ホルムズ海峡が「止まりかけた日」――日本のエネルギーに何が起きるのか

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「すべての船舶の通航を禁止する」

2026年3月1日、ペルシャ湾の出口にあたるホルムズ海峡をめぐり、革命防衛隊海軍を名乗る通告が無線で発せられたと、ロイター通信が伝えた。

「こちらはイスラム革命防衛隊海軍。これよりホルムズ海峡の航行はすべて禁止する。今後告知するまで、いかなる種類の船舶もホルムズ海峡の通過は認められない」

ロイター通信はこの音声を配信し、アメリカとイスラエルによるイランへの攻撃を受けたイラン側の対抗措置の一環として受け止められている。

日本の大手海運3社――日本郵船、商船三井、川崎汽船――はただちに海峡付近の航行を中止し、船舶に安全な海域での待機を指示した。3月2日午前の時点で、船舶への被害は確認されていない。


なぜ「ホルムズ海峡」が止まると世界が揺れるのか

ホルムズ海峡は、ペルシャ湾と外洋をつなぐ唯一の海上出口だ。サウジアラビア、UAE、カタール、クウェートといった湾岸産油国の原油やLNG(液化天然ガス)は、その大半がこの狭い海峡を通って世界に運ばれる(サウジやUAEには海峡を迂回できるパイプラインもあるが、容量には限りがある)。

米国エネルギー情報局(EIA)によれば、2024年のホルムズ海峡を通過する原油等の量は1日平均約2,000万バレル。これは世界の石油消費量の約20%にあたる。世界のエネルギー物流にとって、文字どおりの「要衝」である。

ここが通れなくなる――あるいは通りにくくなるだけで――原油やLNGの供給が世界規模で詰まり、価格が急騰するリスクが生まれる。


「封鎖」なのか、そうではないのか

ここで注意すべき点がある。イラン側のメディア(革命防衛隊とつながりのあるタスニム通信)は「海峡は事実上、閉鎖された」と報じた。しかし、英国の海事機関(UKMTO)は、公式な封鎖通告は行われておらず、無線による呼びかけに法的拘束力はないとしている。

言い換えれば、少なくとも現時点で「公式に封鎖が成立した」と断定できる状況ではない。

だが、現実はもう少し複雑だ。法的にどう整理されるかとは別に、軍事的な緊張が高まれば船舶保険の引き受けが困難になり、船会社はリスクを避けて航行を見合わせる。結果として「法的には封鎖されていないが、事実上、船が通れない」という状態が生まれる。Bloombergも、イラン側の「脅し」を背景に、輸送の回避や停滞が広がっている状況を報じている。


日本にとっての深刻さ――原油の9割超が中東から

日本は原油の9割以上を中東からの輸入に頼っている。そしてその原油を運ぶタンカーの多くがホルムズ海峡を通る。日本にとって、この海峡はエネルギー調達の「生命線」と言って過言ではない。

備蓄はどれだけあるのか

木原官房長官は3月2日午前の会見で、「現状、わが国の石油需給にただちに影響が生じるとの報告は受けていない」と述べた。

その根拠のひとつが石油備蓄だ。資源エネルギー庁の資料によれば、2025年12月末時点で、日本には国家備蓄・民間備蓄などを合わせて国内消費量の254日分の石油が蓄えられている(内訳:国家備蓄146日分、民間備蓄101日分、産油国共同備蓄7日分)。

またLNG(液化天然ガス)については、電力会社・ガス会社が日本全体の消費量の約3週間分の在庫を保有しているという。

備蓄があっても避けられない「価格ショック」

ただし、備蓄は「物量のクッション」であって、価格の上昇を防ぐものではない。

混乱が長引いた場合、真っ先に効いてくるのは原油のスポット価格の急騰、船舶保険料の跳ね上がり、航路変更にともなう物流コストの増加だ。石油備蓄が尽きるよりも前に、調達コストの上昇→企業の負担増→ガソリン・電気料金・食品や日用品の値上がり→家計への圧迫という流れが先行する可能性がある。

すでに円安傾向が続くなかでの原油価格上昇は、物価と金融市場の双方に波及しうる。株価の下落や為替のさらなる変動も懸念されている。

LNGは石油に比べて在庫日数が短い(約3週間分)ため、供給がタイトになれば、他の地域からの調達競争が激化し、価格がさらに押し上げられる可能性もある。


政府の対応と今後の焦点

木原官房長官は、石油備蓄の放出について「現状では具体的な予定はない」とし、IEA(国際エネルギー機関)とも連携しながら状況を注視する姿勢を示した。

経済産業省は原油や天然ガスの供給への影響を把握するため、民間企業からの情報収集を進めている。

今後の注目点は以下の通りだ。

  • 今後の東京市場の動き:原油先物価格、株価、為替がどう反応するか
  • 海峡の通航再開の見通し:イラン側の姿勢に変化があるか、各国の外交的働きかけの進展
  • 船舶保険の動向:保険の引き受け停止や料率の引き上げが起きれば、海峡が「開いて」も船は動きにくくなる
  • IEAによる協調放出の判断:過去にも供給危機の際に加盟国が協調して備蓄を放出した前例がある

まとめ――「封鎖」の有無より、「止まりかけている現実」が問題

ホルムズ海峡が「公式に封鎖された」と断定できるかどうかとは別に、重要なのは実際に船が止まり、物流が滞っていく現実だ。

日本には254日分の石油備蓄があり、ただちにエネルギーが枯渇するわけではない。だが、この危機が長引けば、価格上昇を通じて私たちの暮らしにじわじわと影響が及ぶ可能性がある。週明けの市場と、現地情勢の推移を注意深く見守る必要がある。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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