米関税の「土台」が崩れた——日米交渉の現在地

深夜の電話

2026年2月23日の夜10時半、赤澤経済産業大臣は電話口にいた。

相手は米国のハワード・ラトニック商務長官。約40分にわたった会談で、赤澤大臣が訴えたのは一点だ——「昨年夏に日米で合意した枠組みより、日本が不利にならないようにしてほしい」。

なぜ今、こんな申し入れが必要になったのか。その背景には、米国の関税政策をめぐる予想外の「法的激震」があった。


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最高裁が「待った」をかけた

話は数日前にさかのぼる。

2026年2月20日、米連邦最高裁は重大な判断を示した。トランプ政権が広範な追加関税の根拠として使ってきたIEEPA(国際緊急経済権限法)について、「この法律は関税を課す権限を与えるものではない」という趣旨の判断を下したのだ。

IEEPAとは、大統領が「国家緊急事態」と判断した際に、外国との経済取引を広く規制できる権限を与える法律だ。これを根拠に、トランプ政権は日本を含む多くの国からの輸入品に追加関税を課してきた(※ただし、232条や301条など別の根拠で課される関税もあり、すべてがIEEPAに依存しているわけではない)。

最高裁の判断を受け、米税関・国境警備局(CBP)はIEEPA関連の関税コードを停止する通達を出した。徴収停止のタイミングは、2月24日午前0時1分(米東部時間)——日本時間で同日午後2時1分ごろとされている(報道ベース)。


関税の「基礎知識」——まずここを押さえる

話を進める前に、米国の関税の仕組みをざっくり理解しておきたい。

米国の輸入品にかかる関税は、大きく二層に分かれる。

  • (A) 品目ごとの通常税率(MFN税率):原則として適用されるベースの税率(最恵国税率)。品目ごとに異なる。※自由貿易協定などで別の税率が適用される場合もある。
  • (B) 追加関税:特定の政策目的のために、ベースに上乗せされる税率。

実際に輸入業者が払う「実効税率」は、AとBを合計したものだ。今回問題になっているのは、この「B」の設計が変わることで、合意時の想定より合計税率が高くなる品目が生じる可能性がある、という点だ。


「代替」として登場した通商法122条

IEEPAが使えなくなった穴を埋めるため、米政権が持ち出したのが通商法122条(Trade Act of 1974, Section 122)だ。

ロイターの報道によれば、政権はこの条文を根拠に、150日間・(原則)10%の追加関税を新たに開始した。ただし、大統領は15%への引き上げを志向しており、正式な命令が追いつかないまま運用が動いている状態とされる。

10%という数字と15%という数字が並立して報じられているのはこのためだ。現在徴収されているのは10%、ただし15%に上げたい意向が政権内にある——これが現時点の構図である(ただし今後の通知によって変わり得る)。

なお、IEEPA由来の関税が無効になっても、232条(安全保障)や301条(不公正慣行)など別の根拠で課されていた関税は、別扱いで残り得るとされており、全ての関税がリセットされるわけではない。


「昨年夏の合意」が揺らぐ理由

日本が「不利にならないよう」と申し入れたのは、2025年7月の日米合意が念頭にあるからだ。

この合意の骨格は、「相互関税を15%に抑える」というものだった。運用イメージとしては——

  • 通常税率が15%未満の品目:合計が15%になるよう上乗せ
  • 通常税率が15%以上の品目:上乗せしない(従来税率を維持)

要するに、「上乗せのしかた」が15%を基準に整理されていた、という理解だ(ただし実務は品目ごとの詳細に依存する)。

ところが、新たな10%の(原則)一律上乗せに切り替わると、この整理が崩れ、合意時より関税負担が増える品目が出てくる可能性がある。

わかりやすい例として、マヨネーズを挙げてみよう。米国の貿易分類上、マヨネーズには約6.4%の通常税率が設定されている(※分類や製品仕様で税率が異なる場合がある)。

  • 合意時の整理なら:通常税率6.4%に、15%になるよう上乗せ → 合計15%
  • 新制度の10%上乗せなら:6.4% + 10% → 合計16.4%

合意時より1.4ポイント高くなる。これが「昨年夏の合意より不利になり得る」という日本側の問題意識の中身だ。


1750億ドルの「返金」問題

また、IEEPAが無効とされたことで、もう一つの大きな問題が浮上している。

ロイターによれば、これまでIEEPAに基づいて徴収された関税は1750億ドル(約26兆円)を超すとも推計されており、これが返金(還付)対象になり得るという見方が出ている。原告側は返金手続きの迅速化を裁判所に求める動きも見せている。

米国の財政規模でも、1750億ドルの還付は決して小さくない。この問題が、今後の政策運用に影響する可能性がある。


日米「戦略的投資イニシアティブ」の第一歩

赤澤大臣とラトニック長官の電話会談は、「不利にならないよう」という申し入れだけではなかった。

もう一つのテーマが、日米の「戦略的投資イニシアティブ」だ。外務省が公表した第1弾には、3つの案件が名を連ねている。

  1. 工業用合成ダイヤモンド(先端素材)
  2. 米国産原油の輸出インフラ整備
  3. AIデータセンター向けガス火力(ガス発電)

エネルギー安全保障と先端技術への投資を軸に、貿易摩擦とは別の文脈で日米の経済連携を深めるプロジェクトとして打ち出された格好だ。両大臣はこの第1弾の発表を歓迎し、「早期・円滑な実施に向けて緊密に連携する」ことを確認したとされる。


EUも困惑——波紋は世界へ

この問題は日本だけの話ではない。

ロイターによれば、EUは「15%を前提にした合意」との整合が課題になっており、移行期間として受け止めつつ、米側から「合意は順守する」という説明を受けた、とされている。

IEEPAという”関税の土台”が崩れ、代替の法的根拠が模索される中、各国は米国の貿易政策の行方を読み切れない状態に置かれている。


「不利にならない」の保証は、まだない

今回の日米電話会談で、赤澤大臣は申し入れを行った。だが現時点では、「昨年夏の合意が新制度下でも実質的に維持される」という保証が得られたかどうかは、公式発表の範囲では明らかになっていない。

代替関税の具体的な適用範囲、例外品目の詳細(エネルギー・重要鉱物・一部農産品などは除外の方向とされているが、適用細目は未確定)、そして15%への引き上げが実際に行われるかどうか——いずれも今後の米国政府の通知や運用次第だ。

関税政策の「土台」が揺らぐ中、日本は防衛線を守るための外交を続けている。


本稿は2026年2月23〜25日時点の報道・政府発表をもとに構成しました。関税の適用範囲・例外品目の詳細は現在精査中であり、今後の米国政府の通知によって状況が変わる可能性があります。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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