何が起きたのか
3月9日から10日にかけて、世界の金融市場が激しく揺れた。震源地はイラン情勢の悪化だ。中東をめぐる緊張が一気に高まったことで、原油価格が急騰し、その衝撃が株式・為替・債券の各市場へ連鎖した。
第1段階:原油が「100ドルの壁」を突破
3月9日のニューヨーク原油市場では、国際的な原油取引の指標であるWTI(ウェスト・テキサス・インターミディエート)の先物価格が急上昇し、取引中に1バレル=100ドルの大台を突破。一時119ドル台まで達した。100ドルを超えるのは約3年9か月ぶりのことだ。
WTIとは、アメリカで産出される原油の代表的な銘柄で、世界の原油価格の「物差し」として使われる。この価格が上がると、石油製品全般——ガソリン、灯油、プラスチック原料など——のコストが連動して上昇しやすい。
原油急騰の背景にあるのは、ホルムズ海峡をめぐる供給懸念だ。ホルムズ海峡はペルシャ湾の出口にあたる狭い水路で、世界の原油輸送量の約2割がここを通る。イラン情勢が緊迫すると、この海峡が封鎖されるリスクが意識され、「原油が届かなくなるかもしれない」という不安が価格を押し上げる。
第2段階:日本市場で「トリプル安」が発生
原油ショックは翌9日、日本市場を直撃した。株安だけでなく、円安と国債安(金利上昇)が同時進行する「トリプル安」となったのが今回の特徴だ。
- 株式市場:日経平均株価が一時4200円超の急落
- 為替市場:円相場が一時1ドル=158円台後半まで下落
- 債券市場:国債も売られ、金利が上昇
通常、世界的なリスクオフ(不安からの逃避)局面では、比較的安全とされる円や日本国債が買われやすい。だが今回はそうならなかった。原油高による日本経済へのダメージが意識されたからだ。
日本はエネルギーの中東依存度が高く、原油が高騰すると輸入コストが膨らみ、企業収益や家計を直撃する。さらに、原油高でインフレ(物価上昇)の再加速が懸念されると、「金利を下げにくくなる」という見方が広がり、債券相場も下落しやすくなる。「円安+燃料高」という二重の打撃を受けやすい日本では、株・円・債券がそろって売られる展開となった。
実体経済への波及:エチレン減産が示すもの
影響は金融市場にとどまらない。原油を原料とする化学製品の生産にも影響が出始めた。
エチレンとは、石油(ナフサ)を分解して作られる化学物質で、プラスチック・塗料・合成繊維など幅広い製品の原料となる。原油高でナフサ価格が上昇すると、エチレンのコストも跳ね上がり、生産縮小を迫られるケースがある。
今回のイラン情勢の余波で、国内メーカーの間でエチレン生産への影響が出ていると報じられており、原油高が素材・化学・輸送コストを通じて日本企業の収益や物価に波及しうる局面に入ってきた。
第3段階:米国市場が終盤に急反転
3月9日夜(日本時間10日早朝)、ニューヨーク株式市場でもパニック的な売りが先行し、ダウ平均株価は一時800ドル超の急落となった。
しかし終盤に流れが変わった。トランプ大統領が「戦闘終息に近づく可能性」を示唆したとの報道が伝わると、買い戻しの動きが広がり、引けにかけてダウは200ドル超の上昇に転じた。「最悪シナリオ」が遠のくかもしれないという期待が、急落した相場を一気に押し返した形だ。
原油も上げ幅を縮小:G7・IEAの動きが影響
原油市場にも変化が生じた。9日の取引中に119ドル台まで急騰したWTI先物は、その後急速に上げ幅を縮め、翌10日にかけて90ドル前後まで押し戻された。
背景にあるのは、G7(主要7か国)の緊急会合と、IEA(国際エネルギー機関)加盟国による備蓄石油の市場放出検討だ。IEAとは、エネルギー安全保障のために設立された国際機関で、加盟国は有事に備えて一定量の石油備蓄を義務付けられている。この備蓄を市場に放出することで原油価格の上昇を抑えようというのが狙いだ。
ただし、G7内では「まだ備蓄放出の段階ではない」との慎重な意見もあり、原油価格が安定したとは言い切れない状況が続いている。
まとめ:「安心」ではなく「最悪シナリオの一部後退」
今回の一連の動きは、3段階で整理できる。
第1段階:中東情勢悪化を受けた原油急騰と世界同時株安
第2段階:日本で「原油高に弱い日本売り」が意識され、株・円・債券がそろって下落
第3段階:G7・IEAの対応観測と早期収束への期待で、米国株と原油がいったん巻き戻し
重要なのは、「巻き戻しが起きた=安心」ではないという点だ。原油供給の問題が解決したわけではなく、情勢次第で再び荒れる余地は十分残っている。今後はG7の協議内容や、イラン情勢の実際の進展が市場の方向性を左右しそうだ。
(本稿はNHKの報道のもと独自構成にて作成しました。公開要旨が省略されている記事については、取得できた範囲での情報をもとに記述しています)

