「過去最大122兆円予算」の本当の意味──金利・教育・年収の壁・物流を4つの論点で読み解く

政府は2026年度(令和8年度)の一般会計予算案を国会に提出した。総額は122兆3,092億円と過去最大を更新した。総額だけを見ると「使えるお金が増えた」と受け取りがちだが、実態はもう少し複雑だ。増えているのは新しい政策に回したい支出だけではなく、高齢化や金利水準などを背景に「構造的に増えやすい支出」も予算を押し上げている。ここでは、そのメカニズムを4つの論点から整理する。


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まず押さえたい「3つの膨張要因」

予算案の中身を見ると、特に目立つ3つの費目がいずれも過去最大となっている。社会保障費が39兆559億円、国債の償還や利払いに充てる国債費が31兆2,758億円、防衛関係費が8兆9,843億円だ(なお防衛費は集計範囲の定義により数字の見え方が異なることがあるため、ここでは財務省資料の「防衛関係費」の数字を使っている)。これらを合計すると、予算全体の約65%を占める。

重要なのは、「政策として比較的動かしやすい支出」と「構造要因で増えやすい支出」を分けて考えることだ。社会保障費は高齢化の進行とともに増えやすい。国債費は過去に積み上がった国債残高と金利水準に左右され、金利が上がれば利払い負担も増えやすい。防衛費は中長期の整備計画に沿って増額が続いている。

一方で歳入(国の収入)側では、税収が83兆7,350億円と過去最大を見込む。企業業績の堅調さや賃上げによる所得増が背景にある。しかしそれでも歳出には足りず、新たに29兆5,840億円の国債を発行する。収入が増えても支出構造の重さは変わらず、国債への依存が続く――という構図が浮かぶ。


論点A:金利上昇で国債費が加速する──家計で言えば「ローン返済が重くなる」感覚

国債費は、国債の償還(元本返済)と利払いを含む。家計で言えば住宅ローンの返済に近く、景気の状況に合わせて増減できる性格のものではない。毎年一定の支出として発生する「固定費」だ。

これまでの日本は超低金利環境が長く続いたため、利払い費が抑えられてきた。ところが金利水準が上がると、新たに発行する国債の利率が高くなり、満期を迎えた国債を借り換える際のコストも上昇しやすい。日本銀行がマイナス金利の解除やイールドカーブ・コントロールの廃止に踏み切って以降、こうした借換コストが上がりやすい環境が続いている。今回の国債費が31兆2,758億円と過去最大になっているのは、その影響が財政コストに反映され始めたサインといえる。

国債費が膨らむと、教育や産業支援など「政策として配分したい支出」に回せる余地は小さくなる。財政の自由度が下がる、というのがこの論点の要点だ。金利上昇は国だけの話ではなく、住宅ローンや企業の資金調達コストにも波及するため、家計・企業・政府が同時に金利環境の変化に向き合う局面になっている。


論点B:教育無償化と給食費軽減──家計には「効く」、ただし制度設計で差が出る

今回の予算案には、家計を直接支援する政策も盛り込まれている。4月から実施予定の高校授業料の無償化と、給食費の負担軽減だ。文教・科学振興費は6兆406億円となり、こうした施策の費用が含まれている。

子育て世帯にとって、高校授業料は年間でまとまった負担になりやすい。給食費も、子どもの人数によっては毎月の支出差として効いてくる。高校の就学支援金は所得要件の見直しや私立の支給上限引き上げなどが論点になっており、適用範囲が広がるほど恩恵を受ける世帯も広がる。一方で、子どもの年齢・学校の種別(公立・私立)・所得要件の有無、自治体独自支援との重なり方で、実際の手取り増は家庭によって異なる。

財源の視点も欠かせない。教育無償化は家計支援として分かりやすいが、その財源は他の支出を抑えるか、税収増で賄うか、国債で賄うかのいずれかになる。「誰が、いつ負担するか」という問いは、制度の評価とセットで考える必要がある。


論点C:「年収の壁」見直し──人手不足解消を狙うが、決め手は税だけではない

「年収の壁」は、一定の収入を超えると税や社会保険料の負担が増えるため、扶養の範囲内に収まるよう就労時間を調整する現象を指す。パート・アルバイトで働く人に影響が大きく、人手不足の職場では労働供給の制約として意識されやすい。

壁は一つではない点が、この問題をわかりにくくしている。所得税・住民税に関わるライン(従来「103万円の壁」と呼ばれてきたが、改正議論を経て現在は178万円への引き上げ案などが俎上に載っている)に加え、社会保険料が発生するライン(106万円・130万円など)が別に存在する。

今回の税制改正は所得税側のラインを動かす内容が中心だが、社会保険のラインが残ったままでは、行動変化は限定的になる可能性がある。社会保険料は負担感が大きく感じられやすく、「税の壁は越えられても社保の壁で調整が続く」ケースが起きうるためだ。人手不足対策としての実効性は、税と社会保険の制度設計をどう整合させるかにかかっている。


論点D:燃料税の暫定税率廃止──物流経由で物価に波及するが、転嫁にタイムラグがある

税制関連法案には、軽油引取税の暫定税率を廃止する内容が含まれている。廃止時期は2026年4月1日の制度変更として理解するのが分かりやすい。暫定税率部分は1リットルあたり17.1円で、廃止されれば燃料コストを押し下げる要因になりうる。

軽油はトラック輸送や建設機械の主要燃料で、物流コストの一定部分を占める。軽油が下がれば運送業者のコストが下がり、運賃や燃料サーチャージを通じて商品価格へ影響する可能性がある。効果は全国に比較的広く波及しうる点が特徴だ。

ただし、価格への反映には時間差が生じやすい。契約の更新サイクルや業界慣行により、燃料コストの変化が運賃や小売価格に移るまでにはタイムラグがある。「4月から即座に物価が下がる」という期待は、実態と少しズレる可能性がある。また、暫定税率の廃止は税収減を伴うため、その穴埋めをどうするかは中長期的な財政運営の論点として残る。


政治日程:中身より先に「時間」が争点になりやすい

予算案が提出された今、焦点は年度内(3月末まで)に成立するかどうかに移る。会計年度は4月1日に始まるため、予算成立が遅れると「暫定予算」でつなぐ必要が生じ、自治体の事業計画や現場の執行に影響が出やすい。これが与党が年度内成立を強く求める理由の一つだ。

与党は年度内成立を目指す姿勢を示し、野党は「史上最高額の予算案を短期間で通すのは適切ではない」として審議時間の確保を求めている。教育無償化、年収の壁見直し、燃料税の暫定税率廃止といった家計に直結しやすい政策も、予算と関連法案が成立して初めて実施に移る。内容の評価と同時に、審議日程そのものが現実的な争点になっている。


まとめ:122兆円予算の本質は「構造コスト増」と「家計に効く政策の混在」

今回の122兆円予算は、単純な拡張か緊縮かで割り切れない。金利上昇に伴う国債費、高齢化に伴う社会保障費という構造要因の重さを抱えながら、教育無償化、年収の壁見直し、燃料税の暫定税率廃止など、家計や労働市場・物流コストに影響しうる施策が並ぶ。

整理すると、国債費は財政の「固定費」的な性格を強め、将来の政策余地を圧迫しやすい。教育無償化は家計支援として分かりやすい一方、恩恵の大きさは制度設計と世帯の条件で差が出る。年収の壁は税だけでなく社会保険を含む複数のラインが行動を左右する。燃料税は物流を通じて幅広く波及しうるが、転嫁には時間差がある。

総額の大きさよりも、こうした「増え方」と「効き方」の違いを見分けることが、この予算案を読み解く近道になる。

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Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

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