


物価高が続く中、家計のやりくりに頭を悩ませてきた人は多いだろう。そこに、久しぶりに明るい数字が届いた。厚生労働省が発表した2026年1月の「毎月勤労統計調査」によると、物価の変動を加味した実質賃金が前の年の同じ月と比べて1.4%増加し、2024年12月以来、13か月ぶりにプラスへ転じた。
なぜ今回の数字がこれほど注目されるのか、そして「生活が楽になった」と実感できるのかどうかを整理してみたい。
「実質賃金」とは何か
まず、実質賃金という言葉を押さえておきたい。
私たちが毎月受け取る給料の金額そのものを名目賃金という。しかし、給料が3%増えても、物価が4%上がっていれば、実際に買えるものの量は減ってしまう。この「物価の変動を差し引いた、本当の意味での購買力」を示す指標が実質賃金だ。
実質賃金がプラスであれば「給料が物価を上回って増えている」状態、マイナスであれば「物価高に給料の伸びが追いついていない」状態を意味する。
今回の数字:何がどう良かったのか
今回の1月の統計では、まず名目賃金の伸びが目を引く。
働く人1人あたりの現金給与総額(基本給、残業代、賞与などを含む合計)は平均30万1314円で、前年比3.0%増。これで49か月連続のプラスとなった。
なかでも注目すべきは、基本給などにあたる所定内給与が26万9198円と3.0%増えた点だ。所定内給与は、ボーナスや残業代という変動要素を除いた「毎月決まって支払われる賃金」であり、賃金の基調を測る上で最も重要とされる。今回の伸びは33年3か月ぶりの高水準で、企業の賃上げが単なるボーナス増ではなく、基本給の底上げという形で表れてきていることを示す。
一方、物価上昇率が鈍化し、賃金の伸びが物価を上回ったことで、実質賃金がプラスへ転じた。
13か月のマイナスが意味するもの
「13か月ぶりプラス」という言葉は、裏を返せば、それだけ長い間マイナスが続いていたということでもある。
2025年を通じて、物価高が賃金の伸びを上回る状況が続いていた。家庭の食費や光熱費の高さは肌感覚として残っており、統計の数字と生活実感の間にギャップを感じていた人も少なくないはずだ。今回のプラス転換は、その流れが変わりつつあるサインとして受け取れる一方で、まだ1か月分のデータにすぎない点には注意が必要だ。
「春闘」が次の焦点
厚生労働省はこの結果について「所定内給与は堅調に増加しており、物価上昇が落ち着いてきたことから実質賃金がプラスに転じたとみられる」とコメントしている。そのうえで、「今後は春闘での各企業の回答を注視したい」と述べた。
春闘(春季労使交渉)とは、労働組合と企業が毎年春に行う賃金交渉のことだ。大手企業の回答が3月中旬から下旬にかけて本格化するため、これが2026年の賃金の方向性を左右する。
ただし、大企業での高い賃上げが中小企業やパートタイム・非正規雇用の労働者にまで広がるかどうかは、別の問題だ。日本の雇用者の多くを占める中小企業で賃上げが進まなければ、実質賃金プラスが家計全体に行き渡る実感にはつながりにくい。今回の改善がそのまま定着するかは、現時点では「可能性がある」という段階にとどまる。
日銀の金融政策とのつながり
この統計は、金融政策とも密接に関係している。
日本銀行は近年、政策金利を段階的に引き上げる「金融正常化」を進めており、その判断基準の一つが「賃金と物価の好循環」だ。物価上昇が賃金の上昇を伴っているかどうかを見ているわけで、今回の実質賃金プラスは、市場では日銀の追加利上げを後押しする材料の一つと受け止められている。
まとめ:単月の改善か、基調の転換か
今回の実質賃金1.4%増は、長いマイナス期間を経た転換点として一定の意義がある。基本給の伸びという内容面でも比較的良い数字だ。
ただし、重要なのは今回が「単月の改善」にとどまるのか、それとも「基調の転換」を示すのかという点だ。春闘の賃上げが中小企業・非正規にまで広がり、実質賃金のプラスが続くかどうか——今後2〜3か月、実質賃金がプラスを維持できるかが次の焦点だ。



(本稿は各種公開情報をもとに作成しました。一部数値は記事掲載時点の情報です)

