「10兆円」という数字が示すもの
2026年2月25日(現地時間)、アメリカの半導体メーカー「エヌビディア(NVIDIA)」が決算を発表した。
1月までの3か月間の売り上げは約681億ドル(日本円でおよそ10兆6500億円)。前の年の同じ期間と比べて73%増えた。最終的な利益も約429億ドル(同6兆7200億円)と94%増。どちらも、3か月間の業績として過去最高を更新した。
桁が大きすぎてピンとこないかもしれない。感覚をつかむために言い換えると、エヌビディアは3か月で、トヨタ自動車の年間純利益を上回る水準の利益を稼いだ計算になる。
ところが、決算発表直後の時間外取引では買われた一方、翌日の通常取引では株価が下落した。
好業績なのになぜ——。そこには、AIブームに沸く今の時代特有の複雑な事情がある。
エヌビディアとは何をしている会社か
エヌビディアはもともと、コンピューターゲームの映像を美しく描画するための半導体(GPU=グラフィックス処理装置)を作るメーカーとして成長した。
ゲームに限らず、GPUは「大量の計算を並行して処理する」という特性を持っている。これがAI(人工知能)の開発・学習にも極めて向いていることが明らかになり、エヌビディアはAIブームの波に乗った。
「ChatGPT」のような生成AIを作るには、膨大な量のデータを使ってAIを「訓練」する必要がある。この訓練の大部分を担うのがGPUだ。エヌビディアのGPUはその分野でシェアが高く、GoogleやAmazon、Microsoftといった世界のIT大手が競ってエヌビディアのチップを買い求めている。
今回の決算を引っ張った「データセンター部門」
今回の好決算の主役は、データセンター部門だ。売り上げは前の年比75%増の約623億ドルと過去最高を更新し、会社全体の売り上げの9割以上を占める。
「データセンター」とはインターネットサービスやクラウドを支える巨大なコンピューター設備のことで、AIの普及とともに需要が急増している。IT大手各社が競ってデータセンターへの投資を続けている現状が、エヌビディアの業績を押し上げている。
最高経営責任者(CEO)のジェンスン・フアン氏は決算説明会でこう語った。「世界中の企業で自律型AIの有用性が明らかになるにつれ、計算・処理能力への需要が驚異的なほど発生している」。
「自律型AI(エージェント型AI)」とは、人間が逐一指示しなくても、自分で判断しながらタスクをこなすAIのことだ。こうした次世代AIが普及すれば、処理に必要な計算量はさらに増えると同社は見ている。
「次世代半導体」も計画どおり
エヌビディアは次の世代の半導体についても言及した。「Vera Rubin(ベラ・ルービン)」と呼ばれる次世代プラットフォームについて、2026年後半に量産出荷を開始する計画だとしている。
ただし、「どの製品群がいつ出荷されるか」の詳細は複雑で、報道によっては指す製品が異なる場合があることに注意が必要だ。現時点で確認できるのは「Vera Rubin世代のプラットフォームの生産出荷が2026年後半に予定されている」という点だ。
それでも株価が下がった理由
これだけの好業績が出たにもかかわらず、発表直後の時間外取引では上昇した一方、翌日の通常取引ではエヌビディアの株価が下落した。
この「好決算なのに下落」という現象の背景には、いくつかの要因が指摘されている。
① 顧客への依存が高まりすぎている
ロイター通信などの報道によると、エヌビディアの売り上げのうち、上位2社への依存度が高まっている。2026年1月期通期では上位2社で全体の売り上げの36%を占めたとされる(前年は上位3社で34%)。もしこうした大口顧客がAIへの投資を減らしたり、別のチップに乗り換えたりすれば、業績への影響は大きい。
② 競争相手の存在
今のところエヌビディアのAI向けGPUは独走状態に近いが、ライバルも着実に力をつけている。AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)が新製品を投入し、GoogleやAmazonは自社で設計した専用チップ(TPU等)の開発を加速させている。長期的に見れば、エヌビディアが今の圧倒的なシェアを維持し続けられるかは不透明だ。
③ 中国への輸出規制
アメリカ政府は、先端半導体を中国に輸出することに規制をかけている。エヌビディアの次の四半期(2027年1月期第1四半期)の売り上げ見通しは約780億ドルとしているが、会社自身が「中国向けのデータセンター向け計算売り上げは見通しに含めていない」と明記している。中国市場への不確実性が続いている。
④ 「期待の先食い」という宿命
株価はしばしば、将来の業績への期待を先に織り込んでしまう。エヌビディアの株はAIブームとともに大幅に上昇してきたが、その分だけ「好決算が出て当然」という高いハードルが設定されている。実際に素晴らしい決算が出ても、市場がすでに期待していた水準に届かない、あるいは「次の材料待ち」という状態になると、株価が下がることがある。
「AI投資は過剰か」という問い
エヌビディアの好業績の裏で、投資家や市場関係者の間では「AI向け投資が過熱しすぎているのではないか」という議論が出ている。
GoogleやAmazon、Microsoftといった大手IT企業は、データセンターへの設備投資(CAPEX)を急拡大させている。これがエヌビディアへの需要を支えているわけだが、「この投資が本当に回収できるのか」という疑問も根強い。
フアンCEOは「需要は強い」と強調したが、AI活用の恩恵が社会全体にどこまで広がるか、そのペースが投資の規模に見合うかどうかは、現時点では判断できない。
「決算の数字」を読む時に知っておきたいこと
最後に、決算報道を読む際に役立つ基礎知識をひとつ補足しておきたい。
エヌビディアの「1月までの3か月」というのは、一般的なカレンダーの四半期とは異なる。エヌビディアは1月に会計年度が終わる仕組みを採用しており、今回の対象期間は「2025年10月下旬〜2026年1月25日」だ。こうした会計年度のズレは、企業の決算ニュースでよく出てくる。
また、「GAAP」と「Non-GAAP」という二種類の数字が企業の決算には登場することがある。GAAPはアメリカの会計基準に従った公式の数字、Non-GAAPは企業が独自に調整して示す補足的な数字で、両者は一致しない。今回の記事中の数字はGAAP基準によるものだ。
快進撃の先にあるもの
3か月で売上が10兆円規模に達する企業が誕生するほど、AIへの需要は現実のものになっている。エヌビディアはその中心にいる。
しかし、株価の下落が示すように、市場は「今がいい」だけでなく「この先もいいか」を常に問い続けている。顧客集中、競合台頭、地政学リスク、そして「AI投資バブルか否か」という根本的な問いが、好決算の影に静かに積み重なっている。
エヌビディアの次の決算は、この問いへの答えを少し前進させるはずだ。

