生活保護の引き下げは「違法」だった──最高裁判決後の追加給付、対象・手続き・”揉めどころ”を整理する

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何が起きたのか(まず結論から)

2013年から段階的に行われた生活保護(生活扶助)基準の引き下げをめぐり、最高裁判所は2025年6月27日、引き下げ手法の一部(「デフレ調整」)について、判断過程や手続きに過誤・欠落があったとして違法と判断し、原告らの減額処分を取り消した。

ただし、国に対する国家賠償(損害賠償)の請求は認められなかった。このため「判決=全額が一括で戻ってくる」という図式にはならない点は、あらかじめ押さえておきたい。

この判決を受け、厚生労働省は追加給付の枠組みを告示し、2026年3月以降、準備が整った自治体から順次、対象者への支給を始める方針を示した。


そもそも「デフレ調整」とは何だったのか

少しだけ制度の背景を整理しておきたい。

生活保護のうち、食費・衣料費・光熱費など日常生活の土台を支える部分を「生活扶助」という。当時の引き下げはこの生活扶助の基準を、平均6.5%・最大10%削るものだった。

引き下げの根拠として、二つの考え方が組み合わされた。

  • ゆがみ調整:生活保護世帯と一般の低所得世帯の水準を比べ、均衡を図るという整理
  • デフレ調整:物価が下がったのだから基準も下げる、という考え方(物価下落率として4.78%が使われた)

最高裁が違法と判断したのは主に「デフレ調整」だ。専門的な知見に基づく検討や手続きが欠けていたと認定された。一方で「ゆがみ調整」は違法とはされていない。


政府の対応は「追加給付」──ただし満額復元ではない

政府が示した追加給付は、「引き下げた分をそのまま全額返す」という設計ではない。

政府は、違法とされたデフレ調整(-4.78%)を撤廃する代わりに、当時の低所得世帯の消費実態を基にした別の調整(-2.49%)を用い、基準を組み直したうえで差額を支給する、という枠組みを採った。

支援団体や弁護士会からは「結局、減額の一部が残る設計ではないか」「-2.49%の根拠が分かりにくい」という批判が出ている。政府側は、専門的な検証を経て設定した水準を適用し、原告については特別給付金で別途調整するという説明をしている。


最大の摩擦点:訴訟に参加したかどうかで受け取り方が変わる

今回の枠組みで最も対立が大きいのが、原告と原告以外で扱いが分かれる点だ。

  • 原告(訴訟に参加した約700人):個別事情を踏まえたうえで、特別給付金が上乗せされる設計
  • 原告以外(約300万世帯が対象とされる):再計算で生じた差額の支給が中心

同じ期間に同じ引き下げの影響を受けていても、「裁判に参加したかどうかで救済の厚みが変わる」という構図に対し、日本弁護士連合会は対応策の撤回と全面的な補償を求める声明を出している。


追加給付の金額はどれくらいか

支給額は世帯の人数・構成・居住地・受給期間などによって大きく異なる。国のモデルケース試算では、1世帯あたり約0.5万円〜24万円程度と幅がある。単身世帯では「概ね10万円程度」を目安とする報道もある。

原告については特別給付金が加わるため、金額の見え方が異なる。あくまでも目安として参考にしてほしい。


「自分は対象? 何をすればいい?」──3つのケース別に整理する

ここからは実務として最も大切な「手続き」の確認だ。対象判定や必要書類の詳細は自治体ごとに運用差があるため、最終確認は必ず自治体窓口で行ってほしい。

ケース① いま生活保護を受給している

原則として自治体側がデータを基に算定・支給するため、自分から動かなくても支給される可能性が高い。ただし開始時期は「自治体の準備が整い次第、順次」とされており、自治体によってバラつきが生じる。自治体からの通知や広報、国が設置予定の相談センターの案内を確認しておこう。

ケース② かつて受給していたが、いまは受給していない(元受給者など)

こちらは自動ではなく、自治体への申出が必要になる。受付開始は2026年夏ごろからの見通しだ。当時の受給記録が手元にない場合も、申出内容と資料を自治体が確認しながら手続きを進める枠組みとなっている。受付開始の告知を待ちつつ、まず「いつから手続きできるか」を窓口に確認しておくと安心だ。

ケース③ 自分が対象かどうかわからない

国の説明では、追加給付の対象は「2013年8月〜2018年9月に生活保護を受けたことがある世帯」が基本とされている。ただし、自治体によっては2018年10月以降も特定の費目(入院患者日用品費・期末一時扶助・各種加算など)を対象に設定している場合がある。

2013〜2015年の引き下げ期間だけで判断せず、自治体の公式案内(ウェブ・広報・窓口)で「追加給付」「生活扶助基準」などのキーワードを確認し、不明であれば窓口に直接照会するのが確実だ。


支給スケジュールの全体像(2026年2月時点)

対象手続き時期の目安
訴訟の原告個別に対応2026年3月以降
原告以外・現在受給中原則、自治体が順次支給2026年度中を想定
原告以外・元受給者など自治体への申出が必要申出受付は2026年夏ごろ

対立は終わっていない──審査請求と再提訴の可能性

原告側は、今回の政府方針を「争いを全面的に解決した内容ではない」として、行政不服審査(審査請求)を行う方針を示している。審査請求とは、裁判の前段として行政機関に「この決定を見直してほしい」と求める手続きだ。それでも解決しない場合は、再び集団訴訟を起こすことも視野に入れているという。

追加給付が始まっても、制度設計の妥当性をめぐる対立が続く可能性は残っている。


今後ニュースを追うための3つの視点

自治体ごとの格差 「順次開始」は、裏を返せば自治体によって支給時期に差が出ることを意味する。相談センターの設置状況など、各自治体の実務対応が重要になる。

元受給者の手続き負担 2026年夏からの申出受付と、その後の資料確認の運用がどれだけスムーズに進むかが、救済の実効性を左右する。

“差のある設計”の行方 原告への特別給付金、そして-2.49%という再計算方式の妥当性は、審査請求や再提訴の場でも引き続き争点になり得る。


手続きの最短まとめ

  • 受給中の人:原則、自治体が順次支給(時期は自治体差あり)
  • 訴訟の原告:2026年3月以降、個別状況を踏まえて支給
  • 元受給者など:2026年夏ごろから申出受付 → 確認後に支給
  • 対象期間の確認:2013年8月〜2018年9月が基本だが、自治体の最新案内を優先する
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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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