「ビラ配りの日当1万円」がなぜ違法になり得るのか——選挙と”お金”の原則・例外・連座制

2026年2月、衆議院選挙に絡んだ逮捕のニュースが流れた。国民民主党から東京7区に立候補して落選した入江伸子容疑者(63)ら3人が、公職選挙法違反(買収)の疑いで警視庁に逮捕されたのだ。

「ビラ配りを手伝った大学生に、日当1万円を払っていた」——そう聞いて、「え、それの何がダメなの?」と疑問に思う人は出やすい。アルバイトで1日1万円はごく普通の話に聞こえるからだ。なぜそれが「買収」になるのか。今回はその疑問を入口に、選挙運動とお金にまつわる原則と例外、そして「連座制」という仕組みまでを整理していく。


table of contents

まず、今回の事件で報じられていること

報道によれば、入江容疑者らは公示後の先月下旬から今月上旬にかけて、ビラ配りなどの選挙運動の報酬として、10代・20代の大学生5人に現金計27万円を渡した疑いがある。

運動員の募集には、知人のマーケティング会社代表・菅原京香容疑者(25)が関わり、自社のインターン生などに「日当1万円」で選挙を手伝わせていたとみられている。さらに、その菅原容疑者が学生たちに「報酬の話は口外しないように」などと口止めしていた疑いがあることも、捜査関係者への取材で明らかになっている。

警視庁は、陣営が大学生や会社員など10人以上に少なくとも計45万円を渡していた疑いがあるとして、捜査を続けている。

国民民主党の玉木代表は記者団に対し、「事実関係が確定すれば除籍を含めた厳正な処分を行いたい」と述べた。


「選挙の手伝い=無報酬が原則」——なぜか

日本の選挙運動には、根本的なルールがある。選挙運動は、ボランティア(無報酬)が原則だということだ。

なぜそうなっているのか。それは、お金が介在した途端に「自発的な支持」が「金で買われた動員」に変わるリスクがあるからだ。お金を払えば多くの人を動かせるなら、資金力のある候補者が一方的に有利になり、選挙の公正さが崩れてしまう。

公職選挙法が「買収」を厳しく禁じているのは、そういう考え方に基づいている。買収とは、票や選挙運動への協力を得る目的で、金銭・物品・接待などを渡す(または約束する)行為を指す。「渡した」だけでなく「約束した」段階でも違反になり得る点が特徴だ。また、渡した側だけでなく、受け取った側も処罰対象になり得る。


「では、交通費も払えないの?」——払える例外がある

ただし、選挙運動に関わるすべてのお金が禁止されているわけではない。法律には「払ってよい例外」が限定的に設けられている。

大きく分けると次の2種類だ。

① 実費弁償(交通費など)

電車代やバス代など、実際にかかった費用を払い戻す形であれば、認められている。ただし、実費弁償にも法律・選管規程に基づく上限(最高額)がある。

② 限定された役割への報酬

「事務員」や「車上運動員(いわゆるウグイス嬢など)」など、法律で定められた特定の役割に対しては、上限額の範囲内で報酬を支払うことができる。

つまり、「どんな仕事をした人に、どんな名目で、上限の範囲内で払ったか」が判断の分かれ目になる。

ビラ配りは、こうした「例外枠」に入りにくい選挙運動の典型とされている。投票を呼びかけ、候補者への支持を広げるための行動に対価を付けることは、「金で選挙運動を買う」構図に直結しやすいからだ。今回の逮捕は、当局が”買収に当たり得る”として強い疑いを持っていることを示している。


「口止め」が示すもの

今回の報道で注目された点のひとつが、「口止め」の疑いだ。

もし実際に「報酬の話は口外しないように」と指示していたとすれば、それは「この支払いが問題になる可能性を認識していた」ことを示す材料になり得ると、捜査当局は見ているようだ。ただし現時点では「疑い」の段階であり、事実関係はこれから捜査で明らかにされる。


「連座制」——候補者本人が知らなくても制裁が及ぶ仕組み

今回の事件を理解するうえでもうひとつ押さえておきたいのが、「連座制」という制度だ。

連座制とは、候補者と法律上の一定の立場・関係にある者が買収罪などで有罪になった場合、候補者本人が直接関与していなくても、当選無効や将来の立候補制限などの制裁が科される可能性があるという制度だ。陣営の誰でもが対象になるわけではなく、法律上の一定の関係者が要件となっている。

「秘書(陣営スタッフ)がやったことで、私は知らなかった」という主張では逃げ切れないようにするための仕組みともいえる。選挙の公正を守るために、候補者側に重い責任を負わせる設計になっている。

今回は落選した事案であるため、当選無効という直接的な効果は生じないが、将来の立候補への影響など、制度上の論点が生じ得る。ただし、個別の適用については捜査・司法の判断によるため、現時点では断定しない。


大学生側はどうなるのか

「日当1万円をもらった側の学生は、どう扱われるのか」という疑問も当然出てくる。

買収は、渡した側だけでなく、受け取った側も処罰対象になり得るというのが法律の原則だ。今回も、報酬を受け取った大学生などについて「任意で捜査を進めている」と報じられている。ただし実際にどう扱われるかは、それぞれの関与度や認識などによって異なる。


まとめ——この事件の「3つの軸」

今回のニュースをひとことで整理するとすれば、「無報酬が原則の選挙運動に金銭を持ち込んだ疑いがある」というのが核心だ。

理解の軸は3つある。

  1. 原則:選挙運動は無報酬が基本。対価を払うと買収に近づく。
  2. 例外:払えるのは限定された役割・名目に限られ(上限あり)、ビラ配りは例外に入りにくい。
  3. 連座制:法律上の一定の関係者の違反が、候補者本人の立場にも制裁をもたらし得る。

今後の捜査では、支払いの実態(どんな業務の対価だったか)と、陣営内でどこまで違法性が認識されていたか(口止め指示の有無など)が焦点になるとみられる。


用語メモ

  • 買収(公職選挙法違反):票や選挙運動への協力を得る目的で金銭等を渡す・約束する行為。渡した側も受け取った側も違反になり得る。
  • 実費弁償:交通費など実際にかかった費用を払い戻すこと。選挙運動でも認められているが、上限がある。
  • 車上運動員:選挙カーの上から候補者名や政策を訴えるいわゆるウグイス嬢など、法律上報酬支払いが認められた限定的な役割のひとつ。
  • 連座制:法律上の一定の関係者が買収罪などで有罪になった場合、候補者本人が関与していなくても当選無効・立候補制限などの制裁が及ぶ制度。
Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents