関税15%の衝撃――「ルール」が揺らぐ時代に、日本は何を問うべきか

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突然の数字が示すもの

「10%」が「15%」に変わった。

その変化は、数字の上では5ポイントの差にすぎない。しかし、トランプ米大統領がこの新たな関税率を示したとき、その影響はモノの値段だけにとどまらない何かを、市場と各国政府に知らしめていた。

米最高裁がIEEPA(国際緊急経済権限法)を根拠とする関税の一部を違法と判断したことを受け、トランプ政権は代替の法的枠組みとして通商法122条に切り替え、当初は10%の一律関税を示していた。しかしその後、政権はこの税率をさらに引き上げ、日本を含む幅広い国々に15%の追加関税を課す方針を明らかにした——122条が定める上限の数字だ。これを受けて、自民党の小林政務調査会長はSNS上でこう訴えた——「政府は冷静かつ早急に、日本経済・企業への影響を分析してほしい」と。


そもそも「関税」とは何か

貿易のニュースに馴染みのない人のために、まず基本を整理しておく。

関税(かんぜい)とは、外国から輸入される商品に課される税金のことだ。「従価税」と呼ばれるタイプの場合、商品の価格に対して一定の割合(今回でいえば15%)が上乗せされる。この税を直接支払うのは輸入業者だが、コストは最終的にさまざまな形で広がっていく。輸入品の小売価格に転嫁されれば消費者の負担が増し、企業が吸収すれば利益が圧迫され、価格競争力が下がれば需要が減る——という具合に、波紋は連鎖する。

複数の市場分析や報道が指摘するのは、こんな点だ。「関税が仮に撤廃されたとしても、一度上がった価格がすぐ下がるとは限らない」。企業は値上げには素早く動くが、値下げには慎重だ。つまり関税の影響は、関税そのものが消えた後も、家計や市場に残り続ける可能性がある。


法的根拠の「切り替え」という伏線

今回の関税措置には、もう一つ見逃せない背景がある。法的根拠の変更だ。

もともとトランプ政権が関税の根拠としていた法律の一部(IEEPA=国際緊急経済権限法)について、米最高裁が違法と判断したと報じられている(判決が否定した範囲や詳細については、現時点で確認できていない点もある)。その後、政権は新たな根拠として通商法122条(Trade Act of 1974, Section 122)を持ち出した。

この122条は、「国際収支(balance of payments)」、つまり国家間のお金の出入りに問題がある場合に、大統領が最大15%・最長150日間の輸入課徴金を課せる、という枠組みだ。今回の15%という数字は、まさにこの上限に当たる。なお、150日の期間が過ぎた後の扱い——延長されるのか、別の法的枠組みに切り替わるのか——は現時点では不明だ。

ただし、この法律が今回の状況に適用できるかどうかは「争点になり得る」と法的論点も語られており、今後の訴訟リスクや議論の余地は残っている。少なくとも言えることは——政権が法的根拠を途中で切り替えてでも関税を維持しようとしているという事実そのものが、ルールの安定性への疑問を生む、ということだ。


「税率」だけじゃない、本当の問題

貿易専門家や国際金融機関の分析が強調するのは、関税の数字だけではない。

10%が15%になったことよりも、むしろ「次に何が起きるかわからない」という不確実性そのものが、企業や投資家にとって深刻な問題だという論調が目立つ。

工場をどこに作るか、サプライチェーン(部品の調達から製品が届くまでの流れ)をどう組み直すか——こうした長期的な意思決定には、「ルールが安定していること」が前提となる。そのルール自体が流動的であれば、企業は慎重にならざるを得ない。結果として、投資判断は先送りされ、経済活動が停滞するリスクがある。


日本はどう動いているか

日本側の対応は、大きく二つの方向性で進んでいる。

一つは政府ルートでの協議だ。担当閣僚が米側と交渉し、昨年成立した合意の条件どおりの扱いを求めたとされる。経産省は「米国関税対策ワンストップポータル」を設け、影響を受ける企業向けに相談窓口や支援策を案内している。

もう一つは与党からの分析要求だ。小林政務調査会長は、影響の分析を政府に求めながら、対米投資も含めて「日米双方がウィンウィンとなる関係を築くべき」と指摘した。経団連もこれまでの対米交渉の成果を評価する立場から、引き続き交渉・合意の枠内での解決を重視する方向性を示している。


世界も同じ問いを抱えている

日本だけの話でもない。

EUは「合意は合意だ」として履行を求め、中国は一方的な措置を批判する——ロイターなどの報道が伝えるように、各国が自国の合意やルールを軸に反応を示している。

どの国も、ルールを前提に貿易の計画を立ててきた。その前提が揺らぐとき、問われるのは関税の税率そのものではなく、「国際的なルールへの信頼」という、もっと根本的な何かだ。


この先の注目点

通商法122条が定める150日間の適用期限が近づいたとき、政権がどう動くかは現時点では不明だ。法的な争いが続く可能性もあり、関税の行方は予断を許さない。

今後、注目すべき論点は主に三つある。150日後の扱い(期限切れ後に延長・別法への切り替えがあるのか)、日米交渉の行方(昨年の合意がどこまで有効とされるか)、そして企業の実務対応(経産省の支援策を含め、現場レベルでどう態勢を整えるか)だ。

「冷静かつ早急に」。小林氏がSNSに書いたその言葉は、政府だけでなく、企業や個人にとっても、現局面を読み解くための基本姿勢として機能し得る。


(本記事は公開情報をもとに作成しています。法的解釈や経済的影響については今後の状況によって変わる可能性があります)

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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