じられている。前週末からの上昇率は31%を超えたとされる。

きっかけは、中東の産油国クウェートが原油の生産削減を始めたとの報道に加え、UAE(アラブ首長国連邦)が沖合油田の生産を「管理している」と伝わったことだった。ホルムズ海峡周辺の緊張に加え、供給自体が絞られる動きが重なり、市場で一気に不安が高まった。

翌3月9日の東京市場では、日経平均株価が先週末比で一時4200円超の急落を記録したと伝えられている。終値でも2892円安となり、終値ベースの下落幅としては過去3番目の大きさになったとの報道がある。


トランプ発言とIEA備蓄放出で一時反転

市場がパニック状態になる中、反転材料が2つ出た。

1つ目は、トランプ大統領の発言だ。3月9日、CBSテレビのインタビューで「戦争はほぼ完了したようなものだと思う」「予定より早く進んでいる」と述べたと伝えられた。この発言を受けて原油価格は下落に転じ、翌10日の日経平均株価は1500円余り上昇した。

2つ目は、IEA(国際エネルギー機関)が加盟国による石油備蓄の放出を過去最大規模で行うことを提案したとの報道だ。3月11日、ウォール・ストリート・ジャーナルが当局者の話として報じた。

ただし、これらの材料で原油価格が下がっても、供給不安の根本原因は解消されていない。


本当の問題──ホルムズ海峡が「通れない」

市場の不安の核心は、ホルムズ海峡の通航が大幅に制約されているとみられる事態にある。

ホルムズ海峡とは、ペルシャ湾と外洋(アラビア海)をつなぐ幅30キロ余りの海の回廊だ。世界で消費される原油の約2割がこの海峡を通過するとされ、サウジアラビア、クウェート、カタール、UAEなどの中東産油国から出る石油やLNG(液化天然ガス)の大半は、ここを経由して輸出される。

NHKが船舶位置情報を集計した結果によると、アメリカとイスラエルによるイラン攻撃の前には1日あたり100隻以上の船が通過していたが、3月2日〜3日にはそれぞれ3隻にまで急減。3月10日時点でもほとんど通過が確認できない状態だという。

一方、ペルシャ湾の内側にはおよそ2100隻ものタンカーや貨物船が滞留しているとされ、海峡を通れずに足止めされている状況がうかがえる。


「物流・保険・護衛」の三重苦

ホルムズ海峡の問題は、船が物理的に通れないことだけではない。保険と軍事護衛の両面からも、海運が成り立たなくなりつつあるとの見方が広がっている。

保険の危機

船舶が紛争地域を航行する際には、通常の損害保険とは別に「戦争保険」(War Risk Premium)への加入が必要になる。しかし、ペルシャ湾での船舶攻撃が相次ぐ中、アメリカやイギリスの保険組合がペルシャ湾などを航行する船舶への戦争保険の補償を停止する動きが伝えられている。保険がなければ、海運会社は万が一の損害をカバーできないため、船を出すこと自体が難しくなる。

この状況を受け、アメリカの国際開発金融公社は3月6日、中東を航行する船舶向けに最大200億ドル(約3兆1000億円)規模の保険枠組みの導入を発表した。ただし、補償の対象範囲や他国の船舶への適用など、詳細はまだ明確になっていない。

護衛の壁

トランプ大統領は3月3日、「アメリカ海軍が必要に応じてタンカーの護衛を開始する」と表明した。タンカー護衛とは、海軍の艦船がタンカーのそばを航行し、敵の攻撃から守ることだ。過去には1987年のイラン・イラク戦争時に「アーネスト・ウィル作戦」として実施された例がある。

しかし、専門家からは懐疑的な見方も出ている。ウォール・ストリート・ジャーナルは、現地に展開するアメリカの駆逐艦の多くは空母の防衛に充てられており、タンカー護衛に使える艦船は「ほんの一握りだ」とする見方を紹介している。

実際、3月10日時点でアメリカ海軍によるタンカー護衛はまだ実施されていない。


日本は原油の9割をホルムズ海峡に頼る

この問題が日本にとって深刻なのは、エネルギー調達の構造にある。

アメリカのEIA(エネルギー情報局)のまとめによれば、ホルムズ海峡を通る原油の行き先は、中国向けが36.7%、インド向けが13.6%、日本向けが11.5%。一方、ヨーロッパ向けは4%、アメリカ向けは2.7%にとどまり、アジア各国への依存が圧倒的に高い。

日本の場合はさらに深刻だ。日本の原油輸入のうち中東依存度は93.5%。専門家によれば、日本は輸入原油の9割前後をホルムズ海峡経由に頼っているとされる。

ただし、日本は石油備蓄の厚さでは世界有数だ。1973年のオイルショックを教訓に備蓄が義務化されており、2025年12月末時点で国と民間合わせておよそ250日分の石油を確保している。備蓄は短期の供給ショックを和らげるには有効だが、長期化すれば価格上昇そのものは避けられない。「足りるかどうか」よりも「いくらで買えるか」が問題の焦点になってくる。


LNGは安全か──原油高が電気・ガス料金に波及する構造

日本の発電に欠かせないLNG(液化天然ガス)は、原油ほど中東に依存していない。最大の輸入元はオーストラリア(39.7%)で、マレーシア(14.7%)が続く。中東からの輸入は全体の10.7%にとどまる。

しかし、LNGの調達コストには別のリスクがある。日本はLNGの約8割を長期契約で調達しており、そのうち多くが「原油価格連動型」の契約だ。つまり、原油価格が上がればLNGの調達コストも上がる仕組みになっている。その結果、原油高はLNGを通じて電気料金やガス料金の上昇につながる可能性がある。

さらに、LNG生産大国であるカタールでは、国営エネルギー企業の関連施設が攻撃を受けて生産が停止したとの報道がある。これを受け、ヨーロッパの天然ガス指標であるオランダTTF先物価格は、戦闘開始前の2倍超に跳ね上がったと伝えられている。


トランプ政権のジレンマ──戦争か、ガソリン代か

トランプ大統領がイランへの軍事作戦を続ける一方で、エネルギー価格の上昇に神経をとがらせている背景には、国内政治の事情がある。

アメリカは車社会であり、ガソリン価格は有権者の生活に直結する。レギュラーガソリンの全米平均価格は3月10日時点で1ガロン(約3.78リットル)あたり3ドル53セントに上昇していると報じられており、政治的に敏感な水準に入っているとの見方もある。

トランプ大統領はもともと、バイデン前政権をインフレの責任で批判し当選した経緯がある。11月の中間選挙を控え、自らの決断で物価高を招くわけにはいかない。3月5日には、インドに対してロシア産原油の一部購入を30日間限定で認めるという異例の措置をとった。ロシアへの制裁を事実上緩和してでも原油高を抑えたいという意図がうかがえる。


短期の価格反落で安心できる局面ではない

原油価格は急騰と急落を繰り返し、市場は大きく揺れている。しかし、問題の根本は価格の上下ではない。

ホルムズ海峡の通航が大幅に制約されたまま、保険の引き受けは縮小し、軍事護衛の目処も立っていない。この「物流の大動脈が詰まった」状態が解消されない限り、原油価格の不安定さは続き、日本の家計にもガソリン代、電気・ガス料金、食料品価格の上昇という形で波及し続ける可能性がある。

CNNは関係者の話として、イランがホルムズ海峡に機雷を敷設し始めたとも伝えている。現時点でこの情報の詳細は限定的だが、事態のさらなる長期化も排除できない。そうなれば、備蓄があっても価格上昇圧力を完全には防げない可能性がある。

次の焦点は、ホルムズ海峡の通航が安全に回復するかどうか。その見通しが立たない限り、世界経済は不安定な航海を強いられることになる。


(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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