「EV時代が来る」はずだったのに
数年前まで、自動車業界の合言葉は「EV化」だった。各国政府がEV普及の目標を掲げ、自動車メーカーは競うようにEV開発に資金を注ぎ込んだ。
ところが2026年の年明け、アメリカの市場では少し違う風景が広がっている。
日本の主要自動車メーカーが公表した2026年1月の米国新車販売のデータを見ると、軒並み「ハイブリッド車(HV)が好調だった」という報告が並んでいる。EVが低迷するなかで、HVが実質的な主役となっている——そんな構図が、数字からはっきりと浮かび上がる。
1月の販売実績:「伸びた会社」と「落ちた会社」に共通するもの
日本の主な自動車メーカーが公表した2026年1月の米国新車販売台数(グループ全体)は以下のとおりだ。
| メーカー | 販売台数 | 前年同月比 |
|---|---|---|
| トヨタ(レクサス含む) | 176,853台 | +8.1% |
| ホンダ(アキュラ含む) | 98,594台 | +1.9% |
| 日産(インフィニティ含む) | 71,248台 | +4.9% |
| 三菱自動車 | 7,421台 | -17.0% |
| SUBARU | 42,157台 | -9.1% |
| マツダ | 28,958台 | -14.0% |
一見するとトヨタ・ホンダ・日産が「好調」、SUBARUとマツダ、三菱が「不調」と読めるが、ここに面白いことがある。
多くのメーカーで、「HV(ハイブリッド車)が販売を下支えした」ことが共通項だ。
トヨタとホンダは「HVの好調が全体の伸びを牽引した」と明言した。総販売が減ったSUBARUとマツダも、HVを含む電動化車種の投入・拡充を進めている。つまり、いまの米国市場では「EV一辺倒」ではなく、HVが現実的な選択肢として支持を集めている、と読み解ける。
そもそも「HV」って何が違うの?
自動車の「電動化」をめぐっては、似たような略語が並んで混乱しやすい。ここで一度整理しておきたい。
EV(Electric Vehicle / 電気自動車) は、ガソリンを使わず電気だけで走る。自宅や充電スタンドで充電する必要があり、一度の充電で走れる距離(航続距離)は車種によって差がある。
HV(Hybrid Vehicle / ハイブリッド車) は、エンジンとモーターを組み合わせて走る。ガソリンを使いながら、減速時などに発電してモーターをアシストする仕組みだ。重要なのは「外部からの充電が基本的に不要」という点で、普通のガソリン車とほぼ同じ感覚で使えながら燃費が良い。
PHEV(Plug-in Hybrid Electric Vehicle / プラグインハイブリッド) は、HVに外部充電の機能を加えたもの。短い距離ならEVとして、長距離ではHVとして走ることができる「いいとこどり」の方式だ。
今回の報道でいう「HV」は主にこのなかのHV(一部PHEVを含む場合あり)を指す。
アメリカでHVが「現実解」になる理由
なぜ今、アメリカでHVが伸びているのか。背景にはいくつかの要因が重なっている。
まず価格の問題だ。EVはバッテリーのコストが高く、同クラスのガソリン車やHVより高価になりやすい。アメリカの消費者の間では、購入価格に敏感な層ほどEVを選びにくい状況がある。
次に充電インフラの問題だ。日本に比べてアメリカは国土が広大で、都市部を離れると充電スタンドが少ない地域も多い。遠出のたびに「充電できるか」を気にしながら走るのは心理的な負担になる。HVならガソリンスタンドが使えるため、そうした不安がない。
さらに政策の変化が大きく影響している。
トランプ政権が車両の温室効果ガス(GHG)規制を撤廃
2026年2月、トランプ政権は、EPA(環境保護庁)の枠組みに基づく車両・エンジンの温室効果ガス(CO₂など)排出規制を撤廃すると発表した。
もともとアメリカでは、EPA(環境保護庁)が定めた温室効果ガスの車両排出基準が、自動車メーカーにEV比率を高める「制度的なプレッシャー」として機能していた。メーカーはその基準を守るために、採算が合わなくてもEVを増やす動機が生まれていた。
今回の規制撤廃により、そのプレッシャーが弱まる方向に動く可能性がある。メーカーとしては「EV比率を無理に上げなくてもよくなる」方向に働きうる。
ただし、すべてが一方向に動くとは限らない。環境団体や一部の州が法的な対抗措置をとる可能性もあり、将来的な不確実性は残る。規制緩和が長期的にどんな影響をもたらすかは、現時点では不明だ。
トヨタ「1400億円」投資の意味
こうした流れのなかで、メーカーの動きも変わりつつある。
トヨタは、米国内5か所の工場に合計約9億1200万ドル(約1400億円)を投資し、ハイブリッド車の生産体制を強化すると発表した。アメリカの消費者がHVを求めているなら、アメリカで作る体制を整える——という戦略だ。現地生産の強化は雇用創出にもつながるため、アメリカの政治状況とも相性がいい。
ホンダも北米市場向けに、次世代のハイブリッドシステムの開発を進めていると明らかにしている。詳しい仕様や発売時期は現時点では不明だが、「北米のHV需要に本腰を入れる」という姿勢は明確だ。
「EV販売は前年比マイナス30%」という数字
一方、EVの苦戦を示す数字も出ている。
調査会社コックス・オートモーティブの推計では、2026年1月のアメリカ全体のEV新車販売は約6万6000台で、前の年の同じ月と比べて約30%減少したとされる。EV全体の市場シェアも約6%にとどまっている。
「EV販売が30%減」というと衝撃的に聞こえるが、注意が必要な点もある。月次の数字は気温や経済状況、補助金の有無などで大きく振れることがある。また、EVがゼロになったわけではなく、依然として「売れてはいる」。ただ、以前ほどの勢いがない、という状況だ。
HVシフトは「負け」ではない
日本メーカーにとってHVは、もともと得意な土俵だ。トヨタはプリウスを世界で初めて量産し、長年にわたってHV技術を磨いてきた。ホンダもHVの開発で実績がある。
EVシフトが加速していた頃には、「HVは過渡期の技術に過ぎない」と見られることもあった。しかしアメリカ市場の現実を見ると、消費者はまだHVを強く求めている。
結果として、HVに強みを持つ日本メーカーが、現在の市場環境では有利な立場にある——という見方もできる。もちろん、EVへの移行が将来どのくらいの速度で進むかは不確かで、HV優位の状況がいつまで続くかは不明だ。
変わる市場、変わらない問い
アメリカの自動車市場は、EV普及という「理想」と、インフラや価格という「現実」のあいだで揺れ動いている。そこへ、政権交代による規制の転換が加わった。
1月の販売データは、その揺れの一断面を映している。HVが強く、EVが弱い——それは今の数字の話だ。5年後、10年後の姿がどうなるかは、誰にも確言できない。
ただ少なくとも今、アメリカのカーディーラーでは、HVのバッジがついた車が売れている。そして日本のメーカーは、その現実に合わせて工場に資金を投じている。
「現実路線」の選択が、結果として正解だったかどうかは、もう少し時間が経ってから振り返ることになるだろう。

