🌏 台湾はなぜ「自分たちは中国ではない」と言うのか-ミュンヘン会議での応酬が映す、130年の歴史

table of contents

💬 「中国こそが真の脅威」──台湾外相の強い反発

2月15日、台湾の林佳竜外交部長(外相に相当)が異例の強い言葉で中国を批判した。前日にドイツで開かれたミュンヘン安全保障会議で、中国の王毅外相が「一部の国が台湾を中国から分離させようとしている」と警告し、台湾をめぐる緊張について日本を名指しで非難したことへの反論だった。

林氏は声明でこう述べた。

中国こそが安全保障に対する真の脅威であり、国連の平和原則を堅持していると偽善的に主張している」
「歴史的事実、客観的現実、国際法のいずれから見ても、台湾の主権が中国に属したことは一度もない

なぜ、これほど強い言葉が飛び交うのか。そしてなぜ日本が巻き込まれているのか。その背景には、130年に及ぶ複雑な歴史がある。


📜 台湾は、もともと誰のものだったのか?

台湾をめぐる対立を理解するには、まず「台湾がどんな歴史を歩んできたか」を知る必要がある。

16世紀まで、台湾には現地のマレー系の人々がまばらに暮らしていた。17世紀にオランダが交易の拠点として台湾を支配し、その後、明の遺臣、清朝へと支配者が変わっていく。

ただし、清朝は台湾の統治にあまり関心を示さなかった。そのため、1895年の日清戦争で日本に敗れると、清はあっさりと台湾を日本に割譲した。

高市早苗編著『国力研究』では、この時の経緯をこう整理している。明治憲法や教育勅語を起草した井上毅という人物が「欧米列強が台湾を取る前に、日本が戦略的拠点として確保すべきだ」と主張したという。「井上毅がいなければ、台湾は中国か別の国の島になっていた」と同書は指摘する。


🏫 日本統治50年が、台湾を変えた

日本は台湾を植民地として統治したが、その統治の仕方は他の列強とは異なっていた。電気、ガス、上下水道などのインフラを整備し、教育を普及させた。**日本語の識字率は92%**に達し、台北帝国大学は大阪大学や名古屋大学よりも先に設立された。

台湾の人々は「一度、日本人になった」のである。

1945年、日本の敗戦により、台湾は中華民国(国民党政権)の統治下に入る。しかし、ここで台湾の人々は大きな違和感を抱くことになる。


🐕🐷 「犬が去って豚が来た」──よそ者がやってきた

1949年、中国本土で共産党に敗れた蒋介石率いる国民党が、200万人規模で台湾に逃れてきた。台湾の人々から見れば、彼らは「よそ者」だった。

近代化された台湾に、近代化されていない兵士たちが大量に流入した。『国力研究』には、こんなエピソードが紹介されている。

「国民党の兵士は蛇口を買ってきて壁に刺し『水が出ない!』と怒ったという有名な話がある」

台湾の人々は「犬(日本)が去って豚(国民党)が来た」と嘆いたという。

さらに1947年、台湾人による暴動が起きた際、国民党は数万人を虐殺した。蒋介石は厳しい独裁を敷き、「大陸反攻(中国本土の奪還)」を目論んだが、台湾の発展には関心が薄かった。

台湾の人々にとって、国民党も日本と同じ「外から来た支配者」だったのである。


🗳️ 李登輝の静かな革命──民主化と台湾人の目覚め

転機は1980年代後半に訪れる。蒋介石の息子、蒋経国が台湾経済の発展に道筋をつけ、台湾出身(本省人と呼ばれる)の李登輝を引き上げた。李登輝は当初、お飾りのナンバー2だったが、蒋経国の死後、トップに躍り出る。

李登輝の凄さは、ここから国民党内で権力闘争を行い、大陸から来た人々(外省人)を抑えて本省人の力を伸ばしたことだ。彼は台湾人を国民党に引き入れ、内側から国民党を変革した。そして1996年、初の総統直接選挙に打って出て、民選の総統となった。

その後、本省人を代表する**民主進歩党(民進党)**が台頭する。民進党の主張は明確だった。

「台湾人は1945年まで中華民国国民であったことはない。1949年に成立した中華人民共和国とは全く関係がない」

日清戦争後、130年間も異なる歴史を生きてきた台湾の人々は、今や自由な民主主義社会を築き、「自分たちは自分たちだ」というアイデンティティを強く持つようになったのである。


🇯🇵 日本はなぜ「当事者」になったのか?

今回のミュンヘン会議で、中国の王毅外相は台湾をめぐる緊張について日本を名指しで批判した。なぜ日本が標的になったのか。

背景には、高市早苗総理の発言がある。国会答弁で、立憲民主党の岡田克也氏から台湾有事について問われた高市氏は「台湾海峡の平和と安定は日本の安全保障に直結する」という趣旨の発言を行った。中国はこれを「内政干渉」「戦後秩序への挑戦」と受け止め、強く反発している。

ただし、高市総理のこの認識は唐突なものではない。『国力研究』でも指摘されているように、台湾は地理的に日本のシーレーン(海上交通路)の要衝にあり、台湾で何が起きるかは日本の安全保障に直結する。高市総理の発言は、こうした歴史的・地政学的理解に基づいたものだった。

しかし中国側から見れば、日本が台湾問題に言及すること自体が許せない。中国にとって、台湾問題は「核心的利益」であり、外部の介入を一切認めない姿勢を貫いている。


⚠️ 中国はなぜ、これほど台湾を恐れるのか?

では、なぜ中国はここまで台湾にこだわるのか。

一つは、台湾の規模である。 人口約2300万人、経済規模はG20クラスでオーストラリアと変わらない。もし台湾が独立すれば、それは中国にとって大きな打撃となる。

もう一つは、連鎖への恐れである。 台湾が独立を認められれば、新疆ウイグル自治区、チベット、内モンゴルなど、独立志向を持つ地域が動き出しかねない。台湾の独立は、中国共産党にとって「実存的危機」なのだ。

1996年、台湾で初の総統直接選挙が実施される際、中国はミサイルを撃ち込んで威嚇した。しかしアメリカの空母が出動したため、中国は引き下がった。この屈辱以来、中国は台湾海峡に1000発以上のミサイルを配備し、アメリカの空母を近づけさせない体制を築いている。

中国の戦略は明確だ。中華民国を掲げる国民党は懐柔し、独立志向の民進党は潰す。 2024年に民進党の頼清徳が総統に就任すると、中国は大規模な軍事演習を行い、「頼清徳が頑張りすぎると戦争になるぞ」と威嚇した。


🔄 威嚇すればするほど、台湾の心は離れていく

しかし、ここに逆説がある。

中国は共産党の一党支配国家であり、政府が国民を叱れば国民は引っ込む。中国政府は同じ論理で台湾に対しても威嚇する。しかし台湾は民主主義社会だ。威嚇されればされるほど、人々の反発は強まる。

『国力研究』はこう指摘する。

「中国が台湾を威嚇すればするほど、民主主義を掲げる台湾人の心は中国から離れていく。いま、中国の大軍拡の傍らで、台湾人のアイデンティティが高まるという事態が起きている」

林外交部長の「中国こそが真の脅威」という発言は、まさにこの文脈で理解できる。中国は「国連憲章を守る」と主張しながら、実際には軍事演習や威嚇を繰り返している。台湾側から見れば、それは「言行不一致の偽善」に映るのだ。


🌍 世界はどう見ているか?

この対立を、世界のメディアはどう報じているのか。

欧米の中立的なメディア(ロイターなど)は、中国と台湾双方の主張を並置する形で報じている。一方、中国系メディア(新華社、China Dailyなど)は「日本が危険な動きをしている」「戦後秩序への挑戦だ」というトーンで報じる。

台湾側は一貫して「台湾の主権は中華人民共和国に属したことはない」「台湾の将来は台湾の人々が決める」と主張している。

国際政治の専門家たちは、台湾問題を「米中対立の火種」として注視している。台湾をめぐる緊張は、もはや台湾と中国だけの問題ではなく、世界秩序全体に影響を及ぼす問題となっている。


🤔 あなたにとって、なぜこの問題が大切なのか?

「台湾問題は遠い国の話」と思う人もいるかもしれない。しかし、それは私たちの生活に直結している

💻 半導体問題
台湾は世界の半導体生産の中心地であり、あなたが使っているスマートフォンやパソコンの多くが台湾製の半導体を使っている。もし台湾海峡で軍事衝突が起きれば、世界経済は大混乱に陥る。

🚢 シーレーン問題
そして日本にとって、台湾有事は「日本有事」でもある。台湾海峡は日本のシーレーンの要衝であり、エネルギーや食料の多くがこの海域を通って運ばれてくる。

⚖️ 価値観の対立
台湾問題は、民主主義と権威主義という価値観の対立でもある。自由な選挙で指導者を選ぶ台湾と、一党支配を続ける中国。どちらの未来を支持するのか──それは、私たち一人ひとりに問われている問いでもある。


130年の歴史が積み重なった今、台湾の人々は「自分たちは自分たちだ」と静かに、しかし強く主張している。その声に、私たちはどう応えるのか。答えは簡単ではない。しかし、少なくともその歴史を知ることから、理解は始まる


📚 ※本稿は高市早苗編著『国力研究』(産経新聞出版、2024/8/30)を一部参考にしています。


(完)

Please share it if you like!

Person who wrote this article

CFP®/Level 1 Financial Planning Technician
Certified by the Japan Securities Analysts Association
・Primary Private Banker
・Asset Formation Consultant
Certified by the Financial and Financial Situation Study Group
・NISA Trading Advisor

table of contents