ネット広告がついに半分を超えた日——8兆円市場に刻まれた「節目」

2026年3月、大手広告会社・電通が発表した一枚の資料が、静かに業界を揺らした。

2025年の国内広告費は推計8兆623億円。4年連続で過去最高を更新したという事実も十分に驚きだが、本当の「事件」は別のところにあった。広告費全体に占めるインターネット広告の割合が、初めて50%を超えたのだ。

50.2%。半分という壁を越えたこの数字は、日本の広告の「中心地」がどこにあるかを示す、象徴的な転換点だった。


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そもそも「広告費」とは何だろう

テレビのCM、電車のつり革広告、Instagramのフィード上に現れるバナー——私たちの日常に溶け込むそれらすべてが、企業が支払う「広告費」に含まれる。

電通の統計では、テレビや新聞への出稿費だけでなく、ネット媒体への掲載料、屋外の看板、交通広告、さらにはイベント関連費なども広く含めて集計している。つまり広告費とは、企業が「消費者に届けるため」に使ったお金の総額だ。

この総額が大きくなるということは、企業が全体として「広告を増やす価値がある」と判断していることを意味する。そして、その内訳がどう変わるかは、企業が「消費者がどこにいるか」をどう読んでいるかを映し出す鏡でもある。


テレビの時代が終わるとき

かつての広告市場の主役は、テレビだった。

高度経済成長期からバブル期にかけて、「テレビに流せば売れる」という方程式が日本の広告業界を支配した。視聴率が高ければ広告費も高い。多くの家庭が同じ時間に同じ番組を見ていた時代、テレビは日本中の消費者に一斉にメッセージを届けられる、比類なき媒体だった。

転機が訪れたのは、スマートフォンの普及とともにだ。人々の目線がテレビ画面からスマホ画面へと移り始め、時間の使い方が変わった。YouTubeでの動画視聴、SNSのスクロール、ECサイトでの買い物——生活の中心がじわじわとネットへ移行していくにつれ、広告費もそこへ流れ込んでいった。

2025年、ネット広告費は前年比10.8%増の4兆459億円に達した。一方、テレビ・新聞・雑誌・ラジオの「マスコミ四媒体」の合計は1.6%減の2兆2980億円となり、全体の28%余りまでシェアが低下した。


何が「ネット広告」を押し上げたのか

ひとことで「ネット広告が伸びた」と言っても、その中身は一枚岩ではない。

最大の成長エンジンとなったのは、動画広告and SNS広告だ。TikTokやInstagramのリール、YouTubeのショート動画のように、縦型でスマホに最適化された短尺動画は、「スキップしてしまいそうで、でも気づいたら見てしまう」フォーマットとして急速に存在感を高めた。

電通の詳細分析では、ネット広告の中のビデオ広告が1兆275億円となり、初めて1兆円の大台を突破した。

もうひとつの成長領域が、ECプラットフォーム広告だ。Amazonや楽天など、実際に買い物が行われる場所に広告を出す手法は、「見てもらう」だけでなく「買ってもらう」という結果を直接追いかけられる点で、企業の支持を集めている。広告が「認知」から「購入直結」へと変化している流れの一端がここに見える。


マスコミ四媒体は「終わった」のか

ここで少し立ち止まって考えたい。ネット広告の台頭は、テレビや新聞の「死」を意味するのだろうか。

答えは、単純なイエスではない。

確かに、シェアは縮んだ。しかし2025年のマスコミ四媒体広告費はなお2兆円を超えており、電通も「ほぼ横ばい」と位置づけている。急減したというより、広告市場全体がネット主導で拡大していく中で、相対的なシェアが低下したという構図だ。

さらに興味深いのは、テレビ由来のデジタル動画広告が伸びていることだ。テレビ局が配信するインターネット動画(いわゆる「TVer」などのサービス)への広告は成長しており、旧来メディアがそのまま消えるのではなく、デジタル接点に姿を変えながら再編されていると見る方が、実態に近いだろう。


万博・世陸の「特需」も貢献した

2025年のもうひとつの押し上げ要因として、大阪・関西万博と東京2025世界陸上が挙げられる。

屋外広告や交通広告、イベント関連費などを含む「プロモーションメディア広告費」は前年比2.0%増の1兆7184億円となった。国際的な大型イベントは広告主にとって絶好の宣伝機会であり、訪日外国人の増加とも相まって、街頭広告やイベントスポンサーシップへの需要が底上げされた。


生成AIは広告をどう変えるか

電通メディアイノベーションラボの森永陸一郎主任研究員は、今回の調査結果を受けてこう語った。「インターネット広告は成長度合いが早く、大きな転換点だと思う。生成AIを使ったクリエイティブ=広告の企画や制作も限りなく進んでいる」

生成AIは、広告の企画・制作・運用の現場に急速に入り込みつつある。たとえば、商品の宣伝文句の案を数十パターン自動生成したり、ターゲット層ごとに異なる訴求画像を短時間で用意したりといった使い方が広がっている。

今回の統計はAIの効果を直接数値化したものではない。しかし、「より多くのパターンを、より低コストで試せる」ようになるという流れは、ネット広告の運用型モデル——実際の成果に基づいて配信を最適化していくやり方——とも相性がよく、今後の市場拡大をさらに後押しする可能性がある。


2025年という「節目」の意味

8兆623億円、そしてネット広告比率50.2%。

この数字が意味するのは、単に「広告費が増えた」ということではない。日本の広告の重心が、ついに完全にネットへと移った、という構造的な転換の記録だ。

テレビの前に家族が集まり、同じCMを見て笑っていた時代は、遠くなった。代わりに私たちは、それぞれのスマホで、アルゴリズムが選んだ動画を見ながら、気づかないうちに広告と出会っている。

そしてその広告の世界では今、生成AIがさらなる変化の波を起こそうとしている。

2025年は、日本の広告市場が量だけでなく、構造においても節目を越えた年として記憶されることになりそうだ。


データは電通「2025年 日本の広告費」(2026年3月5日発表)に基づく。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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