「Panasonic」の名前はそのままに
テレビ売り場を歩けば、今もそこにある。黒いボディに白い文字で書かれた「Panasonic」のロゴ。日本が誇る家電ブランドの一つとして、長年その場所を守ってきた。
だが2026年4月から、そのテレビの作られ方と売られ方が、欧州と北米(米国を含む)市場で大きく変わる。もっとも、提携の実行は地域ごとに進められるため、詳細条件は市場によって異なり得る。
パナソニックホールディングス(東証プライム:6752.T)は、欧米のテレビ事業における「販売・マーケティング・物流」を、中国の家電大手スカイワースグループ(Skyworth Group/香港:00751.HK)側に移管する枠組みを公表した。4月1日からの開始が明記されている。
ブランドは継続する。だが、テレビを売り、届け、流通させる「前線の仕事」の多くを、これから中国企業が担うことになる。
テレビ事業の”解剖図”
この話を理解するには、まずテレビ事業がどんな仕事の集合体かを整理しておく必要がある。
テレビ一台が消費者の手元に届くまでのプロセスは、大まかに四つの層に分かれる。
- 企画・設計:どんな画質エンジンを載せるか、UIをどう作るか、ハイエンド機の差別化をどこで出すか。いわば”頭脳”の部分だ。
- 調達・製造:液晶やOLEDのパネルを確保し、部品を集め、組み立てる。規模が大きいほどコストが下がる、”体力勝負”の領域。
- 販売・マーケティング・物流:量販店や通販サイトとの交渉、販促の設計、在庫の管理、倉庫と輸送のコスト。現地に拠点を持つほど有利だが、維持費もかさむ。
- アフターサービス:修理対応、保証、問い合わせ窓口。消費者が「買った後」に関わる部分。
今回パナソニックがスカイワースに移管するのは、主に③の販売・マーケティング・物流だ。これに加えて、製造(少なくとも最終組立・供給)もスカイワース側が担うという整理が、技術系メディアの間では多い。
一方でパナソニックは、①の画質処理などのAV技術and ④に関わる品質・サービス基準の維持(品質保証)に引き続き関与すると説明している。欧州向けでは、高価格帯OLEDの共同開発にも取り組むとしている。
なぜテレビは「儲けにくい」のか
「なぜ中国企業に任せるのか」という問いに答えるには、テレビという商品の産業構造を知っておく必要がある。
テレビは、成熟した家電製品だ。機能の差別化が年々難しくなる一方で、パネル(液晶・有機EL)の調達コストは「どれだけ大量に買えるか」で大きく変わる。つまり、大量生産ができる企業ほど有利になる構造だ。
韓国のサムスンやLG、中国のハイセンスやTCL、スカイワースといったメーカーは、この”規模の経済”を武器に価格競争力を持っている。日本の家電メーカーは高い技術力を持ちながらも、グローバルな量産競争では不利な立場に置かれてきた。
パナソニックはこれまでも、欧州工場の生産を外部委託に切り替えるなど、自社生産の縮小を段階的に進めてきたとされる。今回の措置はその延長線上にある、と見る向きが多い。
「撤退」か「選択と集中」か——メディアの見立ての差
今回の報道に対する海外メディアの反応は、かなり辛口だ。
英フィナンシャル・タイムズは、今回を「米欧でテレビ事業を事実上オフにする(turn off)」と表現した。ソニーグループ(東証プライム:6758.T / NYSE:SONY)がTCLエレクトロニクス(香港:1070.HK)との提携を発表したことと並べて、「日本メーカーが主導した時代の終わり、中国勢への主導権移転」という大きな物語として描いている。米テクノロジー系メディアのThe VergeやArs Technicaも、「Panasonicブランドのテレビを中国メーカーが作って売る構図」を前面に出し、これを”歴史の節目”として扱っている。
一方、国内メディアは「価格競争で収益が出にくいテレビ事業の再設計」として、現地の固定費(人件費・物流など)を軽くする合理化の文脈で報じる傾向が強い。
どちらの見方が正しいかは、今後の結果が示すだろう。ただ、「海外では撤退、国内では合理化」という論調の温度差そのものが、この出来事の複雑さを物語っている。
ロゴの裏に何があるか——消費者が問うべきこと
「Panasonicと書いてあれば、Panasonicの品質だ」——そう信じて選んできた人は多いはずだ。
今回の提携でブランドは継続する。パナソニック側は「品質保証とAV基準の維持に関与する」と説明している。さらに、欧州では、既存購入分のサポート継続についての取り決めがあるとされる(ただし詳細は地域・契約条件によって異なる可能性がある)。
だが、ブランドが残ることと、品質体験が変わらないことは、必ずしも同じではない。運営が変われば、モデルごと・地域ごとに体感が変わり得る。消費者が本当に気にするべき問いは、「誰が設計し、誰が作り、誰が保証を握っているか」を、商品ごとに確認する習慣を持つことかもしれない。
ソニーとの違い——”合弁”と”運営提携”
似た文脈で語られるソニーとTCLの提携だが、パナソニックとの比較でいくつかの違いがある。
ソニーはTCLとの間で合弁会社の設立を想定しており、株式比率の話が出てくる——つまり資本関係を伴う設計だ。対してパナソニックの今回の枠組みは、現時点の説明では地域ごとの運営提携(販売・マーケティング・物流などの移管)の色が強く、「完全売却」や「事業の資本移転」とは言い切らない整理がなされている、とFTも対比している。
とはいえ、今後の展開によって関係の深度が変わる可能性もあり、現時点では「不明」な部分も残る。
パナソニックが向かう先
今回の動きは、パナソニック全体の構造改革とも連動している。決算発表や一部報道では、人員削減規模が当初想定より拡大し、最大で1万2000人規模になる可能性が取り沙汰されている。加えて、構造改革費用の増加を報じるメディアもある。テレビ事業の”身軽化”は、その文脈に位置づけられる。
2017年に東芝のテレビ事業をハイセンスが取得した例は、「日本ブランドが中国企業に渡った」先行事例として参照されることが多い。ただし今回は”売却”ではなく”運営面の提携”という位置づけが強い、という点でFTも区別している。
パナソニックが「テレビ」から稼ぐビジネスモデルを描けるかどうか。4月以降の欧米市場での実績が、この提携の本当の意味を明らかにしていくだろう。
本稿は2026年2月時点の報道・公式発表をもとに構成しました。提携の詳細条件や地域ごとの運用は異なる可能性があります。投資判断の根拠にされる場合は各社公式情報をご確認ください。

